散歩絵 : spazierbilder

記憶箱の中身

夢遊: 分離完了

2006-05-03 16:22:40 | 夢遊
ある日の夢のイメージ +α



ガチャガチャと騒がしい音を立てながらドアを開けた。

幾つもの鍵がぶつかり合う音は賑やかでいて、から騒ぎをしているような虚しい音だ。

部屋に入ると
灯りをつけるよりも先にテレビのスイッチを入れた。
暗い部屋の中にテレビからもれる光は時に木漏れ日のように時に小躍りする薪火の様なリズムを持って壁の表に私の影を躍らせる。

パチンと
部屋の明かりを点けると
陽気だった影は淡く淡く、夢の中で、濃い霧の向こうに何かあるのに、歯がゆいくらいにぼぉーっとしか見えてこない。
そんな感じだ。
しかし今日の影は次第に厚みを増やしていくようだ。

影は留守中もずっとそこに潜んで待ちぼうけていた様な気配を持っている。

それ以来私は影と親密になろうと思った。
話しかけると、ほんの、ほんの少しだけ影は息づき膨らんだように見える。
影と向きあう。
話しかける。
笑いかける。
腕を振り回してみる。
グルグルグルグル。
グルグルグルグルと
手を振り回すと、影も同じように振り回す。
グルグルグルグルグル。。。グッ。
「?」
なんだか今のは変じゃなかった?
今一度。
グルグル腕を振り回してみる。
やっぱり何かが違うように感じる。
指で影をの輪郭を辿りながら調べると、端っこが少し捲れかけて震えている。
ぺろっとはがれてしまうのかと思っていると、真ん中の丁度胸の辺りが膨らんできて、力強い植物の芽が土を押し上げる様に盛り上がるはじめる。
漆喰の壁が湿気を含んで膨れあがったようなそんな感じにもこもこと動くのを観察しながら私はソファーに腰をかけ"待って”いる。
黒いからだは身をよじりながら震えながら壁から渾身の力で這い出ようと汗だくになって、それはまるで生まれる苦しみのようだ。
見る間に膨れ上がって厚みを増してゆき、大きく呼吸のようなものをしながら、こちらに助けを求めるように手をのばしている。
もう少しの辛抱だ。
後は左足がまだ壁の中に埋まっているけれど、もう少しで終わるのだろう。
息をすることを忘れてもがく影を観察し続ける。
もう少しで完了。
息が止まりそうなほど、もうすぐ脱出する影を見つめている。
あと少しで
完了。

その時、電話のベルが鳴りはじめた。
張り詰めた神経が、電話の音で危うく破れそうになる。
放っておいたらすぐに諦めるに違いないとおもいながらもすこしずつすこしずつ電話線を通ってくるメッセージは私を振り向かせる。電話の呼び鈴は挫けることなくなり続け、私は少しずつ少しずつ電話線の逆端に存在する誰かについて考え始めた。
すると、生まれたてのみずみずしい影は息を止めて、厚みを失い始め、次第に干からび、乾燥したウメゴケのようにぱりぱりと音を立てながら縮んでしまい、やがてストンと床に崩れた。
振り返った私は電話の受話器をあげて言う。

「分離完了」