ヒト遺伝子想定的生活様式実践法

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肝障害はどこに隠れたのか? (5/5)

2013年08月03日 |  症例(その他)

 前回(ココ)からの続きで最終回だけど、少しマニアックな内容になる前に、某掲示板でみかけたものを貼っておこう。

662 :地震雷火事名無し(空):2013/07/30(火) 17:49:35.46 ID:hGB4g9EX0
    541 :本当にあった怖い名無し:2013/07/30(火) 00:53:42.42 ID:TOXUyJeL0
    関東の人は
    最近はみんな手のひらが
    まっ赤だよ。
    急に肝機能わるくなったんだと思う。

663 :地震雷火事名無し(空):2013/07/30(火) 17:52:44.20 ID:hGB4g9EX0
    552 :本当にあった怖い名無し:2013/07/30(火) 02:05:08.93 ID:TOXUyJeL0
    おれはもともと
    肝機能よわいから
    日頃から手のひらの色をみて
    ふつうのはだ色のときは
    仕事帰りに酒をのんだり
    赤みがかっているときは
    そのまま家に帰ってゴロゴロするようにしてたんだ
    眼の錯覚だと困るから電車に乗った時なんかは
    まわりの人の手のひらと、自分の手のひらの色を
    日頃から見比べるクセがついていた。
    最近はいつも赤いんだ。
    まわりの人も赤い。
    みんな手のひらだけ赤いんだ
    本来なら肌色のはずなのにー。
    おれの見間違いならいいけどー


 手のひらが赤くなるのは手掌紅班といわれているが、やはり先ずは肝機能の異常が疑われるのだろう。医学書院のサイトの記事から、

手を見て気づく内科疾患 第19回テーマ - 手掌紅斑,多彩な鑑別疾患
http://www.igaku-shoin.co.jp/misc/medicina/shikkan4707/

 手掌紅斑は,肝疾患,妊娠で比較的観察されやすく,主として母指球,小指球に生じる血管拡張性の病変です.
  [中略]

 手掌紅斑を認めたら,肝機能の可能性の評価はしたほうがよいでしょう.


 肝機能の異常で手が赤くなるのは、肝臓での分解能力が低下し分解されずに残った女性ホルモンが血中に増えることが関与しているらしい。コトバンクから、

皮膚の変化をもたらす病気(デルマドローム)
http://kotobank.jp/word/%E7%9A%AE%E8%86%9A%E3%81%AE%E5%A4%89%E5%8C%96%E3%82%92%E3%82%82%E3%81%9F%E3%82%89%E3%81%99%E7%97%85%E6%B0%97%EF%BC%88%E3%83%87%E3%83%AB%E3%83%9E%E3%83%89%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%A0%EF%BC%89

◎肝臓疾患がもたらす皮膚の変化
 肝臓と皮膚病変も深い関連があります。つぎのようなものが有名です。
  [中略]

■手掌紅斑(しゅしょうこうはん)、くも状血管腫(じょうけっかんしゅ)
 肝臓病のときには、血管が広がる症状がでやすくなります。血液中にエストロゲンというホルモンが増えるためというのが、原因の1つと考えられています。手のひらが赤くなる手掌紅斑、小さな傘(かさ)を開いたような形の血管拡張症であるくも状血管腫がみられます。また、男性の乳房が大きくなる女性化乳房もみられます。


 ついでに手掌紅斑の写真は、例えば、「整体テアテマンドール」(札幌市所在)のサイトの記事にあるものが参考になるだろう。

手が赤いのは肝臓が良くない http://teatejp.net/page002.html (写真あり)


 さて本題に戻ると、前回記事(ココ)では、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の発症ついてはツー・ヒット・セオリーが多数説になっているはずなのだが(詳しくは前々回記事ココ)、テレビ番組「ためしてガッテン」では脂肪肝→肝臓がんを強調した、いわば「ワン・ヒット・セオリー」のような解説になっていた点を眺めてみた。

 「ワン・ヒット・セオリー」の怪しさは、ツー・ヒット・セオリーを詳細にみていけば浮き上がってくるものと思われる。前々回記事のツー・ヒット・セオリーを図解して絵で第2ヒット目の「酸化ストレス」部分に「過酸化脂質、サイトカイン、鉄」とあったので、この点をそれぞれみていこう。


