これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

しゃもじ、大地に立つ

2016年05月19日 21時33分26秒 | エッセイ
 家電の寿命は10年なんていうけれど、アタシは笹木という家で、25年もご飯を炊き続けているのさ。
 この家族は炊き立てが好きでね、朝の分を2合、夜の分を2合という具合に、一日2回も働かされるもんだから、内釜がほら、こんなボロボロにハゲちまったよ。



 アタシは8合炊きなのにさ。
 もっと大家族の家に買ってもらえばよかったよ。
 さすがに、最近じゃ外ブタまで歪んできてね、右からも左からも蒸気が漏れるようになったもんだから、人間たちも焦ったみたいだよ。
 急いでカタログを見て、新しいのを探してた。

 ん?
 アンタ、見たことない顔だね。
 そうか、アンタがアタシの代わりに働いてくれる炊飯器?
 ―ええ、そうです。
 何合炊きなんだい?
 ―5.5合です。
 やけに半端だね。
 ―最近は、これが普通ですよ。
 そうかい。時代は変わったね。頭が黒くて、イカしてるよ。
 ―恐れ入ります。



 でも、容量が小さい割に、体の大きさはアタシと大して変わらないじゃないか。
 ―お恥ずかしいんですが……。私はおねえさんより重たいと思います。
 えっ、そうなのかい?
 ―おねえさんの内釜は何グラムあります?
 えーと、たしか360gだったよ。
 ―私の内釜は、986gもあるんです。
 へえっ、そんなに重いなんて思わなかったよ。見かけによらないね。



 こんなに厚手でガッシリした釜なら、美味しいご飯が炊けるだろうよ。
 ―ご飯には自信があります。それと、しゃもじにも。
 しゃもじ?
 ―私のしゃもじは、自立するんです。



 へええ、こりゃ大したもんだ!
 ―よく思いついたと感心しますよ。コロンブスの卵ですね。
 あれ? ピッピッピッって音がするよ。
 ―今、炊き上がりました。ふっくらとして弾力性のある仕上がりなんです。ご覧になる?
 見せとくれ。



 ああ、いい匂い!
 ―これからは、私が炊飯しますから、おねえさんは休んでくださいね。
 じゃあ、そうさせてもらおうか。
 ―長いこと、お疲れ様でした。


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 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
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