これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

新しい先生を紹介します

2008年08月17日 20時51分33秒 | エッセイ
 ときどき、教室を間違えて授業に行く先生がいる。当然、本来の授業の先生と鉢合わせし、照れ笑いをしながら職員室に戻る羽目になる。生徒には笑われるし、カッコ悪いことこの上ない。
 生徒は慣れているからすぐ忘れるのだが、珍しい場合は忘れられない。
 私の妹は中学生のとき、3人の先生が自分の教室に集まってくる現場に居合わせた。
「2人ならたまにあるけどさ、3人っていうのは滅多にないよね」
 たしかに、そうそう見られる光景ではない。正規の授業担当者だって、2人も余計な先生に来られては、自分が勘違いしているのではないかと不安になっただろう。そのインパクトの強さで、話を聞いただけの私ですら、20年経ってもまだおぼえている。
 しかし去年は、その上をいく強烈な出来事が起きた。
 2学期のはじめ、病気で休業する先生に代わって、講師の先生がやってきた。私が勤務する学校では、そういう場合、副校長が教室まで新しい先生を連れて行き、生徒に紹介することになっている。
 チャイムが鳴り、新しい先生のデビューとなった。副校長が彼女を迎えに来た。
「じゃあ、行きましょうか」
「はい」
 講師の先生は、やや緊張した面持ちで副校長のあとをついていった。私も授業だったので、2人を見送ってから教室に行った。
 廊下がやけに静かだった。どうしたのだろうと思いながら、教室に入ろうとしてビックリした。
 何と、副校長が新しい先生と一緒に、そこにいるではないか!
 講師の彼女は、ドキドキした表情で、一生懸命自己紹介をしているところだ。一瞬ためらったが、他に手はなかった。
「あの~、副校長先生、お教室が違うようなんですけれども……」
「ええっっっ!!」
 副校長はこちらを振り返り、宇宙人か何かをみるような目つきで私を睨んだ。
「ここは、私が授業をする教室です。お隣じゃないんですか?」
「なにぃ~!? 本当?」
 副校長は、なかなか私の言葉を信じようとしない。いつも自分が授業をしているわけではないから、前もって教務担当の先生に教室を確認したはずだ。だが、残念なことに、その情報は間違っていたらしい。
 生徒は、思ってもみない展開に度肝を抜かれ、ただただ呆然と見ているだけだった。
「笹木さん、何でもっと早く教室に来ないんですか! あなたが遅いから悪いんですよ」
 すっかり立場のなくなった副校長は、責任転嫁に必死だった。彼はさらに生徒にまで当り散らした。
「何で君たちも違うと言わないんだ! 黙って見ているなんて人が悪いぞ!!」
 顔どころか耳まで赤くして副校長は出て行った。その後ろを、講師の彼女があわててついていった。
 2人がいなくなると、教室の中にはクスクスと笑い声がしはじめた。
 立場上、私は笑うわけにはいかなかったのだが、こらえるなんて到底無理だった。



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コメント (2)
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