 先ずは、過酸化脂質について。健康な状態でも脂質は血液中を流れているし、ましてや脂肪肝ともなれば肝臓内にも脂質が多い状態になっている。そこへ酸化ストレスが亢進した状態になると、脂質が酸化され過ぎたもの(過酸化脂質)が増加し、脂質として期待される本来の機能が果たせなくなるものが増加するわけである。いわば、料理でも使い古した油だと揚げ物がカラッとは揚がらないここと似たような現象が体内の生化学反応で起きるといえるだろう。

 この点は「ためしてガッテン」でも指摘されていたが、溜まった過酸化脂質はミトコンドリアに悪さをするらしい。この点については、西原利治氏(高知大学医学部第一内科助教授、2004年時)の講演録を「はざま医院」(愛知県所在)のサイトから、

非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)が街にやってくる
http://www.hazamaiin.com/nash.html

8. 酸化ストレスとNASH
  
肥満になると高脂血症を生じ酸化ストレスが誘発され動脈硬化を生じ易くなる.しかし肥満は血管にのみ障害を起こすのではない.肝細胞自体にも酸化ストレスを生じてくる.そしてミトコンドリアに過酸化脂質が大量に集積して,その結果,肝細胞のミトコンドリアが非常に膨化し巨大ミトコンドリアとなり,内部に類結晶様封入体が見られようになる.このようなミトコンドリアでは機能はほとんど失われており,細胞も死んでいくしかなくなる.普通の肝炎で見られるようにウイルスに対する免疫によって肝細胞が死ぬ場合,肝細胞の破壊に伴ってAST,ALTの上昇が見られる.一方,NASHのような代謝性疾患でミトコンドリア機能が低下してアポトーシスと呼ばれる細胞死を生じる場合,マクロファージが死んだ細胞を処理し消えていくような死に方をとる.一部,マクロファージが貪食し損なった細胞が破裂するだけである.したがってAST,ALTの上昇はごく軽度に留まる.そのような場合こそNASHを疑わなければならないのである. (強調は引用者)


 ミトコンドリアは巨大になるなど機能低下が著しいと自殺死(アポトーシス)のスイッチが入るらしい。この場合は、免疫系が関与し炎症反応に伴って細胞死がおこるのとは少し違っているようである。ここで思い出すべきものは、このシリーズの冒頭(ココ)で触れたバンダジェフスキー博士による次の講演内容なのであろう。

- 炎症を伴わない肝障害がある


 なお、このタイプは観念的に言えば肝炎ではないので、NASH(非アルコール性脂肪性肝炎)ではないのかもしれない。しかし、肝細胞の損傷が進んだり、何らかの感染があったりすれば炎症反応も起きてくるだろうから、実際に意味のある区別となるかは別問題であろう。


 「ミトコンドリアに過酸化脂質が大量に集積」する理由は不明だけど、個人的には次のようなものではないかと推測している。生体膜というのはリン脂質の膜からできているため酸化ストレスの影響を受け易いので、ミトコンドリアの外膜又は内膜(前回記事ココの図2参照)が酸化ストレスで損傷することが関与しているのではないかと思われる(ミトコンドリアは2層の膜構造によって物質の濃度勾配を作りエネルギーを作り出しているので、膜が損傷すると問題となる)。また、ミトコンドリはエネルギー生産工場であり、自殺死するのではなく仮に何らかの暴走が起きると大きな問題になると思われる。ちなみに、ミトコンドリアでは通常の呼吸の際にも酸素の2%程度が活性酸素になっているといわれている。


(注)過酸化脂質の集積の影響とミトコンドリア膜の損傷の影響とのどちらが大きいのかは不明だけど、仮に過酸化脂質の集積の影響より膜の損傷の影響の方が大きいとすれば、「脂肪肝を伴わない肝障害」という分類項目の下にも何かが隠れていることになるのかもしれない。この点は全くよく分からないので今後の課題ということにしておこう。


