ムーディーズのレポートによると、同社の債務格付を持っている企業の年金の予測給付債務(PBO 日本でいう退職給付債務とほぼ同じ)は、2008年から今年年末までに7,030億ドル増えて、2.1兆ドルになった。
増加分の内約半分に相当する3,420億ドルは年金債務を計算する時に用いる「割引率」の低下によるものだ。
割引率は将来の年金給付債務を現在の価値に引き直す時に使うレートで、金利が高い方が債務の現在価値は小さく見積もられる。
もっとも連銀の政策金利引上げが直ちに割引率の上昇につながると判断するのは早計だ。割引率に使う長期金利が短期金利の上昇とスライドして上昇するかどうかは分らないからだ。
だが仮に1%割引率が上昇すると、現在10%しかない「完全に将来の年金給付債務を積み立てている年金基金」は25%に拡大すると年金コンサルタント会社のマーサは述べている。
企業が長期金利の上昇により、年金積立不足を解消させる方向に向かうと企業収益のボトムラインは改善するので株式市場にはプラス材料だろう(もっとも借入金の支払金利も増加するので、メリットを受けるのは借入の少ない会社だが)。
ところで我々は長い間ゼロ金利とゼロ・インフレに慣れてきた。
昨今「老後資金として1億円必要」だとか「いや、そんなに多くは要らない」などいう議論を目にすることが多い。老後に幾ら必要か?は暮らしぶりに関わるところが多いので、一概にどちらが正しいかということはできないが。
ただ気になることはこれらの議論がインフレや金利上昇リスクを等閑視していることだ。
仮に1%のインフレがコンスタントに20年間続くと、現在の300万円は20年後には366万円になっている。
つまり今300万円の家計支出で暮らしている人が20年後も同じ暮らしをしようと思うと366万円必要ということだ。
もしインフレが2%で進行すると今日の300万円は20年後には446万円になり、3%で進行すると542万円になる。
長すぎるゼロ・インフレとゼロ・金利の最大のリスクは、我々からお金の将来価値を考えて生活設計を組み立てる習慣を忘れさせたことかもしれない。
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