伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

わたしは広島の上空から地獄を見た エノラ・ゲイの搭乗員が語る半生記

2023-08-26 00:13:19 | ノンフィクション
 広島に原爆を投下した「エノラ・ゲイ」(隊長ポール・ティベッツの母親の名前)と名付けられた爆撃機B29の尾部射撃手であり、エノラ・ゲイが投下後直ちに退避行動に出た(尾部が爆心地の方向を向いている)ために爆発の様子を唯一目撃し、その様子(有名なキノコ雲等)を写真撮影した著者の半生を綴ったノンフィクション。
 爆発の実質的に唯一の目撃者であり、また原爆投下の直接の様子を知っているという点で、貴重な記録、ではありますが、その人物自身の生い立ちとか、女性関係自慢を読む価値がどれだけあるのかという思いが募りました。
 1995年の本を今になって日本で出版すること、そして原題と大きく異なる「わたしは広島の上空から地獄を見た」という邦題をつけること、被爆2世の訳者が著者を非難すべきでないと言うこと(441~442ページ)に私は違和感を持ちました。原爆を投下するために日本に向かうエノラ・ゲイの機内にヌード写真が貼り付けられていたこと(396ページ)、原爆投下後の機内で乗組員のひとりが「あの噴煙の中にあるものは、死だけなんだ」とつぶやいたが、著者は写真を撮り続け、隊長に聞いたのは「このたびのことをやり遂げるのに、どれだけの人間がかかわったのでしょうか?」(原爆開発の苦労の話)という質問だった(415~418ページ)というのは、貴重な体験談ですが、著者の意識に投下された側が味わう「地獄」があったようには見えません。本人自身、原爆の投下を「少しも後悔していません」と述べている(441ページ)というのですし、一番最後にある「わたしは、エノラ・ゲイの尾部から見たあの朝の光景を、ほかの誰にも決して見せたくないと願っているのです」(433ページ)という2行がいかにもとってつけたようで浮いています。訳者はその2行をもって著者が良心の呵責を感じていた(被爆者たちが「あのような悲劇は二度とくり返してはならない」と悲痛な思いで訴える言葉とも重なるとまで言っています)という(441~442ページ)のですが、私にはとてもそうは感じられません。


原題:FIRE OF A THOUSAND SUNS
ジョージ・R・キャロン、シャルロット・E・ミアーズ 訳:金谷俊則
文芸社 2023年5月15日発行(原書は1995年)

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 滅茶苦茶 | トップ | 歯医者選びの新常識 あなた... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ノンフィクション」カテゴリの最新記事