俳句手帖から新詠を拾って 大野比呂志生
長瀞にて詠む
雪洞(ぼんぼり)や万朶(まんだ)の花に風情添え
松籟(らい)のどっと起りて落花急ふ
青川綿(あおみどろ)鳴かぬ蛙がふけうかぶ
春宵を寝て読むくせの何時かあり
飛鳥(つばめ)来る日なり郷愁ひたに湧(わ)く
野火跡のいささか黒くしどみ咲く
焼糠(ぬか)の煙り戸毎に桑(くわ)若葉
春蝉の鳴きたゆたひる山颪
麦笛の鳴(な)らねば捨てて亦ねだる
畑も打ち句も詠み郷に住み古りぬ
『菅谷村報道』2号 1950年(昭和25)5月20日