○ 満天星にタオル広げて干してあり坂の途中の田井理髪店 (神戸市) 小田玲子
<坂の街・神戸>ならではの風景であり、一首である。
よく手入れされた「満天星」の刈り込みは、坊主頭のように丸まっていて座りがいいから、格好な「タオル」干し場となっているのでありましょう。
作品から推してみるに、「坂の途中の田井理髪店」さんは、それほど大きな店構えの床屋さんとは思われないから、坂道に面した敷地内に植えられている「満天星」の刈り込みも、せいぜい五株から七株程度のものでありましょうか?
仮に七株の刈り込みとしたら、その一株毎に真っ白い「タオル」が二枚ずつ、合計十四枚の清潔なタオルが、坂道に面して並んでいる「満天星」の刈り込みの緑したたる葉っぱの上に干されていて、「いらっしゃいませ、こんにちは。この店の主人は清潔好きで、理髪師としての腕前もなかなかですよ。だから、お母様の躾が宜しく普段は千円カットの店に通っている小田さんちのお坊ちゃまも、三回に一回はこの店にいらして下さいませ。この店のご主人の腕前にかかると、ただでさえ素晴らしいお坊ちゃまの男前が一段と上がり、気分爽快、お付き合いをされていらっしゃる彼女からも惚れ直されますよ」などと、客引きをしているような感じである。
「坂の途中の田井理髪店」と、具体的に店の名前を挙げて述べたところが特に宜しい。
〔返〕 満天星の花は微毒を持つと言うそういう点はどうなのかしら 鳥羽省三
○ ベビーバスにむっつり詰まる白い足父のメガネにお湯蹴り上げる (所沢市) 菱沼志穂
「ベビーバスにむっつり詰まる白い足」という上の句が、健康でよく肥えた赤ちゃんを思わせて宜しい。
また、「父のメガネにお湯蹴り上げる」という下の句は、気持ち良くなってはしゃいでいる赤ちゃんの様子ばかりで無く、その周りで親馬鹿を丸出しにしているご両親の様子なども窺わせて更に宜しい。
〔返〕 お湯だけで足りぬぞ赤ちゃんおしっこも親馬鹿パパの顔まで飛ばせ 鳥羽省三
○ 父の呼ぶチャイムの端末身につけて母は抜きおり家中の草 (山口市) 平田啓子
老老介護の実態を思わせて、大変優れた一首と思われるが、「母は抜きおり家中の草」を「母は抜きおり屋敷中の草」となさったらいかがと思われるます。
お母様としては、「介護にかまけている間に伸び放題に伸びきってしまった敷地内の草を、今のうちに抜いておかなければならない」というお気持ちとは別に、「今日は天気もいいから、たまには寝たきりのお父様の枕元を離れて、のびのびと庭仕事をしてみたい」といったお気持ちもあったのではないでしょうか?
〔返〕 ケイタイとチャイムぶら下げ草を抜く母は傘寿でまだまだ壮ん 鳥羽省三
○ 托卵して子育てもせず郭公は保育所近くにまた鳴きに行く (新潟市) 岩田 桂
「郭公」は、大よしきりや頬白や百舌の巣などに「托卵」する。
他の鳥の巣に預けられた「郭公」の卵は、巣の持ち主の雛より早く、十日程度で孵化するから、巣の持ち主の卵や雛を巣の外に放り出してしまい、自分だけを育てさせるのだそうだ。
そのように、雛の頃からずる賢く立ち回り、成長してからも「托卵」などという不届きなことを平気で仕出かす「郭公」の親が、自分の生んだ卵を他の鳥の巣に預けた後に、人間の雛たちの「托卵」場所たる「保育所近くにまた鳴きに行く」というのは、なかなかに風刺が利いている。
自分の二人の息子を自分の勤務する県立高校に入れないで、東京都内の私立高校や国立大学付属高校に入れたという前歴を持っている私などは、「郭公」の行為を非難する資格を持っていない人間なのかも知れない。
〔返〕 産みっ放し育てもせずに他に預け保育所勤務の親戚も居る 鳥羽省三
○ 読めませんとは決して言わないスキャナーがこれでどうだと文字ぶつけ来る (町田市) 大西亞進
まこと確かに、「スキャナー」は「決して」「読めません」などとは言わないで、私がどんなに怪しい文字(らしきもの)を書いても、「これでどうだ」とばかり変換候補の文字を次々に「ぶつけ来る」のである。
〔返〕 「才」と書けば援護の「援」やら拉致の「拉」やら埒無く変換候補出て来る 鳥羽省三
<坂の街・神戸>ならではの風景であり、一首である。
よく手入れされた「満天星」の刈り込みは、坊主頭のように丸まっていて座りがいいから、格好な「タオル」干し場となっているのでありましょう。
作品から推してみるに、「坂の途中の田井理髪店」さんは、それほど大きな店構えの床屋さんとは思われないから、坂道に面した敷地内に植えられている「満天星」の刈り込みも、せいぜい五株から七株程度のものでありましょうか?