 ついでに、講演録の引用に出てきた「AST」と「ALT」は、肝機能マーカーに使われている肝細胞にある酵素(アミノ基転移酵素)のことで、それぞれ次の略称である。

(1) アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(aspartate aminotransferase、AST。
かつてはGOT(Glutamic Oxaloacetic Transaminase、グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ)と呼ばれていた)
(2) アラニンアミノトランスフェラーゼ(alanine aminotransferase、ALT。
かつてはGPT(glutamate pyruvate transaminase、グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ)と呼ばれていた)

 この辺りについて詳しくは、例えばサイト「NewtonDoctor」の記事を参照してほしい。

検査数値あれこれ - 肝臓が心配な人は注意 GOT(AST)-GPT(ALT)
http://www.newton-doctor.com/kensa/kensa02a.html


 次は順番が前後するけど、鉄について。鉄分は人体にないと困るけど、余りあるほどあっても困りものであるらしい。あり過ぎて病的なものは鉄過剰症(ヘモクロマトーシス)にあたり、その解説についてはgooヘルスケアから、

ヘモクロマトーシス http://health.goo.ne.jp/medical/search/10I20400.html

ヘモクロマトーシスとはどんな病気か

 先天的または後天的な原因によって、体内貯蔵鉄(健康な人の体内鉄含量は1~3g)が異常に増加し、肝臓、膵臓、心臓、皮膚、関節、下垂体(かすいたい)、精巣などの諸臓器の実質細胞に過剰に沈着し(鉄蓄積症(てつちくせきしょう))、その結果それぞれの臓器の実質細胞障害をもたらす病気です。
 その成因の違いから、原発性(特発性)と続発性(大量輸血、鉄剤・食事鉄の過剰摂取、無効造血、アルコール多飲、肝硬変など)とに分けられます・・・

原因は何か
  [中略]

 続発性ヘモクロマトーシスは、後天性にさまざまな病気や生活習慣などにより、鉄剤の過剰投与、鉄の過剰摂取などが原因となって引き起こされます。
 鉄は、血液中では鉄移送蛋白のトランスフェリンと結合していますが、その多くは貯蔵鉄であるフェリチン、ヘモジデリンとして肝臓、膵臓、心筋、皮膚をはじめ諸臓器の細胞内に存在しています。
 HFE遺伝子は、トランスフェリンレセプター(受容体)との間に相互作用があり、トランスフェリンとの親和性を阻害していますが、HFE遺伝子の突然変異があるとその相互作用がなくなり、鉄の過剰状態が起こるとされています。
 細胞内の鉄過剰が起こると、蛋白質に結合していない遊離の鉄が増加し、この遊離鉄がヒドロキシラジカル、アルコキシラジカル、パーオキシラジカル等の反応性の高い活性酸素分子種の形成を促進します。これらの活性酸素分子種が細胞内小器官の膜脂質の過酸化をもたらし、その機能を障害すると考えられています (強調は引用者)


 鉄が過剰にあると、何らかの原因で産生された活性酸素が毒性の高いもの(ヒドロキシラジカルなど)に変化しやすいので、上述した過酸化脂質の経路での肝傷害が起こりやすいここととなると考えられる。


 ラストは、サイトカインについて。サイトカインは免疫系の情報伝達物質のことで、これは炎症を伴う肝障害につながるもである。この点については、多分次のようなメカニズムなのであろう。横浜市立大学のサイトから、

附属病院 消化器内科 中島 淳教授らの研究グループが、肥満による脂肪肝炎発症のメカニズムを解明
2012.07.04
http://www.yokohama-cu.ac.jp/univ/pr/press/120704_amedrc.html

主要な研究成果

健康な肝臓では腸内から侵入してくるごくわずかの細菌毒素に関しては無反応で炎症をおこすことはないが、肥満状態では脂肪組織からホルモンの一種であるレプチンが多量に分泌され、肝臓のクッパー細胞(Kupffer細胞)上に転写因子の一種STAT3活性化を介して細菌内毒素(endotoxin)の共受容体CD14の発現を亢進させます。この結果肥満状態では通常は炎症をおこさないごくわずかの細菌毒素に対してCD14により過剰反応をきたしKupffer細胞は活性して炎症性サイトカインを産生し肝炎を発症することを明らかにしました。

  [中略]



用語解説
  [中略]

