伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

放射化学概論[第3版]

2013-04-12 20:21:09 | 自然科学・工学系
 「放射能や放射性元素の分離・測定を行い、また放射能の起源やその効果を明らかにする分野」と定義される核化学または放射化学の基礎と応用を解説した教科書。
 福島原発事故後に改訂されたこの第3版のはしがきでは、「科学技術の応用には光と影の部分があると言われているが、原子核や放射線の利用においてもリスクとメリットの両面がある」と書かれています。初版、第2版ではこのような記述は影も形もなかったことからすれば、どのような「リスク」の記載がなされたのか興味深いところですが、原子炉のところに「注」としてチェルノブイリ事故、福島事故、スリーマイル事故、ウラルの核惨事、JCO事故についての記載が見られるほかには、放射性物質の危険性を想起させる記載はないに等しいように思えます(推進側の文献にいつも見られるように、200mSv以下の線量では臨床症状が確認されていないと書かれています:76ページ)。
 放射性物質を研究し応用する放射化学には、原子炉以外に様々な領域があり、そちらに大きな有用性があるということに目を向けさせて放射化学が生き延びたいという意向と、福島原発事故は注でサラッと触れただけで核燃料サイクルや核融合炉の推進をいう原発についてさえ実はまったく反省していない姿勢が見えます。
 内容的には、放射能測定や分析の領域が興味深く読めました(事故等の度に放射能測定や分析・同定のミスや時間がかかることの言い訳を原子力関係者から聞かされますが、そのあたりの事情が少し見えるという程度ですけど)が、測定値が1回しかないときの信頼性の評価で測定値の平方根を標準偏差として付記する(99ページ)っていうのはどうなんでしょう。標準偏差は多数の測定値があり、その平均値に対して求められるものであり、また平均値との関係で意味があるもののはず。1回しか測定していない測定値は、多数回測定すれば求められる平均値からどれだけずれているかわからないのだから、そのズレがその測定値の平方根に収まる保障はありません。仮に多数回測定した場合の平均値がその1回の測定値とその平方根の幅に収まっていたとしても、1回の測定値±測定値の平方根は、平均値±標準偏差とは意味が大きく異なるはずです。1回の測定値の平方根を「標準偏差」と称して、あるいはそのように見せかけて発表することは誤解を呼ぶことになると思います。こういうことを平気で言える人を、私は信用したくないと思いました。


富永健、佐野博敏 東京大学出版会 2011年11月24日発行 (初版は1983年)

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