虹はポケットの中に

再スタート
何度でも生まれ変わる
自分の音を探す旅

ライク・ア・サブタレイニアンズ26

2012-02-20 16:05:26 | ライク・ア・サブタレイニアンズ1
雪音だ、雪音がそこにいる
ボクは、すぐさま駆け寄ったけれど気の利いたことは
何もいえなかった、雪音はにこにことボクを見ていたけれど、
どこかとっても哀しそうな眼をしているのがわかった
ボクは雪音の深い色の瞳と、雪音の顔をしっかりとこの眼に焼き付けようとした
すると雪音が「ミノルさん、これ、バスの中で食べて」と言って
小さな紙袋を渡してくれた、その時発車時刻になり、ボクは雪音を引き寄せ、
おもいっきりきつく抱きしめた 抱き締め合ったまま、時間が止まればいいと思った
ミノルさん、3年後だよ」「うん、わかった、約束だ」ボクたちは3年後の再開を約束していた
「時間だ」ボクは最後に雪音の頬と髪に触れ、その感触をその手に留めてバスに駆け込んだ
窓際に座ったボクを、見えなくなるまで雪音は見送ってくれた
バスは先を急ぐように発車した バスには感情がないらしい
バスはものすごいスピードでボクたちの(だった)街を離れて行った
少し眠った、それから雪音がくれた包みを開いてみた

ライク・ア・サブタレイニアンズ25

2012-02-19 21:46:59 | ライク・ア・サブタレイニアンズ1
「ああ、これで終わっちゃうのかな」って思っていたんだ
ボクが実家に帰ることになった翌日、雪音がボクに
「ねぇ、鍵、返してほしいの・・・・」って言った
当然だよね、部屋を引き払うのだし、ボクもこの街から去る
頭では、良く解っているんだけど雪音にそう言われた時は
全てが終わってしまうような気がしたんだボクの心が
何故か音を立てて崩れていくようだった
もう、帰ってくる場所は無いのだ、ボクはそう思って
奥歯を噛み締めた
何をすれば良いのだろう?残された時間は5日しかなかった
ボクにはなす術もなく、黙々と準備を重ねていくことしか
できなかった
出発の日はすぐにやってきた
高速バスのターミナルは待合客でいっぱいだった
ボクは何度も何度もチケットと時計を交互に見ていた
落ち着けるわけなんてなかった
発車時刻が迫り、改札が始まったのでボクも
荷物を持って並んだ
列は、のろのろと進んでいた
「ミノルさん!」名前を呼ばれて振り向くと
雪音が立っていた

ライク・ア・サブタレイニアンズ24

2012-02-17 19:30:08 | ライク・ア・サブタレイニアンズ1
ソファに座って、キャンディアップルレッドのテレキャスターを抱えている雪音はとても絵になっていた
ずっと見ていたくなるほどだった
「ミノルさん、あのね、話があるの・・・」「何?」
仕事なんだけど、他の店から〝来ないか″って言われてるの・・・・
ちょっと真剣な話みたいだった雪音は、実は、バリバリのフレンチのパテシエだった
それが他の店から引き抜きがあったっていうのだ
その店の名前は誰でも耳にしたことがある有名シェフの店だった
「正直、迷ってるの・・・」
ボクはそんな話は受けるべきだというような優等生な答えしか
返せなかった「わかった・・・ミノルさんが言うなら受けて、やってみる」
雪音は少し浮かない顔をしている「どしたの?雪音、なんかあった?」
「それがね、S市なの・・・・職場が・・・だからこの部屋も
引き払わなくちゃいけないの・・・・」
こんなときに、何を答えるべきか、ボクには語彙の持ち合わせがなかった
ずいぶん長い時間二人で黙り込んだ
ボクの携帯が鳴った「はい、ミノルでっす・・・・・」
電話を切った後、雪音がボクに「どしたの?顔、青いよ」
「家の事情で、帰らなくちゃいけない」「実家に?」「そう」
何があったのかは、雪音は訊かないでくれたけど、わかっているんだろうな
「いつ帰るの?」「5日後に高速バスに乗るよ」
「・・・・早いね・・・・」「ごめん」
「ミノルさんは、あやまることなんてない、ないから・・・」

