「岩殿山に行きませんか?」
同僚の栗本さんは山男である。山の日に、山の会のメンバーで登山をするから、一緒にどうかと誘われた。
「特に予定はないから行きたいけど、一人じゃね~」
姉に声を掛けると、意外なことに乗り気だった。かくして、山の日、岩殿山登山ツアーに参加することになったのである。
8月11日午前9時。ツアー参加者は大月駅に集合だ。
「砂希、はい、これ」
姉から、袋詰めした行動食セットが手渡される。登山は非常にエネルギーを使うので、羊かんや塩タブレット、チョコレート、せんべいなどをつまみながら歩くといいらしい。物々交換ではないが、私は姉のお弁当も作ったので、持ちつ持たれつといったところか。
大月駅から少々歩き、登山道へ。
標高は634メートル。さほど高くない山だから、山頂がここから見える。
だが、私はこの階段を上る途中で、具合が悪くなってきた。胸がムカムカして足が重い。手先もビリビリしてきた。一体どうしたのだろう。リーダーの栗本さんが、ときおり後ろを振り返り、安否を気づかってくれるから助かった。
「みなさん、大丈夫ですか」
「ちょっと具合が悪いです。指先が痺れてきました」
「それはいけない。きっと熱中症でしょう」
たしかにこの日も暑かった。でも、経口補水液を飲んでいたし、塩タブレットも食べたはず。それより、無性に甘いものが欲しかったから、低血糖だったのかもしれない。朝食にパンを2個用意したのに、時間がなくて1個しか食べられなかったことが脳裏に浮かんできた。しっかり糖質をとらないと、こういう結果になるらしい。
「食欲はありますか?」
「はい」
どんなときでも、私は物を食べられるのだ。もはや特技か?
「じゃあ、おにぎりを1個食べてみましょう」
ちょうど、手前に梅干しのおにぎりがあった。うーん、美味しい~!
栗本さんからは「1粒100円」の塩粒をいただき、口に入れた。げげっ、しょっぱい!
ご飯のおかげか、塩粒のおかげかわからないが、10分後には復活し、登山を再開することができた。みなさん、ご迷惑をおかけしました……。
山頂まで、ゆっくり上って15分くらいだろうか。
レンズが曇っていたのか、クリアーでなくて申し訳ない。
下界が小さく見える。
「まだ早いんですが、この先、お弁当を広げる場所もないので、ここで食べちゃいましょう」
栗本さんの指示で昼食休憩をとる。ミックスベリージュースが体中に染み渡った。デザートのハウスみかんもデリシャスだ。甘いものが欲しくて、羊かんも食べてしまった。
食後は岩殿山を縦走し、天神山に向かう。下ったり上ったりするわけだが、ロープを頼りに急斜面を下りるところが難しかった。
これに比べたら、鎖を持って岩場を登るところは簡単だ。木登りは得意だったからだろうか。
「暑ぅ~」
岩場を抜け、木の間を歩く。どこまで傾斜が続くのだろうか。汗で風呂上がりのような髪になり、熱気で眼鏡が曇る。目に汗が流れ込み痛い。背中もお腹もじっとり濡れてしまった。それでも、登れ登れ登れ、登るんだ!
天神山に着いたらしい。
しかし、ハイライトはこれからだ。
「みなさん、これから稚児落しに向かいます。雨も降ってきました。雨具の準備をお願いします」
名前の通り、稚児落しは物騒な場所なのだ。戦国時代、岩殿山城を居城とした小山田氏が、織田勢に攻め入られ、西側に逃げ落ちようとした。しかし、側室である千鳥姫の稚児が泣き出したため、敵に見つからぬようにと、護衛がこれを投げ落とした場所といわれている。
そんな言い伝えとは裏腹に、何と美しい景色だろうか。
写真を撮ったけれど、雨は激しいし、断崖絶壁に足はすくむしで、迫力不足……。
この100倍くらい感動的だったことをつけ加えておきたい。
汗ダラダラ、心臓バクバク、足ガクガクのキツい登りも、すべてこの絶景に救われる。ああ、頑張ってよかった。山男も山ガールも、単純でわかりやすいのだ。
感動はさておき、雨に濡れた断崖を踏み外し、「ババ落し」にならぬよう慎重に移動した。
先に進むと、稚児落しを臨む場所に出る。いかにも「登山」した雰囲気があるではないか。
雨もすっかり上がり、下山を開始した。
ところどころで休憩したこともあり、出発から6時間後に大月駅に戻ってきた。
行きに見た風景とは違った印象を受ける。
「じゃあ、一杯やって帰ろうかな。明日もあるし」
何と、山の会の方は、翌日も別の山を登るらしい。連続登山だ。さすがにそれは真似できない。
「ああ、楽しかったわぁ」
姉は3年ぶりの山だったらしい。満足してもらえて、私もうれしい。
いかにも、山の日らしい一日に感謝!
