散歩絵 : spazierbilder

記憶箱の中身

大匙一杯の白い鈴

2006-05-11 10:02:35 | 思考錯誤
朝一番で外に出ると色々な花の香が近寄ってくる。
甘い香が立ち上ってくるので見るとスズランが沢山咲いていた。
少しだけ花を摘んでグラスに活けた。
仕事机の端においている。
甘くて、少々切ない気持ちになるような香が目に見えたら、何色だろうか?
この香りは決して慎ましやかではない何かがあるように感じる。
なんだろう?

宮沢賢治の童話『貝の火』のなかにスズランがでてくる。
 「ふん、いいにおいだなあ。うまいぞ、うまいぞ、鈴蘭(すずらん)なんかまるでパリパリだ」-宮沢賢治『貝の火』

スズラン(Convallaria majalis)は強い毒性を持っていて、誤って口に入れると激しい嘔吐、下痢、眩暈から、場合によっては死に至る。
昔、スズランの花束を活けて楽しんでいた母親が、数日後くたびれてしまった花束を始末し、グラスを片付けずにいた。喉が渇いていた幼い子供がその水の入ったグラスを見つけ飲んでしまい亡くなった事件があったという。
その話を聞いて後すぐに『貝の火』を思い出した。
これじゃあ、兎家族はあっと言う間に死んでしまうなあ、宮沢賢治はスズランの猛毒の話を知っていたんだろうか? もちろん知っていようといまいと物語の中では関係ないことなんだけれど。。。

スズランのシンボルは聖母マリアの純潔と貞操である。
聖書の『雅歌』のなかに『私はシャロンの花。谷間の百合の花』と言うくだりがあるが、この”谷間の百合”は実はスズランのことだそうだ。
ラテン語でスズランは Lilinum conuvallium=谷間の百合と名づけられており、昔はドイツでも”Lilie der Taeler=谷間の百合”と呼んでいたらしいが、現在では一般に"Maigloeckchen=5月の小鈴”と呼ばれている。

猛毒だとはいえ、よくある事で使いようで薬になるのだ。
Cardenilidと言う配糖体が含まれて居り、それは強心剤としてつかわれるそうだが、面白いのはスズランから抽出した純粋なその配糖体よりも"全草のエキス”のほうが500倍も効果があるらしい。いずれにせよ素人が扱えるものではない。

しかし、毒があると知っても確かにこの白い花を大匙に一杯掬って口に放り込んで食べたらパリパリしていて美味しいかもしれないなあ、とも思う。

もちろん試しはしない。

でも早朝の少し冷えて朝露のついた一つくらい齧ってみようか。。。って。。。