これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

ドタバタ終業式

2009年12月27日 21時25分05秒 | エッセイ
 新型インフルエンザ感染防止のため、私の勤務校では、去る12月25日の終業式を放送でおこなった。
 校長の話から始まって、冬休みの過ごし方や表彰、その他連絡事項という順番に進み、ほんの20分程度の予定である。私も連絡事項があり、しゃべることになったので、「校長先生の話が始まったら放送室に来てください」と指示された。
 実のところ、私の学校では、放送室の稼働率が極端に低い。校内放送は内線電話からできるし、昼休みに音楽を流すという活動もない。入試のさい、ヒアリングテストで使うくらいだろうか。だから、機器の取り扱いに詳しい教員がいなかった。

「生徒のみなさん、今日で2学期が終わります」
 定刻になり、スピーカーからは校長の話が流れ出した。私はそろそろ、寒い廊下を通って放送室へ行かねばならない。
 放送室に入るのは初めてだ。開けっ放しのドアから中をのぞくと、エレベーター並みの小さな部屋だとわかった。
 そのとき、若手の教員がバタバタと駆けつけ、ドアの外の副校長に話しかけた。
「副校長、外に全部聞こえてます!」
「えっ、聞こえてる?」
 校内放送がグランドに流れると、近隣住民の迷惑となる。校外に騒音をまき散らさないでほしいと、苦情の電話がたびたびかかってくるのだ。校舎内のみに放送するはずだったのだが、どうしたのだろう。
 放送室は2階にある。副校長は、走って階段を下り、放送の確認をするため校舎外に飛び出した。
 
 校長の話がまとめに入ったあたりで、2番目に話す戸塚先生がやってきた。
「ああよかった、間に合った。いや~、来る途中で、廊下にいた生徒が貧血起こして倒れちゃってさぁ。放っておけないし、でも俺も行かなきゃならないから、ホントに焦ったよ」
 彼は私にタイミングの悪さを嘆きつつ、校長と入れ違いに放送室に入っていった。

 そこへ、副校長と若手教員が戻ってきた。
「本当だ、聞こえるね。早く直さないと!!」
 2人とも、いつになく取り乱した表情で、放送室に続いていった。
「年末年始、みなさんに守ってもらいたいことがあります」
 冬休みの注意を呼びかける戸塚先生のすぐ脇に、放送機器のボタンが並んでいる。副校長と若手教員は、この中のどれを押せば近隣への音漏れがなくなるのか、狭い室内で考えていた。
「これかな?」
 副校長は、それらしいボタンを押してみた。すると、出力の設定が変わったようで、スピーカーからの戸塚先生の声が少し小さくなった。
「飲酒や喫煙の誘惑に負けず、高校生らしい生活をしてほしいと……」
 再び副校長は1階に下りて校外に出る。すぐさま、「まだ聞こえる」とつぶやきながら、放送室に戻ってきた。戸塚先生は、横目でチラと副校長を見るが、話を中断するわけにもいかず、用意してきた内容を続けた。
「また、髪を染めたら、なかなか元に戻りません。軽い気持ちで染めると、あとで必ず……」
 その隣では、また副校長たちが「これか?」「いや、こっちかも」と相談しながら、別のボタンを押していた。今度は、放送の声が大きくなった。
「始業式で、また頭髪検査をしますから、ひっかかることのないように……」
 試行錯誤しながらボタンを押すたびに、放送の音量やトーンが変わっていく。教室で放送を聞いている生徒たちは、さぞかし奇妙に感じたことだろう。悪戦苦闘の末、放送機器の設定を変更できたのは、戸塚先生の話が終わった直後だった。
「聞こえません、大丈夫ですっ!」
「ああ、よかった!」
 安堵する副校長と若手教員とは対照的に、むっつりとした表情で放送室を出る戸塚先生を、私は見てしまった……。彼はその日、実にタイミングが悪かったのだ。
 
 考えようによっては、非常にインパクトのある話になったのではないか。
 生活指導上の注意など、生徒にとっては馬耳東風、聞き流すに限るだろう。
 しかし、音量が大きくなったり小さくなったりして、いつもと違う雰囲気を感じ取れば、「なんだなんだ」とつい耳を傾けてしまったかもしれない。
 そうだ、そういうことにしておこう。