レプチン:脂肪組織から産生されるホルモンで食欲抑制作用を有する。食事をするとレプチンが産生され脳に働き食欲が低下する。しかしながら肥満者ではこのホルモンが何らかの理由で作用しなくなりレプチンが多量に分泌されているが食欲の抑制が起こらない高レプチン血症になっている。レプチンは細胞上の受容体 ObRを活性化してその下流の転写因子であるSTAT3を活性化することが知られている。


 この研究報告を踏まえると、サイトカインが関与する病気の流れとしては、次のような感じと推測される。なお、クッパー細胞は、マクロファージ(白血球)の一種である。

肥満 →脂肪肝化とレプチンの多量分泌 → クッパー細胞の活性化亢進 →微量毒素に応答し炎症性サイトカイン産生 →適切な炎症水準を超えて白血球の過剰集中・活動 →組織障害


 白血球の過剰集中・活動で過ぎた炎症を起こし組織障害するというのは、過去の記事で触れた顆粒球増多による組織障害と類似した状況なのであろう(詳しくは交感神経の優位と粘膜・組織破壊 (1)  2012/5/13)。その際には多分、白血球の産生する活性酸素が関与ているものと考えられる。


 以上をなんとなく理解すれば、とりあえず「ためしてガッテン」の「ワン・ヒット・セオリー」的な解説はおかしいと思えてくるのではないだろうか。


 終わりに近づいたので、チェルノブイリに関する少しまともな資料を置いておくと、ウクライナ政府報告書("Twenty-five Years after Chornobyl Accident: Safety for the Future"、2011年)から、

3.4.4. Pathology of the digestive tract
 [中略]

From the second decade after the accident a marked increase in the number of detected cases of chronic hepatitis and cirrhosis was noticed. Between 1992–2009 among the 2,881 CER patients suffering from chronic hepatitis, 70 cases of liver cirrhosis were found. The most numerous group in the nosological structure of chronic diffuse liver diseases were non-alcoholic steatohepatosis (50.0 %) and steatohepatitis (36.6 %). Changes in functional state of the liver were more prominent in clean-up workers with large doses of radiation. A direct correlation was found between the level of absorbed radiation dose and the activity of gamma-glutamiltranspeptidase (r = 0.6, p<0,02), alanin aminotransferase (r = 0.39, p<0,02), glucose concentration (r = 0.5, p<0,03) in serum (Fig. 3.87). (同報告書167頁。訳はそのうち・・・)


 最後に、今年に入ってからの肝臓関連の報道だと次のようなものがあったけど、何故「中高年女性」が巻き込まれる必要があるのだろうか。2011年「人間ドックの現況」によれば(この資料の詳細については過去記事ココ)、肝機能異常の割合は、例えば中年だと女性は男性より2割前後低いのだが・・・(40代で男性42.2% vs 女性17.8%、50代で男性43.0% vs 女性16.2%)。食べて応援だからだろうか、●の影響は性差が関係ないからだろうか。うーん、よく分からないな。「Infoseek楽天 ニュース」から、

「肝機能異常」増加 メタボ男性だけでなく中高年女性も注意
NEWSポストセブン(2013年3月22日16時00分)
http://news.infoseek.co.jp/article/postseven_177872

 しかしこの時期、活躍してくれるはずの肝臓にトラブルが多発している。日本人間ドック協会によると、2011年に人間ドックを受診した約313万人について、「異常なし」の人の割合は、過去最低の7.8%。また、生活習慣病に関係する項目で、最も多いのが「肝機能異常」の33.3%。異常がある人の3人に 1人が、肝臓に問題を抱えていることになる。・・・

 
 おまけで全く関係がないけど、そういえばこの方の死因が肝硬変だったと思い出した。「アサ芸+」の記事から、

浅田真央 母が残した「娘への遺言」(1)娘には好きなことをやらせたい
2012年1月2日
http://www.asagei.com/3163

 それは突然の訃報だった。12月9日、肝硬変のため、浅田真央(21)の実母である匡きょう子こさんが急逝したのである。享年48。あまりにも早すぎる死だった。・・・


 いろいろ繋がってきた気もするが、バテバテの中ここまで書く気力がでたのはバンダジェフスキー博士の講演おかげだろう。感謝。


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