さきち・のひとり旅

旅行記、旅のフォト、つれづれなるままのらくがきなどを掲載します。 古今東西どこへでも、さきち・の気ままなぶらり旅。

独房のようなモスクワのホテルへ ~イタリア紀行2

2010年06月28日 | イタリア
 幸い(!?)ホテル行きのバスの迎えは1時間あまりでやってきた。薄暗いホールを、遠くからひとりの女性職員がコツコツ…と歩いてきた。そののんびり具合が、まさか人を待たせている歩調だとは思わなかったが、横に立ち、面倒臭そうに「ホテル」と一言発したのである。これぞ共産圏の本質だ。競争社会ではないがゆえに、効率やサービスを受ける人間のことは考えない。最低限の「自分の義務」だけを果たせばよい、という公務員的思考法。まあ日本の公務員によくあるような、カン違いした選民意識が見られないだけましかもしれぬが、国家全体が公務員では、熾烈で容赦のない資本主義の民間企業には絶対に勝てないだろうと思った。事実、これは旧ソビエト連邦が崩壊する直前のことだったのである。
  10人ばかりがバスに連れて行かれると、それは白黒映画に出てくるような乗り物博物館ものの旧式バスだった。90歳の老人をムチ打つような喘ぎ声を絞り出しつつバスは走った。外の街道を走る車はみなスクラップのようだ。数分も走らぬうちに、バスは空港に隣接したホテルに到着した。歩いてもすぐな場所へのバスを待つのが、場合によっては数時間という国…。
 エアポート・ホテルは、あまりにも古くなったため引越しが済み、取り壊しを待つばかりの廃墟となったビルの雰囲気がした。人の出入りがないのだ。なかに入ると薄暗く、フロントに人はいなかった。装飾がなく、物がないために異様な雰囲気だ。そのままお化け屋敷として立派に利用できるだろう。6階に行けと指示された。そら恐ろしいエレベーターに乗り込む。4~5人が入るとドアが閉まりかかった。ひとりがドアを抑えようと手を出したが、無常にもドアはそのまま閉まった。安全装置はない。何かがはさまった場合はどうなるのであろうか。「6」のボタンを押すと、そのボタンは2cm程めり込み、もとに戻らない。押した客は苦笑する。異様な音と揺れに不安を感じながらエレベーターは上昇した。落下か閉じ込められる恐怖心を全員無言で共有したあと、エレベーターは無事6階へ到着し、めり込んだボタンははじけるような音をたてて元の位置に飛び出した。
 その階にはテーブルが置いてあり、そこが受付になっているようであった。鍵を渡され部屋に向った。ひどく安っぽい鍵だというのに、回してもなかなか開かない。横の壁を押さえて力を入れると、ベニヤでできた壁がはがれそうになる。なんとか破壊せずにドアを開けるのに数分は費やした。
 なかには粗末なベッドと、小さいテーブルと椅子がひと組。別に不潔なこともないし、それ以上を望む必要もないのだが、あまりにも殺伐とした雰囲気が、刑務所の「独房」を連想させた。事実ここはトランジット用のホテルで、ビザがない以上外出ができるわけもなく、外に通じるすべてのドアが固く閉ざされている、いわば収容所なのである。
 風呂は幸いお湯が出た。バスタブには栓がない。すり切れたタオルを詰めて利用した。10時間以上のフライトと空港の不安な待合室のあとなので、ベッドの上で体を伸ばせるのは本当に気持ちがよかった。



空気は冷たく、このような針葉樹林が果てしなく続いている。この大地がトルストイやドストエフスキーを生んだのですなぁ(^益^;


2 コメント

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梅雨にピッタリ^^; (ゆくえ)
2010-06-28 10:44:21
さきちさんの描写に表現に記憶力に脱帽っす
梅雨のムシムシが吹っ飛んでゾゾ~ッと涼しくなりやした・・
国家全体が公務員とは、旧ソ連を一言で理解できる気がするぅ・・
湯浅さんってNPO主催者で年越し派遣村を主催した人が、民主党に呼ばれて一定期間だけ政府内で活動したのをNHKが特集した番組見たとき感じた、公務員っていったい・・って感想思い出しタ
黒沢明監督の合作映画はまだ見てナイんだけど、さきちさんとロシアはけっこう縁があるんじゃナイ?嬉しくナイ?
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Unknown (さきち・)
2010-06-28 21:21:28
隣の青い枠、Visitorsによれば、ロシアからの訪問者がお1人いらしたようですね。おそらく日本語は読めないだろうと思うけど(^益^;
ロシアは異様な魅力がありますね。何かあの寒くて広大な大地が人々のメンタリティの土台になっているような気がします。
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