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14 コメント

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Unknown (暇フォト)
2009-12-28 03:00:49
最近の放送機材は、わかりにくかったりしますよね~

はたして子供たちは、ちゃんと聞いていたんでしょうかねっ(笑)

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高校でも… (Yano)
2009-12-28 05:56:26
高校でも校長の話を放送するなんて、今は変わったもんなんだねぇ。オレは小学生の頃は放送部だったから、校長の話をテレビカメラで撮ったり、昼休みに放送を流したりしていたけどね。
「髪を染めたら元に戻りません」に対して、「ビゲンヘアカラーなら戻るし、脱色と染色は違います!」なんて屁理屈を言って反論する生徒はいなかったのかな…?(笑)
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あらあら(笑) (ジョバンニ)
2009-12-28 06:41:31

果たして聞いてもらったかな(笑)
いつもぶっつけ本番なの?
あわてますね
マニュアル作れば良いのに(笑)
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まぁ、どっちにしてもね… (陽水)
2009-12-28 09:45:30
昔から人の話しを聞くのが苦手なせいか内容を咀嚼しないまま返事したり~(笑)


生徒も聴いてるフリしてるだけで…冬休みは羽目を外すぜぃ!みたいな感じじゃなかろうか(笑)

タバコ、酒、女…あっ、もしかしたらタバコが値上がりしたら喫煙する輩が減るかも(爆)
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問題のボタン (砂希)
2009-12-28 11:05:10
>暇フォトさん

どうやら、「一斉」という設定になっていたようです。
これを解除しないと、可能な場所すべてに放送が入ってしまうんです。
狭い部屋で、ああだこうだと騒ぐ人たちの隣で放送するのは困難ですね。
私だったら、気が散って話せなかったかも…。
私の番じゃなくてよかった(笑)
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意外な… (砂希)
2009-12-28 11:08:29
>Yanoさん

へえ、放送部だったの?!
小学生らしからぬ、ハードロックなんかを流しそう(笑)
髪はビゲンで真っ黒に染まる子もいるけれど、ムラになっちゃう子もいて、髪質によるみたいだよ。
傷んでいる子は特にダメだね。
私は染めたことないなあ。
面倒くさいもの(笑)
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思いつき (砂希)
2009-12-28 11:11:11
>ジョバンニさん

どうも、前日に校長が思いつきで提案したようです。
私はてっきり体育館で行うものだと思って、それ用の準備をしていたのですが、まったく無駄でした~。
3学期の始業式も、この調子だと放送でしょうね。
それで、また同じ問題にぶち当たるような気がします(笑)
次は用ないけど、放送室まで見に行かなくちゃ。
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言ったところで (砂希)
2009-12-28 11:15:00
>陽水さん

そうそう、冬休みの過ごし方を説いたところで、素直に聞くはずないものね。
一応、保護者用にもお手紙を作って、生徒に持ち帰らせるんですよ。
おそらく、生徒のカバンか机の中に入れっぱなしと思われる…。
それでも、問題が起きたとき、学校からそれを防止する手立てがあったか、なかったかが大事なんですよ。
結局は家庭の問題だと思うけど、学校からも働きかけをしていかないと。
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冬休みの過ごし方 (こけし)
2009-12-28 12:27:11
夏休みもそうですが、長期休みになると必ず注意があるんですよね。
髪を染めるな、というのを守っている生徒はあまりいませんでした(笑)
でも頭髪検査の際、熟練の先生になると髪質で普段染めてるかどうかがわかるんだと、担任の先生がこっそり教えてくれました。
そして大学でも冬休みの過ごし方についての注意があり、驚きを隠せません(笑)
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大学も?? (砂希)
2009-12-28 18:49:43
>こけしちゃん

それは、面倒見のよい大学ですねぇ。
過保護?
もっと、学生の自主性を尊重してもよいのではないかしら。
もっとも、学生の問題行動もニュースで報道されますから、せざるを得ないのかも?
私、パーマで髪が傷んでしまったわぁ~(泣)
真っ黒のはずなのに、ところどころ茶色になってきましたよ、トホホ…。
生徒には「染めたの?」と聞かれました。
どないしよ…。
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