上海青葉病院にて
悲しさに窓邊に立ちて名を呼べど
そ知らぬ雨に今日も涙す
雨の日に啄木の唄集めいし
友の仁美を今も忘れじ
つらきとて誰にたよろう心なれ
指かみしめて涙こらえぬ
町々の庭はほうきのあとついて
ぴいちくスズメ何語るのか
クリークのおたまじゃくしを手にとれば
ほのぼのこいし前髪の頃
今日も又帰らぬ日々をいと惜しみ
むなしく暮すやるせなき身を
ピンセット持つ指先もかろやかに
看護の朝の仕事にかゝる
白ぬりの病院船の気高さを
無事であれよと心で祈る
今日も又若草ふみて薬室へ
我通うなりいくたびとなく
淋しげに唯淋しげにひゞくなり
夜半のしじまに氷かく音
うつりきてまだしたしまぬこの室の
窓にしたたる雪の淋しき
残業の友と二人の淋しさは
机の冷えをしみじみ感ず
月澄めば靴音さゆる巡回の
今宵淋しき不寝番(ふしんばん)我は
古里の友の便りの嬉しさに
いくどもいくども読みにけり