これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

亭主にしたくない男

2011年08月25日 19時43分07秒 | エッセイ
 実家は駅から遠い場所にあった。電車に乗るには、バスを利用しなければならない。終バスを逃したら、タクシーに頼るしかない。父は、飲み会で帰りが遅くなったとき、迎えに来てもらえるようにと、母に普通免許を取らせようとした。
 現在、母は70代目前だが、当時は30代の終わりである。教官は、概して若い女性にはやさしい。しかし、『あたしンち』のお母さんに似ているオバさんには、かなり冷たかったらしい。なかなか見きわめをもらえずに、相当な金と時間をかけて、父のお迎えのために何とか免許を取った。
 帰りの心配がなくなると、父は遠慮なく、駅まで母を呼びつけた。ときには、毎日のように迎えに行ったようだ。当たり前のように「○時に来てくれ」という電話がかかってきて、無言で車にエンジンをかけていた母の姿を思い出す。
 そして、事件は起こった。
 若葉マークが取れた頃だろうか。いつものように、父から「11時に着くから駅まで頼む」と連絡があり、子どもたちを残して、母はひとりで車を運転した。駅前のスペースに車を停めると、ちょうど電車が到着している。ほどなく、構内から人がうじゃうじゃと出てきた。母は父を探したが、見当たらない。
 次の電車にも、その次の電車にも、父の姿はなかった。
 駅前は、いつまでも車を停めておける場所ではない。他の車にクラクションを鳴らされ、母はロータリーから離れようと車を発進させた。
 そのとき、前にいたタクシーが、いきなりバックしてきた。ブレーキをかけたが、逃げ場がない。リアガラスが迫ってきて、「ガシャーン」という金属音と同時に、体に軽い衝撃が走った。
 ぶつけられたのだ。
 すぐに、タクシーから運転手が降りてきて、「邪魔じゃないか!」と怒鳴りつけてきた。
 母も、「そっちがぶつけてきたんじゃないですか」と言い返したが、周りはタクシーばかりで分が悪い。早く父に加勢してもらいたかったが、まだ帰ってこない。普段は気丈な母も、このときばかりは心細くてしかたなかったそうだ。
 結局、父が駅に登場したのは、それからさらに20分経ってからだった。
「寝過ごして終点まで行っちゃったから、折り返し運転で帰ってきたよ」などとほざいたというから呆れる。ふくれっ面の母から話を聞き、「こういう男と結婚するのは、絶対にゴメンだ!」と肝に銘じた。

 先日読んだ本に、「女性の扱いに不慣れで恋愛スキルが低く、気が利かない、甘い言葉もささやけない日本男性は、欧米女性にまったくモテない」というくだりがあった。
 まっさきに、私の脳裏に浮かんだ男性が父であったことは、いうまでもない……。



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 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
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コメント (16)
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