伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

低炭素社会のデザイン

2011-10-22 22:58:18 | 自然科学・工学系
 2050年までに二酸化炭素の排出量を現在より70%削減するという日本政府が2008年洞爺湖サミットで宣言した目標の達成と、さらには二酸化炭素排出量を森林・海洋の吸収量以内に収める「排出ゼロ」を目指して低炭素社会へのシナリオを描き、政治的・社会的な決断があればその達成は可能であると説く本。
 今後日本の人口構成が大幅に高齢化し人口も減少することや産業構造がサービス業にシフトすることからエネルギー需要が減少することに加えて省エネ技術が進歩することを考えれば、エネルギー需要の大幅削減は不可能ではなく、ライフスタイルの変更と技術開発の方向付けを適切に行えばサービスを低下させることなく二酸化炭素排出量を大幅に削減できるというのが、著者の主張のポイントです。今後の社会について、都市集中が進み人々がばりばり働き大いに遊ぶ「活力社会」と、田舎暮らしを尊び家族と過ごす時間を大切にして自然と共生する「ゆとり社会」の2つのシナリオを示し、そのいずれでも低炭素社会は実現できると論じていますが、著者の軸足は活力社会、技術の進歩とその最大限利用の方にあるように見えます。生活レベルを落としてがまんするということはほとんど主張せず、より豊かな生活と技術の発展を謳い、明るい希望を示しつつ、各分野でのコストを考慮した方向付けを論じているため、何となく元気が出てくる本です。大変幅広い分野を論じていて、私には、著者の指摘が適切かどうか判断しかねますが。
 著者の方向性としては必ずしも脱原発ではないようですが、純粋に二酸化炭素排出削減という観点で見ても、「原子力で減らせる量はそれほど多くはない。例えば、国際原子力機関(IEA)のシナリオでは、削減量のうち原子力の寄与はせいぜい6ポイントにすぎず、省エネルギーで47ポイント、再生可能エネルギーで21ポイントである。原子力がなければ温暖化が防止できないなどといっているのは日本だけである。」(186ページ)と明言されています。
 地球温暖化問題への対策について、積極的イメージを喚起させてくれる本です。


西岡秀三 岩波新書 2011年8月19日発行
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