金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

クレジット・クランチの狩人

2007年09月06日 | 金融

サブプライム・ショックから欧米の金融機関の間で資金の目詰まりが起きた時私はこのブログで「邦銀に大儲けのチャンスが来た」と書いた。邦銀の中で目敏く動いてるところがあるかどうかは知らないが、海外の投資家の中にはこのクレジット・クランチを絶好のビジネス・チャンスと捉えている連中がいる。

90年代の初めに米国の商業不動産市場がクラッシュして、資金の出し手がいなくなった時があった。その時登場したのが「墓場のダンサー」と言われたサミュエル・ゼル氏だった~仄聞するところでは彼は昨年保有する米国リートの大半を売却したとのことだが~。彼は当初無人の荒野を行くがごとく、底値で不動産を買いまくり大きな富をなした。大きく崩れた相場は数多くの不幸な投資家と数でははるかに少ないが巨万の富を築く投資家を生む。今回のクレジット・クランチもドラマを生むかもしれない。チャンスを求めてクレジットの森に入る連中を「クレジット・クランチの狩人」と呼んでみた。

ファイナンシャル・タイムズ(FT)によるとヘッジファンド、プライベート・エクイティ、投資銀行達が「商業銀行が2500億ドルのローン資産を売却するだろう」と考えて資金調達を行っている。ゴールドマン・ザックス、リーマン・ブラザース、アポロ、ブラックストーン等は投資家に「リカバリーファンド」という期間1年から2年のファンドへの出資を募っている。

FTによると大企業向けの質の高いシニア・ローンが額面の95%位の価格で取引されている。もちろん企業買収向けのブリッジ・ローンははるかに低い価格で取引されている。

95%で購入したローンが数年後に100で償還されると儲けは保有期間の利回りプラス5%のキャピタルゲインになる。ローンの残存期間にもよるが、Libor+3%以上の利回りになる可能性が高い。これは平常時であると「ジャンクボンド」の利回りだが、クレジット・クランチを逆手に取ると投資適格銘柄に高い利回りで投資することができる訳だ。

FTはある投資マネージャーは多くのローンは倒産企業並のリターンで取引されていると言っている。

私は日本の銀行やファンドにとっても、これは10年か15年に一度位のビック・チャンスだと思っているのだがどうあろうか?

それとも欧米の森に落ちた美味しい獲物を狩るのは、欧米の狩人だけだろうか?

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日本の不動産市場への警鐘

2007年09月06日 | 金融

ファイナンシャルタイムズ(FT)は大和ハウスの樋口会長がブルンバーグに話した内容を引用しながら日本の不動産市場への警鐘を鳴らした。

  • 樋口会長は「日本の不動産価格はバブルがはじける寸前で、持続不可能な価格帯に到達している」と警告を発した。樋口会長の論評は米国と英国という世界で最も活気のある不動産市場が拡大する問題に面し、世界の不動産市場がスランプに陥るのではないかという懸念の中で起きている。

サブプライム・ショックは世界の市場に少なくとも二つの心理的影響を伝染させたと私は見ている。一つは「欧米の銀行を中心とした取引相手のバランスシートに対する不信」と「不動産市場に対する警戒」である。欧米の住宅市場はここ数年間上昇を続けてきたが、どうもバブルになっているのではないか?という警戒心が高まってきた。英国では不動産投資信託の価値が急速に低下している。

