伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

天国はまだ遠く

2008-09-08 21:56:31 | 小説
 営業成績が伸びず職場に居づらく感じて自殺を決意した保険会社営業担当の23歳千鶴が自殺を図るが失敗し、寂れた集落の民宿の男田村との交流で心を癒され少しずつ歩み始める傷心自殺未遂回復パターンの小説。
 2004年の作品ですが、映画化を機に読んでみました。
 千鶴は、単に仕事がうまく行かないことから、職場の人間関係も自分から気詰まりに感じていき、ささいなことに次々落ち込んでいって、自殺を決意します。率直に言って、こんなことで自殺してたら命がいくつあっても足りないし、笑い飛ばすか開き直ってたくましく生きるのが成長ってもんじゃないかと思います。そして、北の日本海の暗いイメージを求めて丹後半島に行って寂れた集落の民宿に行って自殺を図ります。この「北」「日本海」というのもいかにものステレオタイプのイメージで、千鶴の思考の安直さが示されています。
 作者はあえてそういう設定をし、最果ての駅の意外なにぎやかさ、睡眠薬を飲んで2日後の爽快な目覚めで、千鶴の思い込みを戯画化し、もう死ねないと悟らせます。そう行けばもう立ち直るしかないのですが、そこからをカメのような歩みで千鶴の心の変化を描いていきます。
 千鶴の思いを突き放さず、千鶴と田村の関係も千鶴の立ち直りも進みそうで進まず、ラブコメになりかけてはそうもならずといった調子で、ホワンとした眼差しで話が進み、締めくくられます。千鶴のようなタイプの主人公に温かな視線を送りたい読者には、ほどほどの温かさのハートウォーミングストーリーというところでしょう。


瀬尾まいこ 新潮文庫 2006年11月1日 (単行本は2004年)

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