「なぜ北朝鮮は日本人を拉致したのですか？」

「なぜ北朝鮮は日本人を拉致したのですか？」

　政府拉致問題対策本部が平成30年10月に発行した「北朝鮮による日本人拉致問題」と題する小冊子のなかに、６拉致問題Q&Aのコーナーの、Q２なぜ北朝鮮は日本人を拉致したのですか？との問答がある。
　政府の答えを要約すると、①工作員による日本人への身分の偽装、②工作員を日本人に仕立てるための教育係としての利用、③北朝鮮に匿われている「よど号」グループによる人材獲得、を理由に挙げている。①は原敕晁さんを拉致した辛光洙事件、②は田口八重子さんを拉致した李恩恵拉致容疑事案、③は有本恵子さん拉致に代表される欧州における日本人女性（男性）拉致容疑事案が該当する。そして、拉致された日本人が共通してやっていたことは、北朝鮮で必ず朝鮮語を学ばされることや、日本語を工作員に教えることだそうだ。
　しかし、この②には疑問がある。1959年～1984年まで実施された帰国事業で北朝鮮に帰還した在日朝鮮人数は93,340人、その内の6,679人が内地出身者、またその内1,831人がいわゆる日本人妻だと政府文書にある。政府認定の拉致被害者17人は1977年～1983年に拉致されていることから、帰国事業と年代がダブっている。また、残留日本人と称される方々は、1960年1月1日現在で1011名は北朝鮮に存在していたことが政府文書から明らかである。
　日本語も朝鮮語も読み書きできたであろう人間が10万人近くもいるのに、日本の主権を侵害し、国家犯罪という非常に高いリスクを承知の上で工作員に日本語を教えるためにわざわざ日本人を拉致する理由があるのだろうか。時間や用務に余裕があるときに工作員に日本語を教えることはあったと思うが、これが日本人拉致の目的とは思えない。
　政府は、北朝鮮が日本人を拉致した理由から、「拉致した日本人を工作員として養成し、対南工作に利用する」との一項目を意図的に外しているのではないのか。私は、この疑問を長い間払拭できないでいる。