麻酔が発達する訳

甥っ子は日本出発２日前に左の指を骨折してしまった。
自宅裏庭で何か知らんが獲物を捕獲するために罠を仕掛けていたが、その罠に自分が挟まれて骨折したあほなケースである。
左中指第一関節の骨折と爪がほとんどはがれていたので、病院では爪もそのまま剥いだそうだ。
その時かなり泣き叫び暴れたと義妹から聞いた。
患部も縫合し、指にはちょっと大げさかなというぐらい包帯をして、肘からストラップもしていた。
男の子は動き回るのと、他人が見て彼がけが人だと一目で認識出来るサインのため、ここまでしっかり保護している。単独の怪我だけを考えるとここまでの処置は不要であるが、皆が「あの子は怪我をしている」と思ってくれているのとくれてないのでは対応も違うだろうし、厳しい日本では大げさぐらいな装着の方が何かと良いであろう。
甥っ子がこういう感じなので、荷物を運ぶ人間が一人減る。極力荷物は少なくしてね、と注文した。

「感染を避けるために日本に行ったら２度程再診を受けてくれ」と義妹から頼まれた。再診日のおおよその日は聞いていたので、東京に着いた二日後、たまたま東京滞在を数日延期してくれていた義父が自分の整形外科の検診もあるからと一緒に甥っ子を連れて行ってくれた。

お昼に帰ってきた義父と甥っ子だが、義父は甥っ子のあまりの暴れよう、泣きように飽きれていた。

「男はあんなに泣いちゃダメだ、情けない！」

ふーんと聞いたつもりが聞いてなかったと知るのは後の事だ。

骨折してから約２週間後、今度は松山で私が近所の整形外科に連れて行った。
病院には普通に二人で行った。診察室も普通に入った。

「はい、患部を見せて下さい」という段になると、甥っ子は頑に手を凄い力でかばい始めた。
これじゃあ、先生診れないよ。
「嫌だ」と言って、絶対手を開こうともしない。
体全体を使って指を隠そうとする。
見せなければ感染するかもしれないのもわかっているだろうが、痛いという先入観と恐怖心で泣き始めた。そして暴れ叫び始めた。

「やめて、やめて、やめて～！！！！！！！」
「触らないで～！！！！！」
「もうこのままでいい～！！！！！！』

これを果てしなく叫び続けるのである。

先生に見せるのに３０分ぐらいはかかっただろうか。
回りの患者さんにも迷惑がかかるので私も甥っ子を押さえつけ、気が付いたら５－６人のスタッフが総掛かりで甥っ子を押さえつけていた。尋常ではない叫び声だったので、私は彼の口も塞いでいた。

そして、患部のガーゼをとり、きれいに消毒して新しい包帯を巻いた。

これだけをするのに約１時間。

終わったら、甥っ子は泣き笑いをし、病室を出たらけろっとしていた。
お前なあ・・・・・ガーゼ交換だけでこんなにかかってどうするんじゃいっっっ。
いい加減んにしろっっっっ
看護師さんたちもさぞ驚いた事であろう。あんなにぎゃーぎゃー泣き叫ぶ子、見た事ないもん。

「二日後抜糸に来て下さい。」
と言われたが、こんなに疲労困憊するぐらいなら一生糸を入れていてもらっていてもいい。入れっぱなしにすると感染症になりやすいから、入れ続ける事は避けた方がいいのは百も承知であるが、もう嫌っ。
再診の際、夫に代わりを頼んだら、絶対甥っ子と喧嘩になるのも目に見えたので、アメリカに帰って義妹に任せることに決めた。

異常に怖がる甥っ子。こういう子がいるからアメリカは子供でもがんがん麻酔をかけるんだろうなあ。
歯医者なんかいい例だ。治療の際、がんがん笑気ガスをかけるからだ。うつらうつらさせた間にさっさと治療する魂胆だ。
大人だって全身麻酔を使う頻度が多い。
親知らずを抜く時。胃カメラを飲む時。大腸の内視鏡検査をするときは全身麻酔だ。
悪態をつく患者や感情のまま動き回る患者が多過ぎるから、こういう処置が増えるんだと思う。必然、麻酔科医、麻酔専門看護師の数も日本と比べ物にならない程多い。「麻酔科医が少ないから病院を閉めます」なんてことはここではありえない。

昨日、義妹と話したら、甥っ子は土曜日に無事抜糸した。
しかし病院に行くまでにかなり抵抗をし、車に乗せるのも至難の業。頑として動かなかったらしい。医師の前でも全く手を見せようとせず、結局医師は羽交い締めどころか、甥っ子の体をバンドでとめて抜糸したらしい。
お前どこまで大げさなんじゃ・・・・。びびるにもほどがあるよ
患部を診せてもらったら、爪はないけどきれいに治っていた。後は時間が解決してくれる。
普通に出来るのに、ものすごーく指をかばっていた甥っ子。
もうつきあいきれません、はい。