臆病なビーズ刺繍

 臆病なビーズ刺繍にありにしも
 糸目ほつれて今朝の薔薇薔薇

一首を切り裂く(026:丸)

2010年06月04日 | 題詠blog短歌
(夏実麦太朗)
   丸のなか塗りたくなっちゃう症候群6890見ればうきたつ

 かかる傑作を読ませていただいたお礼としては、次のような怪作を以ってお返しするしか芸はありません。
  〔返〕 「『カッコ書き『したくなっちゃう症候群」「<(6)(8)(9)(0)>『カッコ』で括る」   鳥羽省三


(松木秀)
   弁慶を相手に蝶のように舞う五条の橋の牛若丸は...

 あの松木秀さんが、かかる実例を以って短歌創作の難しさをお示しになって下さったことに対しては、感謝感激するのみです。
 この頃耳にしなかった言葉ではありますが、「消化試合」という言葉を久し振りに思い出しました。
  〔返〕 歌人ちゃん相手に悪戦苦闘する「題詠blog2010」にて   鳥羽省三


(tafots)
   今ここで役立つものはTシャツと正露丸だけ 君のトランク

 実体験に基づいての作品でしょうか、それとも、フィクションでしょうか?
 鑑賞者の立場としてはフィクションとした方が興味深いので、勝手に述べさせていただきますが、「君のトランク」とは、絶世の美女<tafots>さんと共に、南米アマゾンの奥地に逃避行中の男性の「トランク」なのでありましょうか?
 表現上の細かな点について一言述べさせていただくと、「Tシャツ」の「T」が半角であることが気になります。
 ご投稿をお急ぎになったせいでありましょうか。
  〔返〕 メンターム・蚊取り線香・ナイフなど在れば良いのに君のトランク   鳥羽省三


(伊藤夏人)
   右斜め45℃で忍び込み丸め込まれる理由になろう

 「右斜め45℃で忍び込み」とは、どなたの御宅に、或いはどこの帝國主義国の秘密基地に忍び込む場合の姿勢なのかは判りませんが、「丸め込まれる理由になろう」というお覚悟には、大変感服致しました。
 人間生活のいろいろな場面で遭遇するいろいろな出来事に対処するには、或いは、予め「丸め込まれる理由」をご準備なさった上で対処しなければならないような場面が多いかと思われます。
 昨今の伊藤納豆の売れ行きはいかがですか。
 ご商売の益々ご盛況なることを祈願して、筆を擱かせていただきます。
  〔返〕 90℃真一文字に突入し忽ち激突またも犬死に   鳥羽省三


(中村あけ海) (庶務課中村が承りました)
   受付の前に見事な丸髷のひとが来ていて社長は居留守

 経営者が本来の任務を怠けて芸者遊びをするようになれば、その会社はお終いです。
 数時間後に断末魔の叫びを上げるのも知らないで、韓国帰りの飛行機から不倫騒動(?)の挙句に結ばれた年増女の手を取って下りて来た男性の悲喜劇からも、私たちは何事かを学習しなければなりません。
 庶務課・中村あけ海さまに置かれましても、それそろご退職をご覚悟なさらなければならない時期かも知れませんよ。
  〔返〕 受付の前に来ていた丸髷は宣伝広告会社の男   鳥羽省三


(アンタレス)
   丸き背を更に丸めて老い二人何を希うか選挙に急ぐ

 「丸き背を更に丸めて」が効き目である。
 「老い二人何を希うか選挙に急ぐ」とありますが、通常ならば「願う」と書くべきところを「希う」 と書いた理由に何でありましょうか?
 さしたる理由も無しに、通常とは異なる表現をするのは、決して上策ではありません。
 それにしても、身につまされる一首の趣きでありました。
  〔返〕 背を丸め腰を落として行く老いの眼(まなこ)に眩し冬の落日   鳥羽省三


(子帆)
   ぼくが丸めたいものだんごむし、ぼくが広げたいものおんなのこ

 着想の軽さと軽いエロを売り物にした作品かと思われます。
 こうした作品の存在意義を評者は否定しない。
 だが、一般読者にとっては、こうした作品はなかなか受け入れ難い作品かと思われ、一蹴される場面もお有りかと思われます。
 それだけに、こうした内容の作品をお詠みになる場合は、一語一語の言葉の使い方に細やかなご注意を払い、韻律を整理することが必要かと思われます。
  〔返〕 丸めたる君の背中に広がれるパーマン2号の青色マント   鳥羽省三


(古屋賢一)
   さわったらやけどしそうだおっぱいの白さ丸さをもつ電球は

 同じ「白さ丸さをもつ」物に触っても「電球」ならともかく、彼女の「おっぱい」なら決して「やけど」はしませんよ。
 <人肌ごろ>という言葉が在りますが、その<人肌ごろ>の温度で、君の彼女の「おっぱい」は、君の手の愛撫を待っているのです。
 振られて元々、勇気を持って。
  〔返〕 触ったらたちまち火傷してしまう白熱灯に厳重注意   鳥羽省三


(髭彦)
   熊楠が説のをかしく牛若もナントカ丸もオマルのマルと

 博識の髭彦さんからは、何かとご教授い賜わるばかりです。
 あの南方熊楠が「牛若丸のマルもナントカ丸のマルもオマルのマル」てなことを申されておられるんですか。
 それは全く「をかしい」。
 是非是非、その出典と「ナントカ丸」の「ナントカ」の部分についてご教授賜わりたく、何卒宜しくお願い申し上げます。
  〔返〕 敷衍して申せば本丸真田丸戦時の用便オマルなのかな?   鳥羽省三


