*追い詰められた漁民が始めた海賊行為
2011年3月5日の深夜、商船三井のタンカー「グアナバラ号」が4人の男たちに襲撃された。
男たちは自動小銃を発射しながら、アラビア海を航行中のグアナバラ号に小型ボートで近づき、
船に乗り移った後、操舵室に押し入って操縦ハンドルを握ったという。
知らせを聞いたアメリカ海軍とトルコ海軍の艦艇が急行し、男たちを拘束して乗っ取りは未遂に終わった。
この時の犯人は日本で裁判にかけられ、そのニュースは東日本大震災で混乱していた日本でも大きく報道された。
彼らこそ「ソマリアの海賊」と呼ばれる犯罪集団の一員なのである。
ソマリア沖の海賊は、もともとその海域で漁業を生業にしていた人たちが、生活に困窮して海賊行為を行うようになったのが始まりとも言われている。その背景には、1990年代にソマリア軍部が欧米企業と結んだある条約がある。ソマリア沿岸に産業廃棄物の投棄を認めるというものだ。その結果、沿岸には毒性の高い廃棄物や放射性物質などを含んだあらゆる産業廃棄物が捨てられるようになったのである。当然、海は汚染され、もともと輸出を目的として漁を行っていたソマリアの漁民たちは魚を売ることができなくなった。
そして生活に困った彼らの一部が海賊行為に走るようになってしまったというのだ。
*各国の軍隊に狙われる
彼らはロシア製の自動小銃AK-47やロケットランチャーで武装している。
組織化されており、高速ボートでタンカーや貨物船を襲撃する。彼らの主な目的は殺戮ではなく、
人質を取って貨物会社から身代金を取ることだ。
世界銀行の発表によれば、2005~2012年の間に4億㌦近くの身代金が支払われた。
その為、人質は手荒に扱われることは少なかったのだが、国際社会からの締め付けが強まるにつれてその手口も荒っぽくなって行った。そして各国の海軍による海賊への攻撃も激しさを増して行くのである。2011年には韓国海軍によって海賊8人が射殺され、5人が拘束された。2012年にはEUの海軍部隊がソマリア沿岸部にある海賊の拠点を空爆し、海賊側は人質の殺害を警告した。
同年12月にはパナマ船籍の「MVアイスバーグ1」の人質が2年半ぶりに救出されたが、この乗っ取り事件では、24人の人質のうち1人が海賊に殺害されたという。またロシア海軍も駆逐艦を投入して海賊への攻撃を行っている。
*広域化・凶悪化する海賊たち
ただし、ソマリア沖の海賊は現状では明らかな減少傾向にある。
防衛省によれば、2011年の海賊事案の発生発生件数は237件、2013年は15件で過去最少となっている。
これは各国の海軍などによる監視が功を奏した結果だといえる。
圧倒的な軍事力を持つ海軍の前では海賊たちも船を襲撃することができないのだ。
とはいえ、実は海賊に対してはそれを裁く明確な国際法が存在しない。仮に捕らえたとしても身柄の扱いが難しく、そのまま置き去りにするケースも多い。海賊たちを何処でどの様に裁くのか、はっきりとしたルールがなく、例えソマリア沖から海賊が姿を消したとしても、彼らの活動拠点が移動したに過ぎないのだ。現在最も危険なのはアフリカ大陸の西側、ギニア湾だという。手口はより凶悪化し、殺害される人質も多い。海賊を取り締まる抜本的な国際法が成立しない限り、果てしなく広がる海の何処かが新たな危険海域になってもおかしくないのである。
*画像
海賊の容疑で収監されたソマリア人容疑者
イギリス海兵隊による不審船の取り締まりの様子
この時は13人が逮捕された
本当に恐ろしい地下組織
力で人を制圧する反社会集団