  • 樋口会長のコメントは特に外資ファンドの投資の波に乗って上昇した日本の不動産市場が天井をつけたという懸念を強くさせる。
  • 昨日不動産関連株は4%下落した。このため日経平均株価が1.5%下落している。ロイヤルバンクオブスコットランドは「日本で15年に及ぶ住宅と土地の価格の下落が続いた経験を思うと、これらの論評が投資家社会に寒気のするような考えをもたらすとしても驚くに値しない」と述べている。
  • 豪州の年金基金やシンガポールのファンドの投資により昨年、東京の一等地の価格は3,4割上昇している。日本の不動産投資信託も最近までは高いパフォーマンスを上げていた。
  • しかし規制当局による不動産投資に対する融資への検査、既に高くなった賃料や不動産価格、外国人投資家にとっては他の市場の下落によるプレッシャーなどが相まって、J-Reitの売却に拍車をかけている。クレディスイスの大谷アナリストは「私はまだ日本の不動産市場のクラッシュを予想しないが、もし欧州と米国の市場がクラッシュすると日本も追随するだろう」と述べいる。
  • 先月初めから日本の不動産投資信託は20%以上下落している。

今日(9月6日)の日経新聞朝刊は「日本の地価は不動産の収益性の回復と、内外マネーの流入によって押し上げられてきた。景気拡大が続けば収益面での魅力は落ちない」と述べている。「景気拡大が続けば」という前提条件だが、私は米国がリセッションに入るとまでは見ないものの、景気は減速すると見ているので、日本の景気も半年後位には減速感がはっきりすると考えている。プロの投資家は既にその風景が見えているのかもしれない。また日経は「流動性危機が去っても大手銀は蛇口を大きく緩めない方向で、中期的に地価上昇ベースは鈍る可能性がある」と述べる。

日本の株式市場と不動産市場は、外国人投資家の主導で回復してきたが、長期・安定的な国内投資家が育つ前に大きな曲がり角に差し掛かった様だ。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

米中仮想空間戦争・続き

2007年09月06日 | 国際・政治

ファイナンシャルタイムズ(FT)は今週始めに中国の人民解放軍が米国の国防省のコンピュータをハッキングしているという記事をすっぱ抜いた。これはFTの特種だからその後もフォローがある。

  • APEC会議でブッシュ大統領は中国の温家宝首相と会談する予定だが、その時中国と特定することなく、国防省のコンピュータ攻撃つまり仮想空間戦争の話を持ち出すかもしれないと言われている。
  • 一方専門家の間では米国も中国と同様~中国政府はハッキングの裏に中国政府がいることを強く否定しているが~、中国の国防省のコンピュータにハッキングをかけていると信じられている。

米国が大統領を含めて、国防総省のコンピュータシステムへのサイバー攻撃に懸念を示し始めたことは、サイバースペース(仮想空間)における米国の絶対的優位性が中国により脅かされていることを示唆するものだろう。

以前は戦争というと陸海空三軍で代表するように、陸・海・空という目に見える領域(ドメイン)だったが、今の戦争は目に見えない領域へ拡大している。目に見えない領域というのは一つは「宇宙空間」でもう一つはコンピュータの領域つまり「仮想(現実)空間~サイバースペース~」である。

中国は今年始めに使用済みの人工衛星をミサイルで爆破し、宇宙空間における力を示したが、今回仮想空間における攻撃能力を示したと見るべきだろう。つまりこのドメインにおける米国の絶対的優位に待ったをかけた訳だ。

だがひょっとすると、話はもっと複雑であるかもしれない。孫子は「兵は詭道なり」つまり戦争とは騙し合いだという。したがって能力があっても能力がないふりをし、相手を油断させるのである。あるいは国内の平和ボケをした連中の目を覚ますために、あるいは軍事予算を確保するために、小さな話を大きく持ち上げることがあるかもしれない。

とはいえ人民解放軍が「敵の玉数より自分たちの兵士の方が多い」などと言っていた時代ははるか昔に過ぎた。人民解放軍は高給を払って、コンピュータの専門家を雇い仮想空間戦力を高めているに違いない。孫子は「賞は間より厚きはなく」と言っているが、これは報償はスパイほど大きいものはないということだ。

仮想敵国を含めたあらゆる外交相手の情報は「諜報活動」という名前の元で収集されている。どこまでが許容されどこからが許容されないのか?一度勉強してみたいものである。それにしても米中仮想空間戦争には虚々実々の駆け引きが見えて面白い。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする