○ 南向きの窓からの光強すぎて勉強できない理由になって (杉並区) 平岡あみ
「理屈と膏薬は何処にでも付く」という喩が在るが、本作の作者・平岡あみさんは、膏薬などという、あのベタベタとして、お母さんの説教以上に厄介な代物をご存じにならないご年齢なのでありましょう。
「南向きの窓からの光」が「強すぎて勉強できない理由」になるのは、陽が斜めに射す冬季間だけのことであって、陽が高くなる春季以降はそれを「理由」にして、勉強を怠けることは出来ません。
この世の中は大変厳しいので、しっかり勉強しましょう。
〔返〕 南向きの明るい部屋をあてがわれ勉強できることの幸せ 鳥羽省三
○ 旨いとて好きかといふと微妙なり戦後育ちの男の南瓜 (豊島区) 杉中元敏
「戦後育ちの男」とは、<戦前・戦中に生まれたが、一番お腹を空かしていた発育時期が終戦直後だった世代の男性>のことである。
この世代の者は男女を問わず、口に入るものならば、たとえ釘でもガラスでも何でも食べたと言われているくらい食べ物に餓え、がつがつしていたのである。
したがって、南瓜などは御の字といったところでありましょうが、さすがにその時期を過ぎてしまうと、「旨いとて好きかといふと微妙なり戦後育ちの男の南瓜」という仕儀に相成るのでありましょうか?
〔返〕 逃れ得ず税を納める気分にて南瓜スープをたまに飲んでる 鳥羽省三
○ 制服に名札をつけた「南くん」眠らせ四月の電車は走る (熊谷市) 林 邦子
「四月」は新学期が始まったばかりの時期であり、この時期の早朝には、「制服に名札を」つけた坊主頭が「電車」の中で居眠りをしている光景を見ることが珍しくない。
作中の「南くん」とは、通勤途上の作者がたまたま遇った学童の一人であって、作者とは顔見知りでも親戚でも無いのでありましょう。
〔返〕 埼玉の田舎であればこそ出来る通学途中の車内の居眠り 鳥羽省三
以上三首が、特選一席、二席、三席に選定された作品である。
○ 裏鬼門南西角の井戸端に盛塩を置く義母(はは)の代わりに(熊本市) 横手まゆみ
鬼門とは艮(東北)の方角を指すのであるから、本作中の「南西角」こそは正しく「裏鬼門」に当たっている。
本作の作者・横手まゆみさんの「義母」様は陰陽道を信仰なさっている方であったと見受けられ、住居の「裏鬼門」即ち「南西角」に在る「井戸端」に「盛塩を置く」ことを慣わしとされていたのであるが、その「義母」様に代わって、この頃はその嫁女である作者が「盛塩」をする、というのでありましょう。
「義母」様になり代わって「盛塩を置く」のではあるが、本作の作者には、「義母」様ほどの信仰心は無いのでありましょうか?
〔返〕 年毎の節句の際は粽巻き家族揃って旨しとて召す 鳥羽省三
○ 何故か南は歌にならぬらし演歌はみんな北を向いてる (北九州市) 赤松菊夫
「北」と比べると確かに少ないようですが、私の知っている範囲でも次のような十数曲が在ります。但し、演歌とは限りません。
『南の花嫁さん』(高峰三枝子)・『南国の夜は更けて』(林伊佐緒)・『南から南から』(三原純子)・『南国土佐を後にして』(ペギー葉山)・『湘南 My Love』(TUBE)・『南十字星』(西城秀樹)・『南の島のハメハメハ大王』(水森亜土・トップギャラン)・『南十字星』(チャゲ&飛鳥)・『南回帰線』(堀内孝雄・滝ともはる)・『南風』(レミオロメン)・『南風』(下川みくに)・『ゆ・れ・て湘南』(石川秀美)・『風は南から』(長渕剛)・『北の狼 南の虎』(水木一郎)・『恋人は南風』(サザンオールスターズ)・『サザン・ウインド』(中森明菜)・『サザンクロス』(稲垣潤一)・『湘南グラフィティ』(桃太郎)・『湘南SEPTEMBER』(サザンオールスターズ)・『南海の月』(三島敏夫)・『南国の小径』(トリオ・ロス・チカノス)・『南国の雪』井上陽水/奥田民生・『南東風』(GLAY)・『南風の頃』(ふきのとう)・『南三条』(中島みゆき)・『~南太平洋~ サンバの香り』(松田聖子)・『南に舵を取れ』(かりゆし58)・『南の誘惑』(日野てる子)・『少年は南へ』(頭脳警察)
以上ですが、探せば在るものですから、迂闊にものは言えません。
〔返〕 これからはもっと多くなるでしょう。<サザン>あたりは要注意です。 鳥羽省三
○ 〈玉砕〉といふ一語ゆゑルーペまで重ねてさがす南方の島 (須崎市) 森 美沢
日本軍が「玉砕」した「南方の島」と言えば、直ぐ思い出すのは、硫黄島・サイパン島・テニアン島・ペリリュー島・カダルカナル島などであり、そのいずれもが、地球儀上では、「ルーペ」を「重ねて」探さなければならないような小さな島である。
〔返〕 「玉砕」は玉と砕けることであり、砕ける玉は「たましい」の「たま」 鳥羽省三
○ 「ハメハメハ」南の島の王の名は幼い夢を呼び出す呪文 (瀬戸内市) 小橋辰矢
本作の作者・小橋辰矢さんにとっては、その昔、水森亜土さんがあの独特な声で歌った『南の島のハメハメハ大王』の「ハメハメハ」は、黒柳哲子さんの唱えた<アブラカダブラ>と同様に、「幼い夢を呼び出す呪文」だったと言うのである。
〔返〕 「ハメハメハ!婆ちゃんどものフラダンス、見たくないから消して下さい!」 鳥羽省三
○ 南勢と南島併せて南伊勢十年経れば馴染むであろうが (横浜市) 右田研三
三重県の「南勢と南島」とが合併して<南伊勢町>となったのであるが、本作の作者・右田研三さんは、その中のいずれかの地区を故郷とする方であると思われ、郷土愛の情が人一倍強いから、「南伊勢」という町名には馴染めず、「十年経れば馴染むであろうが」などと、半ば捨て鉢、半ば諦めの境地に立って、この一首を詠んでいるのでありましょう。
〔返〕 大曲と仙北併せて大仙市 花火大会<大曲>のまま 鳥羽省三
○ 生きていれば五十余歳の南海子さんまばたきする目が可憐な象の (川崎市) 岩幸子
インターネットの『高知城ライトアップクラブ』というホームページ中に、<㈱デカゴン>の代表取締役社長・柴田恵子様の「私と高地城」というタイトルのご手記が掲載されていて、その中に「幼稚園から土佐女子校まで、毎日、高知城を見上げながら通学いたしました私にとりまして、高知城は、子供の頃からの遊び場でもありました。私がまだ幼稚園だった頃、お城の南側に動物園があり、インド象の『南海子さん』と名付けられ、大きな耳と長い鼻に驚かされたのも、昨日のように思い出されます(後略)」(2006・11・1)とありましたが、本作中の「南海子さん」とは、この記事中の象を指すのでありましょうか?
同ホームページ管理者及び柴田恵子様には、無断引用させていただきましたことを、深くお詫び申し上げます。
〔返〕 南海子さんはるばるインドから参り坂本龍馬に会えなかったね 鳥羽省三
○ 南洋の楽園らしきひびきありわが腹中のランゲルハンス島 (世田谷区) 野々村学
「わが腹中のランゲルハンス島」とあるから、「ランゲルハンス島」は、本作の作者・野々村学さんの「腹中」にだけ存在する架空の島なのでありましょう。
しかし、現実には存在しないその島の名称には、「南洋の楽園らしきひびきあり」と、作者は思っているのである。
そう仰られてみれば、そのような気がしないでもありません。
〔返〕 絶海の孤島のような響きあり我が即興のブリーゲル島 鳥羽省三
○ スーパーに山と積まれたパパイアは現在を吹き飛ばす南の爆弾 (柏市) 麻生美幸
本作の作者・麻生美幸さんの脳裡には、梶井基次郎の短編小説『檸檬』のストーリーが存在していたのでありましょう。
そう仰られてみれば、「スーパーに山と積まれたパパイア」には、メガトン級の爆弾のような趣きが在ります。
〔返〕 吹き飛ばせパパイヤ爆弾パパとママ何時もぐじゅぐじゅ喧嘩やってる 鳥羽省三
○ 南無六千四百柱みあかしの火のあかあかと払暁の神戸 (福島県) 黒澤正行
<喉元過ぎれば熱さを忘れ>という格言があるが、阪神淡路大震災での神戸市での死者は「六千四百柱」であったことを、私は忘れてしまって居りました。
南無阿弥陀仏。
〔返〕 払暁の神戸の空を赤々と焦がして居たる業火の記憶 鳥羽省三
「理屈と膏薬は何処にでも付く」という喩が在るが、本作の作者・平岡あみさんは、膏薬などという、あのベタベタとして、お母さんの説教以上に厄介な代物をご存じにならないご年齢なのでありましょう。
「南向きの窓からの光」が「強すぎて勉強できない理由」になるのは、陽が斜めに射す冬季間だけのことであって、陽が高くなる春季以降はそれを「理由」にして、勉強を怠けることは出来ません。
この世の中は大変厳しいので、しっかり勉強しましょう。
〔返〕 南向きの明るい部屋をあてがわれ勉強できることの幸せ 鳥羽省三
○ 旨いとて好きかといふと微妙なり戦後育ちの男の南瓜 (豊島区) 杉中元敏
「戦後育ちの男」とは、<戦前・戦中に生まれたが、一番お腹を空かしていた発育時期が終戦直後だった世代の男性>のことである。
この世代の者は男女を問わず、口に入るものならば、たとえ釘でもガラスでも何でも食べたと言われているくらい食べ物に餓え、がつがつしていたのである。
したがって、南瓜などは御の字といったところでありましょうが、さすがにその時期を過ぎてしまうと、「旨いとて好きかといふと微妙なり戦後育ちの男の南瓜」という仕儀に相成るのでありましょうか?
〔返〕 逃れ得ず税を納める気分にて南瓜スープをたまに飲んでる 鳥羽省三
○ 制服に名札をつけた「南くん」眠らせ四月の電車は走る (熊谷市) 林 邦子
「四月」は新学期が始まったばかりの時期であり、この時期の早朝には、「制服に名札を」つけた坊主頭が「電車」の中で居眠りをしている光景を見ることが珍しくない。
作中の「南くん」とは、通勤途上の作者がたまたま遇った学童の一人であって、作者とは顔見知りでも親戚でも無いのでありましょう。
〔返〕 埼玉の田舎であればこそ出来る通学途中の車内の居眠り 鳥羽省三
以上三首が、特選一席、二席、三席に選定された作品である。
○ 裏鬼門南西角の井戸端に盛塩を置く義母(はは)の代わりに(熊本市) 横手まゆみ
鬼門とは艮(東北)の方角を指すのであるから、本作中の「南西角」こそは正しく「裏鬼門」に当たっている。
本作の作者・横手まゆみさんの「義母」様は陰陽道を信仰なさっている方であったと見受けられ、住居の「裏鬼門」即ち「南西角」に在る「井戸端」に「盛塩を置く」ことを慣わしとされていたのであるが、その「義母」様に代わって、この頃はその嫁女である作者が「盛塩」をする、というのでありましょう。
「義母」様になり代わって「盛塩を置く」のではあるが、本作の作者には、「義母」様ほどの信仰心は無いのでありましょうか?
〔返〕 年毎の節句の際は粽巻き家族揃って旨しとて召す 鳥羽省三
○ 何故か南は歌にならぬらし演歌はみんな北を向いてる (北九州市) 赤松菊夫
「北」と比べると確かに少ないようですが、私の知っている範囲でも次のような十数曲が在ります。但し、演歌とは限りません。
『南の花嫁さん』(高峰三枝子)・『南国の夜は更けて』(林伊佐緒)・『南から南から』(三原純子)・『南国土佐を後にして』(ペギー葉山)・『湘南 My Love』(TUBE)・『南十字星』(西城秀樹)・『南の島のハメハメハ大王』(水森亜土・トップギャラン)・『南十字星』(チャゲ&飛鳥)・『南回帰線』(堀内孝雄・滝ともはる)・『南風』(レミオロメン)・『南風』(下川みくに)・『ゆ・れ・て湘南』(石川秀美)・『風は南から』(長渕剛)・『北の狼 南の虎』(水木一郎)・『恋人は南風』(サザンオールスターズ)・『サザン・ウインド』(中森明菜)・『サザンクロス』(稲垣潤一)・『湘南グラフィティ』(桃太郎)・『湘南SEPTEMBER』(サザンオールスターズ)・『南海の月』(三島敏夫)・『南国の小径』(トリオ・ロス・チカノス)・『南国の雪』井上陽水/奥田民生・『南東風』(GLAY)・『南風の頃』(ふきのとう)・『南三条』(中島みゆき)・『~南太平洋~ サンバの香り』(松田聖子)・『南に舵を取れ』(かりゆし58)・『南の誘惑』(日野てる子)・『少年は南へ』(頭脳警察)
以上ですが、探せば在るものですから、迂闊にものは言えません。
〔返〕 これからはもっと多くなるでしょう。<サザン>あたりは要注意です。 鳥羽省三
○ 〈玉砕〉といふ一語ゆゑルーペまで重ねてさがす南方の島 (須崎市) 森 美沢
日本軍が「玉砕」した「南方の島」と言えば、直ぐ思い出すのは、硫黄島・サイパン島・テニアン島・ペリリュー島・カダルカナル島などであり、そのいずれもが、地球儀上では、「ルーペ」を「重ねて」探さなければならないような小さな島である。
〔返〕 「玉砕」は玉と砕けることであり、砕ける玉は「たましい」の「たま」 鳥羽省三
○ 「ハメハメハ」南の島の王の名は幼い夢を呼び出す呪文 (瀬戸内市) 小橋辰矢
本作の作者・小橋辰矢さんにとっては、その昔、水森亜土さんがあの独特な声で歌った『南の島のハメハメハ大王』の「ハメハメハ」は、黒柳哲子さんの唱えた<アブラカダブラ>と同様に、「幼い夢を呼び出す呪文」だったと言うのである。
〔返〕 「ハメハメハ!婆ちゃんどものフラダンス、見たくないから消して下さい!」 鳥羽省三
○ 南勢と南島併せて南伊勢十年経れば馴染むであろうが (横浜市) 右田研三
三重県の「南勢と南島」とが合併して<南伊勢町>となったのであるが、本作の作者・右田研三さんは、その中のいずれかの地区を故郷とする方であると思われ、郷土愛の情が人一倍強いから、「南伊勢」という町名には馴染めず、「十年経れば馴染むであろうが」などと、半ば捨て鉢、半ば諦めの境地に立って、この一首を詠んでいるのでありましょう。
〔返〕 大曲と仙北併せて大仙市 花火大会<大曲>のまま 鳥羽省三
○ 生きていれば五十余歳の南海子さんまばたきする目が可憐な象の (川崎市) 岩幸子
インターネットの『高知城ライトアップクラブ』というホームページ中に、<㈱デカゴン>の代表取締役社長・柴田恵子様の「私と高地城」というタイトルのご手記が掲載されていて、その中に「幼稚園から土佐女子校まで、毎日、高知城を見上げながら通学いたしました私にとりまして、高知城は、子供の頃からの遊び場でもありました。私がまだ幼稚園だった頃、お城の南側に動物園があり、インド象の『南海子さん』と名付けられ、大きな耳と長い鼻に驚かされたのも、昨日のように思い出されます(後略)」(2006・11・1)とありましたが、本作中の「南海子さん」とは、この記事中の象を指すのでありましょうか?
同ホームページ管理者及び柴田恵子様には、無断引用させていただきましたことを、深くお詫び申し上げます。
〔返〕 南海子さんはるばるインドから参り坂本龍馬に会えなかったね 鳥羽省三
○ 南洋の楽園らしきひびきありわが腹中のランゲルハンス島 (世田谷区) 野々村学
「わが腹中のランゲルハンス島」とあるから、「ランゲルハンス島」は、本作の作者・野々村学さんの「腹中」にだけ存在する架空の島なのでありましょう。
しかし、現実には存在しないその島の名称には、「南洋の楽園らしきひびきあり」と、作者は思っているのである。
そう仰られてみれば、そのような気がしないでもありません。
〔返〕 絶海の孤島のような響きあり我が即興のブリーゲル島 鳥羽省三
○ スーパーに山と積まれたパパイアは現在を吹き飛ばす南の爆弾 (柏市) 麻生美幸
本作の作者・麻生美幸さんの脳裡には、梶井基次郎の短編小説『檸檬』のストーリーが存在していたのでありましょう。
そう仰られてみれば、「スーパーに山と積まれたパパイア」には、メガトン級の爆弾のような趣きが在ります。
〔返〕 吹き飛ばせパパイヤ爆弾パパとママ何時もぐじゅぐじゅ喧嘩やってる 鳥羽省三
○ 南無六千四百柱みあかしの火のあかあかと払暁の神戸 (福島県) 黒澤正行
<喉元過ぎれば熱さを忘れ>という格言があるが、阪神淡路大震災での神戸市での死者は「六千四百柱」であったことを、私は忘れてしまって居りました。
南無阿弥陀仏。
〔返〕 払暁の神戸の空を赤々と焦がして居たる業火の記憶 鳥羽省三