不定期連載、シリーズ8話目。
今回は、「恋愛感情と睡眠」の類似性について。
恋愛感情は、どこから生じるのか。
これが僕の恋愛論の究極の問いである。
もし恋愛感情が、自分の意志や判断によって生じているものであるとしたら、この感情は意のままにコントロールすることが可能であり、自分が「惚れたい」という相手に対して、自ら恋愛感情を生み出すことができるはずである。
「あー、Aさんって、優しくて、穏やかで、教養もあって…」、と思ったら、自ら恋愛感情を引き起せばいい。
しかし、そんな単純なものではない。「Aさんは、素敵だけど、恋愛感情は抱かない」、というケースもあるし、それは誰でも容易に想像できるだろう。「いい人だと分かっているけど、好きになれない」、と人は言う。
「好きになれない」という言葉に、恋愛感情の難しさがある。
他方、もし恋愛感情が、他人の意志や判断によっているとしたら、恋愛感情は、他人からのマインドコントロールということになる。相手の意志や作為によって恋愛感情が生じているとすれば、恋愛感情は、相手の策略にはまっていることとなり、相手に感情をコントロールされていることになる。
そういう恋愛もないとは言わないが、相手が仕掛けた罠?に引っかかるほど、人は単純ではない。それに、もし優れた恋愛感情引き出し人がいて、誰に対しても恋愛感情を引き起こせる人がいたとしたら、その人は、もう人間ではなく、エスパー、ないしは魔術師である(苦笑)
自分でもなく、相手でもない、何者かによって引き起こされているのが、「恋愛感情」なのではないか。
第三者がいるのである。
しかし、自分の恋愛感情を引き起こす存在のことを、僕らは誰も知らない。脳科学者は、脳がそれを引き起こすのだ、と説明するだろうが、その「脳に恋愛感情を引き起こさせるものは何か?」、と問うと、きっと黙ることだろう。ひょっとしたら、「視覚」がそれを引き起こすのだ、と言うかもしれないが、なぜ、ある特定の人が視界に入った時に、脳が刺激され、恋愛感情が引き起こされるのか、については説明できない。それに、視覚障害をもっている人も、恋愛感情を確かに抱いているし、それ以外の障害においても、その障害ゆえに恋愛感情が阻害されるということはない。
恋愛感情は、どこから引き起こされるのか。
どれだけ考えてもよく分からない。
他方、睡眠について考えてみたい。
睡眠は、いったい誰によって引き起こされるのか。
これもまた、恋愛感情と同様の思考プロセスを辿ることになる。
もし自分自身が睡眠を引き起こしているとすれば、どんな時でも、意のままに寝入ることができるはずである。だが、経験的にも、そんなことは不可能だ、ということは誰でも知っている。もちろん「どんなところでもすぐに寝られる」という人もいるが、その人は特殊な能力をもっている人に過ぎない。
「寝たいのに、寝られない」、という言葉をよく聞く。自分の意思としては、「寝たい」のに、「寝ることができない」のである。この言葉からも、睡眠が、自分の意志や判断ではない別の力によって引き起こされていることが分かる。
では、他人の誰かが眠らせているのだろうか。これもまた、エスパーの話になってしまう。「眠れ~、眠れ~」と魔術をかけることで、寝られるとすれば、それはそれで面白い話にはなるが、現実的ではない。
睡眠障害が跋扈する現代社会においては、「睡眠薬」を服用している人も多いと聞く。睡眠薬でしか寝られない人、というのも確かに存在する。そういう人は、存ぜぬ他者が作り出した薬によって寝ているわけだから、他人に眠らされていると考えてよいだろう。
だが、そういう人を除けば、多くの人が、自分でもなく、他人でもない何かによって、眠りの世界に誘われているのである。それはいったい誰によって引き起こされているのか?
僕は基本的に、ベッドに横になったら数分で、睡眠の世界に入り込んでしまう。が、たまに、タイミング(timing)を逃して、数時間、ベッドの中でもがき苦しんでいる。「寝られねー!!!」って、心の中で叫びながら…。けれど、いつの間にかに眠り込んでいて、翌日の朝を迎える。
睡眠においても、それを引き起こす存在も、また、その眠りから覚醒へと導く存在も、僕らは何も分かっていないのである。
いったい、誰が「眠り」を引き起こしているのか? これもまた謎のままに留まっている。
恋愛感情を引き起こす第三者とは誰なのか?
また、
睡眠へと導く第三者とは誰なのか?
*ルソーのいう「一般意志」とは別の一般意志のようなもの?、か? ルソー曰く、「政治体は、また、一つの意志をもつ精神的存在である。そして、この一般意志は、常に全体および各部分の保存と幸福をめざし、法律の源泉となるものであるが、国家の全メンバーにとって、彼ら相互の関係および国家との間における、正と不正との基準となるものである」。さすがにこれではないだろう、と。
…
また、この問いは、重なり合うのか、まったく異なる問題なのか?
恋愛も、睡眠も、現代社会の大きな課題となっているように思う。
抽象的に言えば、この「第三者」が死にかけているようにも思うのである。
恋愛に青春時代のすべてをかけていた40代~50代と違って、今の若い人たちは、恋愛に対してかなりドライのような気がする。もちろんお盛んな若者も少なくないが、かつてと比べると、恋愛感情に大きな期待や喜びを感じていないように思う。事実、昔よりも、街でいちゃつくカップルはずいぶんと減ってきているように思う。
と同時に、現代人の多くが、「寝たいのに、寝られない」という苦悩を背負って生きている。僕もその一人かもしれない。精神障害も、その目に見える症状として、「寝られないこと」が挙げられる。全国民の20パーセントほどと言われているので、ざっと考えても、3000万人くらいの人が、「寝られないこと」に苦しんでいることになる。
どうしたら寝られるようになるのか。
事実として、自分の意志や努力で、どうなるものではない、としたら、どうすればよいのか。
睡眠の神様がいるのであれば、是非とも教えてもらいたい。
と同時に、恋愛感情もまた、それゆえに苦しんでいる人はたくさんいる。「どうしてこんな人を好きになってしまったのか」、と悩んでいる人は多い。「嫌いになりたいのに、好き」、という人は、「寝たいのに、寝られない」のと同じレトリックになっている。
恋愛感情と睡眠は、一つの考察対象となるように思えてくる…。
眠りを導く存在とは?
恋愛感情を引き起こす存在とは??