仮に七株の刈り込みとしたら、その一株毎に真っ白い「タオル」が二枚ずつ、合計十四枚の清潔なタオルが、坂道に面して並んでいる「満天星」の刈り込みの緑したたる葉っぱの上に干されていて、「いらっしゃいませ、こんにちは。この店の主人は清潔好きで、理髪師としての腕前もなかなかですよ。だから、お母様の躾が宜しく普段は千円カットの店に通っている小田さんちのお坊ちゃまも、三回に一回はこの店にいらして下さいませ。この店のご主人の腕前にかかると、ただでさえ素晴らしいお坊ちゃまの男前が一段と上がり、気分爽快、お付き合いをされていらっしゃる彼女からも惚れ直されますよ」などと、客引きをしているような感じである。
「坂の途中の田井理髪店」と、具体的に店の名前を挙げて述べたところが特に宜しい。
〔返〕 満天星の花は微毒を持つと言うそういう点はどうなのかしら 鳥羽省三
○ ベビーバスにむっつり詰まる白い足父のメガネにお湯蹴り上げる (所沢市) 菱沼志穂
「ベビーバスにむっつり詰まる白い足」という上の句が、健康でよく肥えた赤ちゃんを思わせて宜しい。
また、「父のメガネにお湯蹴り上げる」という下の句は、気持ち良くなってはしゃいでいる赤ちゃんの様子ばかりで無く、その周りで親馬鹿を丸出しにしているご両親の様子なども窺わせて更に宜しい。
〔返〕 お湯だけで足りぬぞ赤ちゃんおしっこも親馬鹿パパの顔まで飛ばせ 鳥羽省三
○ 父の呼ぶチャイムの端末身につけて母は抜きおり家中の草 (山口市) 平田啓子
老老介護の実態を思わせて、大変優れた一首と思われるが、「母は抜きおり家中の草」を「母は抜きおり屋敷中の草」となさったらいかがと思われるます。
お母様としては、「介護にかまけている間に伸び放題に伸びきってしまった敷地内の草を、今のうちに抜いておかなければならない」というお気持ちとは別に、「今日は天気もいいから、たまには寝たきりのお父様の枕元を離れて、のびのびと庭仕事をしてみたい」といったお気持ちもあったのではないでしょうか?
〔返〕 ケイタイとチャイムぶら下げ草を抜く母は傘寿でまだまだ壮ん 鳥羽省三
○ 托卵して子育てもせず郭公は保育所近くにまた鳴きに行く (新潟市) 岩田 桂
「郭公」は、大よしきりや頬白や百舌の巣などに「托卵」する。
他の鳥の巣に預けられた「郭公」の卵は、巣の持ち主の雛より早く、十日程度で孵化するから、巣の持ち主の卵や雛を巣の外に放り出してしまい、自分だけを育てさせるのだそうだ。
そのように、雛の頃からずる賢く立ち回り、成長してからも「托卵」などという不届きなことを平気で仕出かす「郭公」の親が、自分の生んだ卵を他の鳥の巣に預けた後に、人間の雛たちの「托卵」場所たる「保育所近くにまた鳴きに行く」というのは、なかなかに風刺が利いている。
自分の二人の息子を自分の勤務する県立高校に入れないで、東京都内の私立高校や国立大学付属高校に入れたという前歴を持っている私などは、「郭公」の行為を非難する資格を持っていない人間なのかも知れない。
〔返〕 産みっ放し育てもせずに他に預け保育所勤務の親戚も居る 鳥羽省三
○ 読めませんとは決して言わないスキャナーがこれでどうだと文字ぶつけ来る (町田市) 大西亞進
まこと確かに、「スキャナー」は「決して」「読めません」などとは言わないで、私がどんなに怪しい文字(らしきもの)を書いても、「これでどうだ」とばかり変換候補の文字を次々に「ぶつけ来る」のである。
〔返〕 「才」と書けば援護の「援」やら拉致の「拉」やら埒無く変換候補出て来る 鳥羽省三