湖の子守唄

琵琶湖・湖北での生活、四季おりおりの
風景の移り変わり、旅先でのふれ逢いなど、
つれづれなるままに、語りたい。

母の好きな男

2012年10月04日 | 詩歌・歳時記

                 

母とプロ野球のホークス戦をテレビで見ていた時だ。 「わたしー、この選手、好きやわー」 と

まるで乙女のような、かすかな恥じらいを含ませて母がつぶやいた。

当時は中継ぎの投手・攝津正であった。 「なるほど! さもあらん」 と腑に落ちたのだった。

5歳という幼少で死んでしまった、次の弟の浩が青年になったならば、 

こういう風貌になるであろうという、摂津投手なのである。 

          ああ海よ

          おまえのなかに母がいて

          永久に寄せくる波はなつかし

ノートにひそかに和歌などを書き付けていた、母の血を色濃くひいた私に比べて、

かの人見絹江選手と同じトラックで、陸上競技に明け暮れて、卒業後は職業軍人の道を

歩んだ父のDNAを完璧に受け継いだ、弟・浩は男らしい気の強い子供であった。

                               

友だちにいじめられて、泣きべそをかきながら帰ってきた私に代わって、

「兄ちゃんを泣かせたのは、誰だ!!」 と、

やおら履いていた下駄を右手に振り上げて、表へ飛び出していくような弟であった。

          雨けむる流れも速き梓川

          こしかたの夢

          ゆくすえの道

それにしても、若くして亡くなった人間とは、実に素晴らしいひとが多いものだ。

赤木圭一郎、山川登美子、尾崎 豊・・・・・・。 弟も生きてさえあらば、何事かをなし遂げた

人物になれたやもしれぬ。

        

攝津投手は今やホークスのエースに成長し、最多勝のタイトルをほぼ掌中にしている。

その投げる姿を見るたびに、みまかった母と弟の面影を、偲んでいる今日この頃である。