春のループ作「獅子唐女」「もこもこ男」
そして、
一行がそこの5階のカフェテリアに行くと、
直人が見かけたあのてっぺん禿で、
顔がもっこり男に瓜二つの男がまたひとりで雑誌を読んでいたのだった。
ソウセキは既にその男が獅子唐男ではない、
と確信していたが、
直人の方は、写真と実物とは違い、また、
写真の撮り方が失敗しただけで、
まさに、
その双子のようなてっぺん禿の男こそ、
獅子唐男に違いない、
と確信していたので、
もっこり男が、
その男を見つけたとたん、
その男になんと声をかけるのか、
息を呑んで待っていたのだった。
すると、
もっこり男のとりまきのひとりが、
「あー、いましたよ!」
とそれだけ言ったので、
直人の方は思わずにやりと笑い、
ソウセキの方はそんなバカなという顔で、
慌てて、直人から送られてきた画像を見直していたのだった。
「あんた!
ここに来るなって言ったのに!
何でまた来るの!」
そして、
もっこり男がいきなり大声で、
そのてっぺん禿の男を怒鳴りつけたので、
直人は内心喜び、
ソウセキの方は何故だという表情をしたのだったが、
そのてっぺん禿の男は、
「悪いが、
俺は、
おまえの顔を立てて、
ジムと浴場とプールには行かないようにしていたが、
おまえからここにも来るなと言われた覚えもないし、
ここなら、おまえの顔をたてる必要もないからな」
と、
もっこり男そっくりの声だが、意外に落ちついた感じで言い返したのだった。
この時点で、
ソウセキはやはりその男が獅子唐男ではない、
と確信したが、
直人は鈍いので、
これから二人の闘いが始まるものと思い込み、
闘いが始まった瞬間逃げようと企てていたのだったが、
さきほどと違う、
もっこり男のとりまきのひとりが、
「もこもこ男様、
あの獅子唐男いませんでしたか?」
と言ったので、
直人はがっかりして座り込んでしまうと、
「直人! わかるわよ」
と言った後、
もこもこ男様と呼んだ、
とりまきのひとりには、
「あんたは破門!
そのもこもこ男についていきな。
それが本音なんでしょ!」
と怒鳴ると、
とりまきのなかのもうひとりの男が、
「私も破門で結構ですから、
もこもこ男さまについていって、よろしいですか?」
と言いだしたので、
もっこり男にとってはもちろん、
ソウセキや直人からしても、
まったくの予想外の展開になったのだった。
(続く)
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