ひろむしの知りたがり日記

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「グリーン・ホーネット」カトー進化論 (3)

2014年06月07日 | 日記
【第4章】 バットマンVSグリーン・ホーネット

シリアス過ぎるのが災いして、製作者の期待通りに視聴率を伸ばせなかった「グリーン・ホーネット」に対し、コメディ・タッチでよりエンターテインメントに徹した「バットマン」は第2、第3シーズンとシリーズを重ねていきました。そうした中、弟分である「グリーン・ホーネット」になんとかテコ入れしようと、グリーン・ホーネットとカトーの「バットマン」へのゲスト出演が図られます。
まずは1966年9月30日の「グリーン・ホーネット」第4話「死を呼ぶ電子計算機」放映前の28日、「バットマン」の第41話「カブトムシには毒がある」でロープを使ってビルをよじ登るバットマンとロビンの前に、ホーネットとカトーがちょっとだけ窓から顔を出します。さらに翌1967年3月3日の「グリーン・ホーネット」第23話「危険な贈り物」放映直前の3月1日には「バットマン」の第85話「グリーンが街にやって来た」、翌日には第86話「アルファベットは26文字か?」という続きものの2話が放映されました。
これは、「グリーン・ホーネット」の第2シーズンを念頭に置いて製作されたものだとも言われています。第85話には、警察本部のゴードン総監が「バット・フォン」というバットマンに通じる専用電話で、「ロサンゼルス方面で暴れまわっていたグリーン・ホーネットが、ついにゴッサム・シティに現れた」と語るシーンがありました。

ストーリーはというと、2大仮面ヒーローの共演にしてはいささかスケールの小さな敵が相手のお話です。
スタンプ会社の工場長ガム大佐は、一方では変装して切手商を営み、偽物を売りつける悪党です。彼は国際切手展示会で高価な逸品を偽造切手とすり替え、大儲けしようと企んでいました。バットマンのホームグランドであるゴッサム・シティにやって来たホーネットとカトーは、犯罪者と見なされている自分たちと違い、正義の味方ともてはやされるバットマンやロビンと反目しながらも、力を合わせてガムの陰謀を阻止します。

このドラマの中に、ホーネットとバットマン、カトーとロビンがそれぞれ闘うシーンがありますが、ブルースの発する威圧感にロビンを演じるバート・ワードが怖気づいて後ずさりしてしまったとか、バートが実際にブルースと張り合おうとして、そのあまりに速い動きに手も足も出なかったといった逸話が残されています。

【第5章】 ブルース・リー主演(?)の劇場版「グリーン・ホーネット」

1973年に製作された「燃えよドラゴン」が大ヒットしたため、日本をはじめ世界各地でそれ以前の「ドラゴン危機一発」や「ドラゴン怒りの鉄拳」などが相次いで公開されました。映画界はブルース・リーという稀に見る純度の高い金の鉱脈を掘り当てましたが、それが見つかった時、彼は既にこの世の人ではありませんでした。
そこで、彼が過去に出演した作品をあさって、使えるものはないかと探しまわることになります。そんな中で発掘されたのが、彼が準主役を務めたTVシリーズ「グリーン・ホーネット」でした。
といっても1回30分の番組(正確にはコマーシャルが入るので約22分)ですから、20世紀フォックスは数本を集めて1本の作品にすることにしました。そして全エピソードの中から、「探検クラブ」という表看板の影で殺人を繰り返す秘密結社に挑む第11話「人間狩り」、宇宙人を装って核弾頭の強奪を目論むマッド・サイエンティストと対決する第24・25話「水爆スチール作戦 前・後編」、チャイナタウンを舞台に中国人同士の抗争を描く第10話「火を吐く空手」の4本が選ばれ、それらを編集し直して1時間24分の劇場用映画にしました。

「人間狩り」では後にブルースのトレードマークの1つとなるヌンチャクも登場しますが、しかしそれよりも4本のうちで最も注目すべきは、「火を吐く空手」のカトーとマコ岩松演じるロウ・シンとの対決シーンです。ここでは中国人のブルースが日本人を、日本人のマコが中国人を演じるという逆転現象が起こっています。
カトーは空手の達人、ロウは蟷螂拳<とうろうけん>の名手という設定でしたが、ブルース本人は詠春拳を母体として独自に作り上げた截拳道<ジークンドー>の創始者ですから、実際には空手対中国拳法ではなく、中国の伝統武術と新時代の武術の対決ということになるのでしょうか。マコ岩松におそらく拳法の心得はなかったでしょうが、格闘シーンでは顔がアップになる時以外はブルースの親友で、弟子でもあったダン・イノサントが代役をしていますので、それなりに本格的なアクションになっています。

 
 「ブルース・リーのグリーン・ホーネット」劇場パンフレッド(同時上映「ブルース・リーのドラゴン拳法」)

この映画は日本では、「ブルース・リーのグリーン・ホーネット」(BRUCE LEE IN THE GREEN HORNET)と題され、1975年3月21日に公開されました。当時のチラシには、驚いたことに「アメリカ主演第1回作品」と書かれています。それを信じて映画館に足を運んだ人は、さぞガッカリしたことでしょう。
もともとTV放映時から、ファンレターのほぼすべてがブルース宛てだったという事実はありましたが、あくまでもこのドラマの主役はタイトルが示す通りグリーン・ホーネットです。それにもかかわらず、このような広告が打たれたのは、カトーが役柄のあり方はそのままに、演じたブルースの世間におけるステータスが向上するのと連動して、作品内での彼の存在価値が進化したことを意味しています。
「看板に偽りあり」との感がしないでもありませんが、それでも「ブルー・ス・リーのグリーン・ホーネット」はヒットし、柳の下のドジョウを狙って第2弾が作られることになります。


【参考文献】
ブルース・トーマス著、横山文子訳『BRUCE LEE:Fighting Spirit』PARCO、1998年
四方田犬彦著『ブルース・リー 李小龍の栄光と孤独』晶文社、2005年
松宮康生著『ブルース・リー最後の真実』ゴマブックス、2008年