湖の子守唄

琵琶湖・湖北での生活、四季おりおりの
風景の移り変わり、旅先でのふれ逢いなど、
つれづれなるままに、語りたい。

鴉と栗毛

2011年11月20日 | 詩歌・歳時記

                    

50年もむかしのことだが、鳩を飼っていたことがあった。 細かいことはすべて忘れてしまったが、

初代の雄と雌の2羽の鳩だけは、その羽の色と艶、愛くるしい目の光りなど、今も忘れない。

            栗毛の雄と、真っ黒い羽色

のからす鳩が雌だった。いくらか姉さん女房のようだった。 先ず、鳩小屋を作った。

買ったものは、全面に張る金網と、アルミ製のなんと言っていたか? 入り口、出口に吊るす棒状

のもので、入る時には鳩が押して入り、出ることはできないのだ。

          雨煙る湖上の鴨や孜々として

          薄墨のひと刷け延べて湖時雨

                          

初めて、手の平に乗せた餌をついばんでくれた時の喜び。 「慣れた!!」 と嬉がっていたら、

悪童が言う。 「空に放して、帰ってきてから、そう思え」と。

          色鳥や湖畔に歳を重ねつつ

          秋ふかむ立ち止まることの多くして

ある日、ついに決心して2羽の鳩を空に放した。 最初のころは、別の集団が飛んでいると、

一緒になってしまい、帰らぬことがあるそうである。 いちいちアドバイスをくれた悪童が誰れ

だったのか、遠いかすみの彼方である。 祈りにも似て放した。それは「賭け」そのものである。

                   

          遠き日はとおくに置ひて返り花

          やわらかく灯すほかげの花八つ手 

無事に帰還した2羽が、肩に止り、頭に乗り、にわかに愛しさがつのったものである。

やがて、雛が生まれた。オス・メスの毛色がまったく逆にでていた。 子供ごころに命の

神秘を感じたものだ。      

中学生時代、飼育した2羽の鳩とともに、大人への入り口にそっと立ち、世間への階段を

登りはじめたときめきは、手の平に残る鳩のからだのぬくもりと共に、忘れない。