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伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

記者のための裁判記録閲覧ハンドブック

2021-04-04 21:13:59 | 実用書・ビジネス書
 刑事裁判及び民事裁判の記録閲覧の法規定と実情、閲覧のためのノウハウ等を説明した本。
 実際に記者が(取材とは言わずに)刑事確定記録の閲覧を申し込み、検察からほぼ機械的に求められる「関係者の身上・経歴等に関する部分を除く」の記載を拒否して全部不許可の決定をされ、裁判所に準抗告して閲覧を勝ち取った経験の報告(10~31ページ)がいちばん読みでがあります。
 執筆者らは、憲法と法律の規定の原則、そしてアメリカとの違いなどを挙げて、日本の裁判所・検察庁の運用を強く非難しています。私も、日本の裁判に関しての個人情報の扱いは、ちょっとやり過ぎに感じてはいます。しかし、アメリカの情報公開は、裁判手続の中でも相手方に手持ち証拠を開示させるディスカバリーなどの制度の存在と運用や、適正手続が重視される裁判観などの背景の下でなされているのだと思います。そこだけ取り出してもなぁという思いもないではなく、制度運用はそれぞれの国の社会情勢と切り離しては論じられないところがあります。日本では、いまだに、「裁判沙汰」「訴訟沙汰」などと言われ、裁判を起こすことや裁判の当事者になること自体が恥であるような価値観が幅をきかせています。この本で、東京地裁での民事訴訟の情報について「J-SCREEN」がデータベースを作り当事者名を検索できると紹介しています(79~80ページ)。記者である執筆者は、この会社が何のためにそういうデータベースを作っているか、まさか知らないのでしょうか。この会社のサイトのトップページにもこの会社のサービスとして「採用調査」が上げられ、「東京都民事訴訟」のサービスにも使用目的として " employee vetting " (採用調査、身元調査)が明記されています。裁判を起こすような輩は採用しないという企業がそれを選別するためのサービスとして、裁判所が受付と法廷前で開示している裁判当事者情報をデータベース化しているのです。被差別出身者の採用差別を目的として作成された「地名総監」を今発行することは許されないでしょう。被差別の出身者と、裁判を起こす人というのは意味合いもレベルも違うかも知れません。しかし、これもある意味で思想差別なのではないでしょうか。私には、こういうことをする会社があるのでは、またそのようなニーズを持つ企業が多数ある状況では、裁判所が裁判当事者の個人情報の公開に非常にナーバスになるのも致し方ないようにも思えてしまいます。こういう会社の存在を肯定的に紹介し利用を促すようなセンスの記者に、裁判所の姿勢を非難されると、先にも述べたように、私自身、今の裁判所の扱いはやり過ぎだと感じてはいるのですが、今ひとつ心情的には反発を感じます。
 巻末に、執筆者の1人が、検察が関係者の身上経歴関係を墨塗して開示したのに対して最高裁に特別抗告までして争った際の特別抗告申立書が全文掲載されています(資料8~29ページ)。流し読みしてみましたけど、言っていること自体はおかしいことを言っているわけではなくわかるのですが、くどくて長い、と感じました。裁判官を説得するという観点からはもっと短く煮詰めるべきだろうと感じました。もっとも全文掲載までするくらいだから、これで勝ったのか、まさかと思いましたが、最高裁は三行半で棄却しています(資料32ページ)。ただ、考えてみると、字数としては裁判所用書式(1行37字26行)に換算して25枚半です(インデントがないので、実質は27枚程度かも)。私は、上告理由書、上告受理申立て理由書は、基本的には20枚未満にするようにはしていますが、25枚程度になることもときにはあります。他人が書いた文書を読まされる側には、25枚半ってこんなにも読むのが苦痛で冗長に感じられるのかと、改めて反省しました。


ほんとうの裁判公開プロジェクト 公益財団法人新聞通信調査会 2020年12月25日発行
 
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