金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

英国の取り付け騒ぎが教えること

2007年09月19日 | 金融

先週後半から英国のノーザンロックという中小金融機関で取付騒ぎが起きている。銀行の取付騒ぎを英語ではbank runという。インターネット上のABOUT.COMという辞書サイトでBank runのことを見ていたらFederal Deposit Insurance has ended the phenomenon of bank runsという説明があった。連邦預金保険が銀行取付という現象を終了させているという意味だ。これは連邦預金保険がある米国では今のところ正しいが、英国では正しくなかったということになる。もっとも今回の騒ぎがあるまで英国でも正しかったのだが。というのは英国では1866年以降銀行取付騒ぎはなかった。米国、ドイツ、日本などでは1930年代初めの恐慌時に銀行取付を経験しているし、日本では90年代後半に多くの銀行で預金者の行列ができたことは記憶に新しい。

ところで今回の取付騒ぎを見ると「金融の世界では技術は進歩しても人々の心とか行動パターンは変わらないなぁ」という思いを新たにするものだ。産業革命で先発メリットを享受した英国だが、激しい技術革新のためドイツなど後発の工業国の方が最新設備を導入したため、長らく工業面で苦戦した。これは今回の話に共通するところがある様だ。19世紀中頃の取付騒ぎの教訓として英国中銀の役割は「最後の貸し手」になることだと自覚し100年以上も取付騒ぎのない金融システムを維持してきた。そのため預金保険の整備が遅れたのは皮肉な話である。

今回のノーザン・ロックの取付騒ぎは英国の預金保護が米国に比べると不完全な点に帰するところがある。一つは保護される金額の上限。細かい説明は省くが米国では10万ドルまでの預金はフルカバーされるが、英国では保護の上限はその6割程度でかつ2千ポンドを超える部分は9割しかカバーされない(最高限度は31,700ポンド)。また米国では銀行破綻から数日で支払われるのに対し、英国では最長半年かかるという。

今週月曜日に英国のダーリン財務相は現在の不安定な金融環境下預金は全額保護すると発表した。これで取付騒ぎは一段落した様だが、モラルハザードに対する批判が起きている。つまり「預金者が今後預金は全額保護されると考えると安全性が劣っても金利の高い銀行に預金をシフトするようになる」という批判だ。

これらの話を聞くと「金融における先進国とはなにか?」という疑問を新たにする次第だ。技術は進歩しても人々の恐怖心やモラルに進歩はないということなのだろう。

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リーマンに見る事業分散の重要性

2007年09月19日 | 株式

敬老の日の三連休をはさんで2日会社を休んでいた。市場に大きなインパクトを与える出来事は休みの最終日米国で起きた。一つは連銀のFF金利0.5%引き下げでもう一つは市場予測より良かったリーマン・ブラザースの第三四半期決算である。この決算により金融市場の混乱の最悪期は脱したと投資家は判断した。以下FTの記事のポイント。

  • リーマンの株価は今年2月以降30%下落していたが、10%上昇し64.49ドルで引けた。リーマンの利益は低い税率と債務の時価減額を利益として計上する新しい会計ルールにより拡大した。
  • リーマンの第三四半期の利益は887百万ドル、一株当たり1.54ドルで前年同期より3%減少しているものの、アナリストの予想(一株当たり1.47ドル)を上回った。
  • 株式業務、投資銀行業務、資産運用業務の収益が固定利付債業務(サブプライム住宅ローンなどを含む)で半減した利益を補った。
  • アナリストはリーマンはローン・コミットメントの5,6%の償却を行っていると見ている。
  • リーマンのディック・ファルド会長は「困難な市場環境にも係わらず、我々の業績は事業分散効果とリーマンのフランチャイズの金融面の強さを示した。同時に我々の事業環境サイクルを超えてパフォーマンスを上げる能力の高さを示した」と述べた。

さて今週はモルガンスタンレー、ベアスタンーズ、ゴールドマン・ザックスといった投資銀行の四半期決算が相次いで発表される。総てが市場に安心を与えてくれるかどうか注目されるところだ。

The worst is behind us!と言えるかどうか・・・・

リーマンの株価は年初来2割の下落という計算になる。2割下落というと邦銀株が3月から今月18日までに2割下落している、これは日経平均の9%下落よりきついと今日の日経新聞に書いてあった。サブプライムローン問題の影響がほとんどないといわれている邦銀が渦中のリーマン並に下落しているというのは腑に落ちないし情けない。

邦銀も米国の投資銀行のように事業分散を図り、景気や金融のサイクルを超えて利益を上げる能力を示してもらいたいものである。

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