ライク・ア・サブタレイニアンズ23

2012-02-16 22:37:14 | ライク・ア・サブタレイニアンズ1
ボクは自分のCDコレクションの中から、それらしきものたち・・・ルー・ルイス、イアンデューリー、ニック・ロウ、ドクターフィールグッド
など、パブロックと呼ばれているものを片っ端からCDケースに詰め込んでいった
「こんなもんかなぁ」ってある日のバンドの練習帰りに雪音にそれを持って行った
「ピンポ~ン」って自分で言いながら雪音の部屋のドアを開けた
「あ、ミノルさん練習帰り?」
ボクがギターを背負ったままでやって来たので雪音がそう訊いた
「うん、そうだよ、はい、これ・・・」「え、何?何?」
「パブロックのCD、これくらい聴いておけばOKだと思うよ」
貸してくれるの?」
「うん」「やった!やった!」この言い方が出るときはかなりよろこんでいるんだ
早速、雪音はCDの中からドクターフィールグッドを選んで、プレイヤーに入れた
「かっこいいね」「かっこいいだろ?おれは大好き」「あたしも好き」
ボクはギターケースからテレキャスターを出してCDに合わせて弾いてみせた
「いいな、ギター弾けて・・・・」「簡単だよ、ほら、持ってみて」と、雪音にギターを持たせた
緊張しながらもポロポロと爪弾いている姿はなんだか、ボクよりもギターが似合っていた
だからつい、言ってしまったんだろう
「それさ、弾けるようになったら、雪音にあげるよ」
「ほんとにほんとにぃ?」雪音は少し疑わしそうな眼でボクを観た「ほんとだよ、だからがんばって練習しなよ」
「ありがとう・・練習する・・・」しばらく雪音は気に入ったのか、ギターを離そうとしなかった

ライク・ア・サブタレイニアンズ22

2012-02-14 14:06:17 | 日記
そんなことを知ってしまった次の日の朝ってなんだか照れくさいよね
二人とも平静を装っているんだけど、どこかぎこちない感じでさ、
まあ、いつもと変わらないやりとりをして、仕事に行こうとしたんだけど、出がけに玄関のドアのところで
雪音とキスをした途端に、昨晩が鮮明に蘇っちゃってさ
仕事行くのやめようかと思ったけど、そこはやっぱり、大人だし、ね、
そういえば昨日、雪音からもうひとつリクエストがあったっけ
「ミノルさん、あたし パブロックが知りたい」
ちょうど、パブロックはボクの得意分野だった・・・でもまた
作戦練らなくちゃなぁ

ライク・ア・サブタレイニアンズ21

2012-02-13 18:38:10 | ライク・ア・サブタレイニアンズ1
そうして、なんだかボクはにやにやしながらも、一日の仕事を終え、
部屋へ(もちろん雪音の)戻ったんだ
「ただいまぁ~」「あ、おかえりなさい」って言うのと同時に
雪音はボクに駆け寄ってきて、不意打ちのキスをくれたんだ
いつも通り長いキスを交わしながら雪音が言った
「すっごいびっくりしたんだよぉ」「何が?」(←わざとらしいな)
「CDだよ」「あたしさ、帰ってきたらあれ?テーブルの上に何かあるっ
誰!!!!?「よく考えたら鍵持ってるのミノルさんしかいなかった」
「他に誰か持ってたらおれ、いやだよ」「もう、とにかくびっくりしたんだってばぁ」
「あれ、名盤なんだぜ」「うん、聴いてみたら <あたし、これ好きっ>って思ったの
「そか、良かった、かなり迷ったんだぜ」 この時、ボクは雪音にプレゼントできたことが自分でうれしかったんだ
「ありがとうミノルさん、とってもうれしかったよ、朝時間無いのにわざわざ買いに行ってくれて・・・・」
「雪音だからだよ、他の人にはそんなことしないよ」「きゃぁーっ、ほんとぉ?」
「ほんとほんと」そんな感じでボクたちはまたも長い長いキスに入った
そしてベッドに入り、その日初めてボクは、雪音の体温を知ったんだ

ライク・ア・サブタレイニアンズ20

2012-02-11 16:10:08 | ライク・ア・サブタレイニアンズ1
その作戦とは、ボクは雪音より出勤時間が早く、ボクが出かけてから雪音は仕事へ行く、
帰りもボクの方が遅い・・・なのでその時間差を利用して、仕事に行く前のほんのわずかな時間で、
大急ぎでタワレコに寄って、これもまた大急ぎでブルーノートのコーナーから、
コルトレーンの「ジャイアントステップス」を購入(プレゼント用にラッピングも
してもらった)それを抱えて、またまた大急ぎで誰もいない部屋に戻り、テーブルの上に
メモ書きを添えて置いて、今度こそ(すでに遅刻だが)急いで、急いで仕事へ行った
仕事中はずっと、雪音の反応が楽しみで、自然ににやけていた
雪音に電話しようかと思ったけれど、それはがまんした(←えらい)