↑
クリックしてくださるとウレシイです♪
※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
同僚の栗本さんは山男である。山の日に、山の会のメンバーで登山をするから、一緒にどうかと誘われた。
「特に予定はないから行きたいけど、一人じゃね~」
姉に声を掛けると、意外なことに乗り気だった。かくして、山の日、岩殿山登山ツアーに参加することになったのである。
8月11日午前9時。ツアー参加者は大月駅に集合だ。
「砂希、はい、これ」
姉から、袋詰めした行動食セットが手渡される。登山は非常にエネルギーを使うので、羊かんや塩タブレット、チョコレート、せんべいなどをつまみながら歩くといいらしい。物々交換ではないが、私は姉のお弁当も作ったので、持ちつ持たれつといったところか。
大月駅から少々歩き、登山道へ。
標高は634メートル。さほど高くない山だから、山頂がここから見える。
だが、私はこの階段を上る途中で、具合が悪くなってきた。胸がムカムカして足が重い。手先もビリビリしてきた。一体どうしたのだろう。リーダーの栗本さんが、ときおり後ろを振り返り、安否を気づかってくれるから助かった。
「みなさん、大丈夫ですか」
「ちょっと具合が悪いです。指先が痺れてきました」
「それはいけない。きっと熱中症でしょう」
たしかにこの日も暑かった。でも、経口補水液を飲んでいたし、塩タブレットも食べたはず。それより、無性に甘いものが欲しかったから、低血糖だったのかもしれない。朝食にパンを2個用意したのに、時間がなくて1個しか食べられなかったことが脳裏に浮かんできた。しっかり糖質をとらないと、こういう結果になるらしい。
「食欲はありますか?」
「はい」
どんなときでも、私は物を食べられるのだ。もはや特技か?
「じゃあ、おにぎりを1個食べてみましょう」
ちょうど、手前に梅干しのおにぎりがあった。うーん、美味しい~!
栗本さんからは「1粒100円」の塩粒をいただき、口に入れた。げげっ、しょっぱい!
ご飯のおかげか、塩粒のおかげかわからないが、10分後には復活し、登山を再開することができた。みなさん、ご迷惑をおかけしました……。
山頂まで、ゆっくり上って15分くらいだろうか。
レンズが曇っていたのか、クリアーでなくて申し訳ない。
下界が小さく見える。
「まだ早いんですが、この先、お弁当を広げる場所もないので、ここで食べちゃいましょう」
栗本さんの指示で昼食休憩をとる。ミックスベリージュースが体中に染み渡った。デザートのハウスみかんもデリシャスだ。甘いものが欲しくて、羊かんも食べてしまった。
食後は岩殿山を縦走し、天神山に向かう。下ったり上ったりするわけだが、ロープを頼りに急斜面を下りるところが難しかった。
これに比べたら、鎖を持って岩場を登るところは簡単だ。木登りは得意だったからだろうか。
「暑ぅ~」
岩場を抜け、木の間を歩く。どこまで傾斜が続くのだろうか。汗で風呂上がりのような髪になり、熱気で眼鏡が曇る。目に汗が流れ込み痛い。背中もお腹もじっとり濡れてしまった。それでも、登れ登れ登れ、登るんだ!
天神山に着いたらしい。
しかし、ハイライトはこれからだ。
「みなさん、これから稚児落しに向かいます。雨も降ってきました。雨具の準備をお願いします」
名前の通り、稚児落しは物騒な場所なのだ。戦国時代、岩殿山城を居城とした小山田氏が、織田勢に攻め入られ、西側に逃げ落ちようとした。しかし、側室である千鳥姫の稚児が泣き出したため、敵に見つからぬようにと、護衛がこれを投げ落とした場所といわれている。
そんな言い伝えとは裏腹に、何と美しい景色だろうか。
写真を撮ったけれど、雨は激しいし、断崖絶壁に足はすくむしで、迫力不足……。
この100倍くらい感動的だったことをつけ加えておきたい。
汗ダラダラ、心臓バクバク、足ガクガクのキツい登りも、すべてこの絶景に救われる。ああ、頑張ってよかった。山男も山ガールも、単純でわかりやすいのだ。
感動はさておき、雨に濡れた断崖を踏み外し、「ババ落し」にならぬよう慎重に移動した。
先に進むと、稚児落しを臨む場所に出る。いかにも「登山」した雰囲気があるではないか。
雨もすっかり上がり、下山を開始した。
ところどころで休憩したこともあり、出発から6時間後に大月駅に戻ってきた。
行きに見た風景とは違った印象を受ける。
「じゃあ、一杯やって帰ろうかな。明日もあるし」
何と、山の会の方は、翌日も別の山を登るらしい。連続登山だ。さすがにそれは真似できない。
「ああ、楽しかったわぁ」
姉は3年ぶりの山だったらしい。満足してもらえて、私もうれしい。
いかにも、山の日らしい一日に感謝!
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「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)