ひろむしの知りたがり日記

好奇心の赴くまま
なんでも見たい!
知りたい!
考えたい!

「ロングストリート」実戦ジークンドー講座 (1) ─ オリエンテーション

2014年07月07日 | 日記
1965年頃のある日、ブルース・リーが弟子であり、親友でもあるダン・イノサントとドライブをしていた時のことです。ブルースは、フェンシングで最も効率的な反撃法は1つの動作で受け流しと反撃を同時に行う“Stop-Hit”だと話しました。これは、攻撃された時に相手の動きを、自分から繰り出す突きで迎撃するもので、あらゆる反撃法の中でも最も効率的なやり方だというのです。ブルースが「僕たちのやり方も『ストップ=ヒット拳法』とか、『迎撃拳法』とでも呼ぶことにしようか」と提案します。「中国語では何というんだい?」とイノサントが聞くと、ブルースは「ジークンドー(Jeet Kune Do、截拳道)かな」と答えました。これが、ブルースが自らの武術体系を呼称するのに用いた「ジークンドー」という語が誕生した瞬間です。

ジークンドーの思想が色濃く反映されたテレビドラマがあります。それは、1971年から72年にかけて、米国のABCが放映した毎回60分のシリーズ「ロングストリート(LONGSTREET)」の中の1話です。このドラマは、日本では1976年にテレビ東京で放映されました。邦題は「復讐の鬼探偵ロングストリート」といいます。
製作総指揮を務め、脚本をも書いたスターリング・シリファントは、イノサント同様ブルースの弟子にして友人です。彼は「夜の大捜査線」でアカデミー脚色賞を受賞し、「ポセイドン・アドベンチャー」や「タワーリング・インフェルノ」も手がけた敏腕脚本家・製作者です。
彼は、「グリーン・ホーネット」が終了して以来目ぼしい役に恵まれないブルースが俳優としてのキャリアを積む手助けをしようと、新しく作られるテレビシリーズ「ロングストリート」の中に、彼の役を盛り込みました。そしてこの話には、「THE WAY OF THE INTERSEPTING FIST(拳をさえぎる方法)」というタイトルがつけられました。まさに「ジークンドー」を英語でいったものです。

ブルースの協力を得ながら書かれたこの話には、盲目の主人公に自分の身を守るための闘い方を教える武術指導者が描かれています。1971年12月9日に収録された「ピエール・バートン・ショウ」のインタビューでブルースは、あの場面では自分自身を演じたのだと語っています。この1話は彼の格闘における方法論と哲学の集大成でした。これは後に、映像に遺された彼の最も重要な仕事の1つに数えられることになります。

ブルースの武術論をまとめた『魂の武器』

優秀な保険調査員であるマイク・ロングストリート(ジェームズ・フランシスカス)は、鋭い着眼点と粘り強い捜査でいくつもの不正行為を摘発してきました。それだけに、彼に恨みを持ったり、邪魔だと感じている者たちが大勢いたのです。そして、ついに悲劇が起こります。シャンパンに仕掛けられた爆弾によって、愛する妻と自らの視力を失ってしまいました。しかし彼は、不屈の意思をもって調査員としての活動を再開します。
そんな彼を支えるのは盲導犬のパックスと、音で向けた物との距離を知らせるエレクトロニクス仕掛けの杖、そして点字を教えてくれたニッキー・ベル(マーリン・メイソン)や、友人で仕事のパートナーであるデューク・ペイジ部長(ピーター・マック・リッチマン)らです。さらにロングストリートの前には、思わぬ救世主が現れます。それが、ブルース演じる中国人骨董商のリー・チョンです。

ある晩、1人で通りを歩いていたロングストリートは、彼に脅しをかけようとする3人の暴漢に襲われ、通りかかったリーに救われました。ロングストリートはリーのように闘う術を学びたいと望みます。リーは、最初はそれを断りましたが、やがてロングストリートの真剣な思いに心を動かされ、「私は教えることはできないが、あなたが自分自身を探究する手助けならできるかもしれない」と協力を引き受けるのです。

リーはロングストリートに、ステップ・ワークに始まり、詠春拳のチーサオ、フィンガー・ジャブ、サイド・キックから噛みつきに至るまで、ありとあらゆる実戦的な技を教え込みます。これらはすべて、ジークンドーにおけるテクニックです。このエピソードはまさに、ジークンドーの入門フィルムといってもよい内容になっています。
それでは、次回はいよいよ、それらについて具体的に見ていくことにしましょう。


【参考文献】
ブルース・リー著、風間健編『魂の武器 截拳道への道』福昌堂、1980年
ブルース・トーマス著、横山文子訳『BRUCE LEE:Fighting Spirit』PARCO、1998年
松宮康生著『ブルース・リー最後の真実』ゴマブックス、2008年