ライク・ア・サブタレイニアンズ19

2012-02-09 22:12:45 | ライク・ア・サブタレイニアンズ1
中途半端な時間だったので、乗客のほとんどいない電車に雪音とボクは乗った
車内はガラガラに空いていたので、シートに並んで座った
電車はガタン、ゴトンと、どこか懐かしい音を響かせて進んでいた
雪音の部屋までは、ほんの2~3区だったので、あっという間に着いてしまった
もう少し、この電車の雰囲気を雪音と楽しみたかったけど、しかたない
ゴトン、ゴトン、とゆっくり電車は停車した
雪音の部屋までは、停留所から、5分ぐらい歩くんだ
電車を降りたと同時に、やっぱりボクたちはしっかりと手をつないでいた
「ちょっとタバコ買いたいからコンビニ寄っていい?」ってボクはコンビニでラッキーストライクを2箱買った
雪音はいつものように、朝ご飯って言ってパンを買っていた
(雪音は米が好きではないのである)
部屋に帰り着くと、いつもと変わらず、「はい、」って雪音がビールを冷蔵庫から出して渡してくれる
飲みに行った後でもボクらはいつも通り、変わらずに、テーブルの上は空き缶の山にして眠った
次の日、朝に雪音が「あたし、ジャズが聴きたいなミノルさんがおすすめのやつ♥」
「ふぅ~んそっかぁ何か選んであげるよ」ボクはそこから作戦を開始した

ライク・ア・サブタレイニアンズ18

2012-02-09 16:51:01 | ライク・ア・サブタレイニアンズ1
お店は、地酒や焼酎を取り揃えている、感じの良い居酒屋だった
居酒屋と、言うには、しっかりした料理を出していた
小上がりに座って、ボクはビール、雪音は地酒が気になるみたいで、
しばしメニューとにらめっこ
お店の人に「おすすめは?」なんて訊いていたけど、どうやら
決まったらしい九州の方のお酒にしたみたい
ボクたちは、豆腐に八丁味噌のたれがかかった温かい豆腐料理や、
雪音は「あたしこれ」って「おからもち」というのをオーダーした
他に1~2品たのんで、二人でつまみながら飲み始めた
「ミノルさん、飲んでみる?」って雪音が言うので、
ゆきねがたのんだお酒を一口味見した
雑味の少ない、すっきりとした辛口の酒だった
「うまいな」「うん、たくさん飲んじゃいそう
つぶれたら連れて帰ってね」お酒が少し入っているせいか、
今日の雪音の目つきはなんだか色っぽくて
少しドキッとした
適度に(今日は)切り上げてボクと幸音は店を出た
すっかり暗くなっていた
「車、置いて帰ろう飲んじゃったし、明日
取りにくるよ」「おいて来ればよかったね」
ボクたちは夜風に当たりながら
いちばん近い路面電車の電停まで歩いて行った
もちろん手はつないでいる
ほろ酔いで寄り添って歩くのはとても、まして好きな女の子ならば
良い気分だってこと、この夜に初めて知ったんだ

ライク・ア・サブタレイニアンズ17

2012-02-07 16:16:24 | ライク・ア・サブタレイニアンズ1
雪音はなかなか現れなかった
歩道わきにボロボロのジムニーsj-30(ボクの愛車だ)を寄せて
停めて待っていた、心配になって携帯をポケットから出したところで、
窓を「コンコン」って雪音が笑っていた
ドアを開けて雪音をナビシートに座らせた「どのくらい待った?」
「たくさん」「んもぉ、急いだんだよぉ」「じゃ、行こうか」「出発ぅ~」
あくまでも脳天気である・・・・・
夕方の込み合った街中を抜け、目的のお店へと向かった
初デートなのでお互いに少し緊張していた
雪音は、いつもよりおしゃれをしてきたみたいだった
お店に着いて、車をパーキングに停めて、車外に出て気が付いた
普段はコンバースなんかをつっかけている雪音が
ちょっと素敵なパンプスを履いていた
指差して「・・・それ・・」って言うと雪音が
「ごめんね、これ選んでて遅れちゃったの・・今日はどうしても
パンプスでデートしたかったの・・・」
「許す」と、ボク 「普段履かないから・・変じゃない?」
「すごく似合ってるよ、かわいい」
多少、バカップルである
ボクとのデートのために、精一杯おしゃれをしてきた雪音が愛おしくて
たまらなかった
ますます恋の深みにハマっていったのは言うまでもない