今日本は円安循環に陥っている。その状況は次のとおりだ。
1)企業はリストラを進め、企業収益は顕著に改善している。今年も全企業ベースで増収が見込まれるが、もしそうなると5年連続の増収である。
2)企業は中国や他のアジア勢との競争力を高めるために、又株価を高めるため配当増や自社株買取を行なっているが、労働への配分率は上昇していない。正確にいうと昨年3月期総労働者の現金賃金は1997年以来始めて上昇した(1%)。しかし昨年11月の政府統計によると1.1%ダウンしているので今年度は再び下降する見込みだ。
3)パートや派遣社員の割合は昨年6月-9月間で33.4%に達している。これは10年前の水準21%に比べ10%以上の上昇だ。
4)全体として賃金が上がらないため、消費が伸びない。消費が伸びないので物価が上昇しない。11月の消費者物価指数は前年比僅かに0.2%上昇しただけである。最近のエネルギー価格の下落を見ると向う数ヶ月で消費者物価指数が下落する可能性はかなり高い。
5)このような中日銀は今週の政策会議で短期金利を0.25%引き上げようとしている。しかし、物価の下落がはっきりするとこれ以上の金利引き上げは困難である。
6)低金利が続く中日本の消費者は海外の高金利を求めてグローバル・ソブリンのような投資信託の購入を続ける。賃金が上昇しないので将来の不安から多少余裕のある人は外債投資にいそしむことになる。これは円売・外貨買なので円安要因である。
7)円安は輸出企業に好ましいので、キャノンやトヨタ等世界優良企業がリードする日本財界はこの円安環境の持続を図る。
本来円安が続くと国内の通貨量が増えるのでインフレが起こるというのが経済学が教えるところだが、今のところそれが起きないなのは株・海外投資・不動産等が流動性を吸収しているからである。
ではこれで日本はハッピーなのだろうか?日本経済の半分以上の役割を担う個人消費が伸びなくて持続的な経済発展はあるのだろうか?また個人が豊かな生活を享受できないような経済成長に意味があるのだろうか?という問題が起きて当然だろう。
モノを買う人間の立場からいうと円高が好ましい。何故なら多くの商品を輸入に頼る日本では円高は物価の低下につながるからだ。一方海外に投資している立場からいうと円安の方が好ましい。
極端にいうと円安を持続させる政策というのは、持たざる消費者の負担で持てる消費者を益々裕福にする政策ということになる。
従ってこれを是正するなら、労働配分率を引き上げることが一番の政策である。
というようなことを考えていたら、今日の日経新聞朝刊に「三井住友銀行が14年振りに初任給を引き上げる」という記事が出ていた。3万1千円約18%の引き上げになるそうだ。これでも銀行の初任給は全産業平均を下回っているという。
先程の私の論調、つまり労働配分率を引き上げろという意見から見ると三井住友の判断は一見正しいかのように見えるが実は私はそうは思わない。理由は日本は労働配分率を改善しながら生産性や対外競争力を高めなければならないからだ。特に大手金融機関はM&Aなどの美味しいディールを外資系金融機関に軒並み奪われている。そしてその穴を個人向け投資信託や変額年金の販売で埋め合わせている勘定だ。
初任給を引き上げないと優秀な大卒社員が取れないという事情も分かるが三井住友クラスの金融機関に本当に必要なことは「一律の初任給」などという馬鹿な考え方を早くすてることだろう。できる社員に出来高払いで報酬を払って、せめて国内の案件位もう少し外資に取られないようにするということが必要である。
労働配分率を高めるということとベアのように一律に給与水準を上げるということは同一ではない。日本企業は今漸く給与制度を変革できるプラスのファンド(利益)を得ることが出来たがこれをどう配分するかが今後の競争力の優劣に直結する。
そして競争力が高まらないと国富が外資に流れ出ることになり結局円安になってしまうのである。こう考えると競争力を高める様な労働配分率の改善こそが今取るべき施策ということが分かってくる。