金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

中国政府がはまった「ドルのワナ」

2009年05月25日 | 金融

機関投資家が有価証券を買う時に注意するべきことの一つは同一銘柄を余りに多く買わないことである。何故なら機関投資家がその銘柄を売却しようとする時、みずからの売り注文で値段を崩すからである。またこのリスクを知っている投資家はその銘柄を大量に買うことはないから、同一銘柄を大量保有する機関投資家はその銘柄の売り捌きに苦労する。

ファイナンシャル・タイムズによると、巨大な外貨準備を持つ中国はこの種のワナにはまっている。温家宝首相など政府高官は米ドルの暴落に対する懸念を表明しているが、中国外国為替管理局は米国国債を購入する以外に外貨準備を運用する選択肢がない。

中国外国為替管理局、略称Safe(China's State Administration of Foreign Exchage)が、もし外貨準備を他の通貨で運用しようとすると、その通貨市場を混乱させるとともに、ドル債を売却することで債券価格の暴落を招くと西側高官は述べている。

中国の外貨準備の構成比率は国家秘密ながら、総額1兆9530億ドルの70%はドル資産と推定されている。米国のデータによると3月単月で中国の米国債保有高は237億ドル増加して、7680億ドルになった。

Safeはファニーメイ、フレディマックの崩壊後、米国短期国債へのシフトを強めている。これは将来インフレ懸念から米国金利が上昇するというシナリオに基づくものだが、Safeの考え方に詳しい西側アドバイザーはSafeは外貨準備の大きな部分を米国債に割り当てるという基本戦略を変えていないとファイナンシャル・タイムズに告げている。

中国政府はこのワナから抜け出すべく金投資などを始めているが、金マーケットは中国の外貨準備高から見ると小さ過ぎる。中国政府は民間企業の海外投資規制を緩和することで、政府の外貨運用リスクの軽減を考え始めた。

ところでこのような情報は当然米国財務省は先刻承知いているところだ。彼らは当面安心して国債増発を続けられるだろう。少額の借金をしている場合は債権者が強く、債務者は弱いものだ。しかし債権者の屋台骨を揺るがすほどの借金をしてしまえば、債務者の立場は強くなる場合がある。このことは民間企業と銀行の間だけでなく、国家間にも当てはまるということだろうか?

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草門去来荘で誕生日祝

2009年05月24日 | レストラン・飲み屋

5月23日土曜日晴。ワイフと誕生日祝のランチに西武拝島線八坂駅近くのイタリアン・レストランにランチに出かけた。レストランの名前は草門去来荘 リストランテ・門http://www.kiwa-group.co.jp/restaurant/a100423.html。ここは紅虎餃子房を経営する際(きわ)コーポレーションが経営するレストランで、際の中島武社長の生家を改造したものだ。

Soumonkyorai

野火止用水にかかる橋を渡って草門去来荘の門をくぐると、深い木立の中に懐石を食べさせる「母屋」、うなぎ・うどんの「野火屋」、イタリアンの「MON」がある。写真は「母屋」の外側だ。

懐石には以前行ったことがあるので、今回はイタリアンにした。私もワイフも5月生まれなので誕生日祝いは一度で住む。西東京市の自宅からここまで自転車で30分。車でくるとワインが頂けないので自転車で来た次第(本当は自転車でも飲酒運転はいけない!)だ。

メニューは・・・豆のスープ、トマトのマリネ、肉と豆の手打ちパスタ、豚肉のクロカッテ、デザートとコーヒーで3,800円だ。(これが一番安いコース)

クロカッテは「お肉をかりっと焼いたもの」というお店の説明、初めて聞いた。もっとも後でインターネットでクロカッテを調べると、このレストランテMONのメニューだげがヒットしたから知らなくても恥じることはない。

これにグラスワインを一杯飲んで一人5,500円也。トマトのマリネは色々な種類のトマトを使うというアイディアは悪くないが色彩・味とも今一つ。パスタ・クロカッテは良かった。ゆったりとしたお料理の出し方も良いし、フォカッチャ(イタリア料理のパン)がおかわり自由というのも好感。

ところで八坂駅と草門去来荘の間には「九道の辻」という地名が残っている(九道の辻公園という人工流水を使った公園もある)。昔鎌倉道や江戸道など9つの街道が合流し交通の要衝だった(今もその残りで複雑な交差点となり、交通が渋滞するところだ)。600坪の敷地としっかりした古民家の造りをみると中島家の繁栄が農業以外に物流などにも関与していたのではないかという想像が起きる(想像の域を出るものではない)。

自宅から草門去来荘まで野火止通りと新青梅街道を自転車で往復して改めて気づくことだが、多摩地区は西高東低である。羽村で取水した多摩川の水を四谷木戸に運ぶ「玉川上水」の工事は比較的簡単だったが、その一部を新座に運ぶ「野火止用水」の工事が難工事だった理由は、この用水路が勾配に逆行する部分があることにもよるようだ。

自転車で走ると色々なことが分かるという一例だ。

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雇用維持が所得を下げる

2009年05月22日 | 社会・経済

今日(5月22日)の日経新聞朝刊に「世帯所得19年ぶり低水準」という記事が一面に出ていた。内容は次のとおりだ。

  • 厚生労働省が21日に発表した国民生活基礎調査によると、2007年の一世帯あたり平均所得は前年比1.9%減の556.2万円。これは1988年以来19年ぶりの低水準。
  • コスト削減を目的にした企業が非正規社員の比重を増やしたことで所得水準が低下。
  • 高齢者の単身世帯の増加も世帯あたりの平均値を押し下げた。
  • 所得額別に世帯割合を診ると、年間300万円-400万円未満が13%で最大。平均所得額を下回った割合は約6割を占めた。

この中の「コスト削減を目的にした企業が非正規社員の比重を増やしたことで所得水準が低下」という部分に注目してみる。5月20日のニューヨーク・タイムズに「日本では雇用確保にコストがかかる」と記事があった。その中で同紙は雇用確保の問題点を指摘している。ポイントは次のとおりだ。

  • 今週発表された第一四半期GDPは年率換算15.2%の減少と1955年以降最悪の数字。しかし日本では米国や欧州に較べると失業者は少ない。日本の4月の失業率は4.8%、米国・欧州は8.9%。
  • これは日本では「終身雇用」が生きていることと政府補助が大きな役割を果たしている。景気が悪化した場合会社は最初にバッファーを取り除く。

バッファーの説明はないが、社交費・出張旅費などの営業経費などと考えてよいだろう。私の会社もそうであるが、読者諸氏の会社でも「出張を電話会議に代えよう」などという通達が出ているのではないかと思う。

  • 次に日本の会社では派遣社員を減らし、残業を減らし、ボーナスを減らす。そしてサプライヤーを締め付ける。日本の会社は雇用に手を付ける前にあらゆる手段を講じる。
  • 日本の大企業で正社員のレイオフを考えているところはない。これは韓国企業の39%がレイオフを考えていることと較べると対照的。
  • 正社員の雇用確保に政府助成金が果たす役割は大きい。会社は時短を行うことはできるが、法律で時間あたり賃金の6割は支払わなければならない。政府はその半分を支援してくれる。3月に約4万8千社が238万人の雇用者のために助成金を求めた。政府は今年600億円の予算措置を行っている。専門家によるとこの政府助成金がないと日本の失業率は2%上昇するという。

ここでニューヨーク・タイムズは日本総研の山田氏の言葉を引用して問題点を指摘する。「余剰人員の雇用を続けることは、競争力を失った会社の延命を続けるというリスクを抱える。これは長期的には雇用を傷つける可能性がある。必要なことはより構造的な改革である」

企業は正社員の雇用義務があるので、正社員を減らし、賃金が低く福利厚生面でも劣り解雇しやすい臨時社員を増やす行動を取ってきている。その結果これら臨時社員の比率は労働力の3分の1を占めるに至っている。

この結果日経新聞が報じたように世帯所得が大きく下落した。所得の減少は消費の低迷を招き企業売上は下落する。売上が下落するので、企業は新卒者など若年層を正社員で採用することをためらう。その結果派遣社員が増えて、所得水準が下がるという悪循環。

付け加えるならば、政府の助成金は税収でまかなわれる。しかし財政赤字の折、これは国債という形で次世代の借金に繰り越される。今のような状態が続くと若年層の可処分所得は低下傾向を続ける。

ニューヨーク・タイムズは「日本の企業は今回に景気悪化局面でほとんど正社員の解雇を行っていない。しかし大量のレイオフは切迫しているが、求められる程の早さでは起きないだろう」というアナリスト・ウエインベルグ氏の言葉で記事を締めくくっている。

正社員の解雇が正しい解決策かどうかは難しい議論だ。

だがやがて景気が回復するにせよ、日本の労働者は中国やインドの労働者と持続的に労働市場で競争していかねばならないという厳しい現実は直視せねばなるまい。日本企業の労働生産性を高めていくしか解決策はないのである。もしレイオフやゾンビ企業の淘汰が国民経済上不可避であれば、タブー視することは問題の悪化を招くことになる。

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ガイトナーと王岐山、あるいはは新しい米中関係

2009年05月21日 | 国際・政治

ニューヨーク・タイムズに「米国のガイトナー財務長官と中国の王岐山副総理が定期的に電話で会話を行っている」という記事があった。ガイトナーへのインタビュワーで記事の書き手のLeonhardt氏はガイトナーに「あなたの中国語力は通訳を必要としない程十分なものですか?」と質問すると、ガイトナーは笑いながら「私が中国語を教えていたのは随分昔のことですよ」と答えた。

ティモシー・ガイトナー、父の仕事の関係でタイに暮らしていた彼はダートマス大学に入学して、中国語を学ぶ。彼は後に政治学とアジア学を専攻するかたわら、お小遣いを稼ぐために北京語基礎クラスで講義を行っていたという。

オバマ大統領がガイトナーを財務長官に任命した理由については主に彼の財政手腕を見込んでのことだ。だが中国にファイナンスを依存する米国として、困難な時期に彼を任命した理由の中には彼の中国語力があるかもしれない。「消防士」のあだ名を持つ王岐山とガイトナーは高級エコノミストで実用主義者という共通点を持つ。

ニューヨーク・タイムズによるとガイトナーと王の話題は両国間の貿易や消費の不均衡問題ではなく、両国が世界経済を刺激するために何をしてきているか?ということだ。現在米国の対中政策について、ニューヨーク・タイムズは「魅力攻撃」Charm offensiveの一種だと説明する。これは相手の嫌がるところを攻めずに実益を引き出す戦術と考えてよい。実際米国財務省は4月の年次報告で「中国は為替操作を行っていない」と結論付けた。

一方中国は米国に対して攻撃的な姿勢を取っているかのように見える。だがこれは沿岸部工業地帯に数千万人の失業者を抱える中国政府が国民感情の矛先をかわすためにはーオポジションを取っている部分が多い。

このような背景を踏まえて、ニューヨーク・タイムズの別の記事を読んでみた。記事は「中国はドル資産の個別選択性を高める」という内容だ。

記事によると、2年弱前まで中国政府は新発市場と流通市場を合わせると米国政府が起債する以上の米国債を購入してきた。しかし金融危機対策等で米国債の発行額が増えたことや、米国民を含む世界中の投資家が米国債購入に動き出したことで、3月までの1年間では中国政府の米国債購入額は新発債の6分の1以下になっている。

両国政府の統計を見ると、中国政府はニューマネーを投入しないで米国債の保有高を増やしている。これは中国政府がファニーメイなどを売却して国債を購入している可能性を示唆しいている。また中国政府は長期債から短期国債へシフトを強めている。これは中国政府が米国に国債増発でインフレが起きることを懸念していると解されている。

また中国政府の動きの中で目立つものは、輸出でドルを稼いだ民間企業に海外投資を容易にするべく法改正を行いつつあることだ。中国企業による海外投資が加速する可能性があるだろう。

ガイトナーと王岐山が本当のところ何を話しているかは分からない。しかし二人の経済通がドルの暴落を避けつつ、貿易と消費のアンバランスを解消する方法を模索しているとすれば歓迎するべきことだろう。もっともこの経済危機の後、米国と中国の力が高まるとともに親密さが増すことを日本が手放しで喜ぶべきかどうかは別問題だが。

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【書評】「悪党の金言」 ~安くて面白い

2009年05月20日 | 本と雑誌

当然のことながら本の値段と面白さや読み応えは比例しない。面白さは多分に読み手の関心事に左右されるが、読み応えは書き手の力の入れ方に比例するだろう。私が「中身が薄いなぁ」と感じる本は「続○○」という類の本だ。筆者の中には最初の「○○」がヒットしたので、余り努力せずに最初の「○○」を焼き直した「続○○」を書く場合がある。このような本を読むと「損したなぁ」と思わざるを得ない。

さて最近足立 倫行さんの「悪党の金言」(集英社新書 760円)をアマゾンの中古本で買って読んでいるところだ。ここで紹介されている悪党は保坂 正康、佐藤 優、溝口 敦氏ら8名の異端の作家達(作家が本業でない人もいる)だ。

何故足立氏は彼らを「悪党」と呼ぶのか? カバーの内側に「悪党とは世の大勢に流されず異議を申し立てる者、という謂(いい)である」と説明がある。これは日本の中世史における「悪党」の使い方の下流にあると考えてよい。「悪党」は一般的には社会の秩序を乱す無法者の意味だが、中世では「荘園支配に外部から侵入するもの」や「芸能民や遊行僧」などを悪党と呼んだ。

又中世では「悪」は必ずしも「悪い」意味で使われた訳ではない。「強い」という意味もあった。源義朝の長男・義平を「悪源太」と呼んだのはその典型だ。

この本に登場する8名も「異議を申し立てる」だけでなく又強い。そして実に勉強している。いや強くて勉強しているから異議を申してることができるというべきだ。私は彼らの主張に全面的に賛成するものではない。8人の悪党達は自分の中に矛盾も抱えている。だが良し悪しは別として彼らの送る電流は強い。インタビュアーとしての足立氏はこの電流の最適の良導体だ。

実は私は足立 倫行というノンフィクション作家に若い頃「はまっていた」ことがあった。氏の「人、旅に暮す」とか「日本海のイカ」などは今見ても名著だと思う。足立氏の良いところはインタビュイー(被取材者)と同じ目線でものを見る目線の低さと取材の徹底さだ。2歳年上の足立さんに会ったことはないが、私がサラリーマン時代を通じて「調査レポート」などを書く時、頭の隅にあったのは足立さんのノンフィクションである。

その足立さんが今年の1月に書いた「悪党の金言」を古本で読むのは申し訳ない(印税が入らないので)が、本屋に行くのが面倒なのと少し安いのでついアマゾンのマーケット・プレイスを使ってしまった。

さて「悪党の金言」を面白いと思うかどうかは読者諸氏の関心次第だが、中身が濃いと思われることだけは間違いないと私は思っている。

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