(翔子)
   渓谷の揺れるが如き丸太橋これを渡れば明日に続くか

 「渓谷の揺れるが如き丸太橋」という倒錯的かつ実感的な感覚に新鮮さを感じました。
 即ち、この作品の作者は、「揺れる」「丸太橋」を渡っているのに、「丸太橋」が「揺れる」とは感じないで、「丸太橋」からおっかな吃驚見下ろされる「渓谷」が揺れていると感じているのです。
 それに続く、「これを渡れば明日に続くか」についても一言述べさせていただきます。
 私の体験によると、「渓谷の揺れるが如き丸太橋」を渡った先にある風景は、「明日」と言うよりも「昨日」といった感じの風景が多いのですが、「渓谷の揺れるが如き丸太橋」を渡った先の世界は、「渓谷の揺れる」時に感じた恐怖感以上に恐怖感に満ちた世界でありましょうから、そういう意味では、この一首の指摘するところは決して間違ってはいないと思われます。
  〔返〕 明日からの恐怖に満ちた日々よりはスリル少なき丸太橋なり   鳥羽省三


(イズサイコ)
   この星は丸でできてる隅っこで泣かないようにきれいな丸で

 本作中の「この星」が<地球>を指すものであるならば、それは「丸でできてる」のではなく、<球>で「できてる」のです。
 だから、「隅っこ」というものは、何処にも存在しないのです。
 ところで、そうした些事とは別に、「この星」は決して「きれいな丸で」出来ているのでは無く、その「隅っこ」で泣く人も、決して居ないわけではありません。
 したがって、本作中で作者・イズサイコさんがお述べになって居られる内容は、私たち地球人の努力目標と解釈させていただきました。
  〔返〕 文字通り地の果の無い地球です在るはずの無い隅を作るな   鳥羽省三
  

(砂乃)
   ずいぶんと丸くなったね父さんはもう気まぐれじゃ殴らないんだ

 過去のことではありましょうが、この日本に「気まぐれ」で殴る「父さん」が居たことには吃驚です。
 そういった「父さん」が居たとすれば、その「父さん」は、民主主義や基本的な人権の尊重を旨とした日本国憲法の意味するところを、初めてご理解なさって「気まぐれ」で殴らなくなったのでありましょう。
 だが、「気まぐれ」であれ何であれ、「父さん」ともあろう方が、他人を殴るのは基本的に間違っているのであり、「丸くなった」とか<尖がらなくなった>とかのレベルの話ではありません。
  〔返〕 暴力で家族支配をしてたのは父さん王国砂乃の楼閣   鳥羽省三


(空音)
   泣き叫ぶ赤子はよもや丸ごとの吾を愛せと泣くわけでなく

 丸々と肥えた「赤子」が「丸ごとの吾を愛せと泣くわけでなく」とした表現が面白い。
 「赤子」を育てる要諦は、「『丸ごとの』彼をそのまま受け入れるしかない」という説を読んだことがあります。
  〔返〕 「泣き叫ぶ吾子をそのまま受け入れて愛せよ」と言うことの易しさ   鳥羽省三


(鮎美)
   水泳を見学せし日の丸襟の白きブラウス臙脂のリボン

 「水泳を見学せし日」とは、本作の作者・鮎美さんの少女時代の或る日のことでありましょうか?
 もし、そうならば、「丸襟の白きブラウス臙脂のリボン」とは、少女時代の鮎美さんご自身の穢れを知らない可愛い姿でありましょう。
 「ナルシスト・鮎美の面目躍如たるもの」などと評したら、作者・鮎美さんの逆鱗に触れることになりましょうか?
 それにしても、麗しくかつ清楚なる青春の一こまである。
  〔返〕 受験校授業風景公開日臙脂リボンを締めて見学   鳥羽省三


(周凍)
   満ちてこそ玉藻の城ぞ本丸の石垣映ゆる堀の汐みづ
 作中の「玉藻の城」とは、高松城の別称である。
 瀬戸内の海水を外堀、中堀、内堀に引き込んだこの城は<日本の三大水城>の一つと呼ばれていたのであるから、「満ちてこそ玉藻の城ぞ本丸の石垣映ゆる堀の汐みづ」という、本作の表現は、極めて適切なものであり、一首の出来も極めて完成度の高いものと思われます。
  〔返〕 散りてこそ武士(もののふ)なるかはらはらと汐水に散り儚き桜   鳥羽省三  


(畠山拓郎)
   本丸を残しただけの夏の陣 今年は暑くなるのだろうか

 <国民新党丸>は<真田丸>ほど当てに出来ない<出丸>であるから、「本丸」とは、<社会民主党丸>に離反された<民主党丸>のことである。
 その「本丸を残しただけ」の「今年」の「夏の陣」は、確かに熱くなるでしょう。
 でも、天候はあまり「暑く」ならないということですから、野菜や鮮魚などの高値が予想されますから、我々下々の生活はかなり厳しいものになるでしょう。
  〔返〕 憎っくきは徳川家康古狸外堀埋めるふりで内堀   鳥羽省三 


(理阿弥)
   つめたいねつめたいのね、ね なきながら藤丸5Fの車止めピロー

 作中の「藤丸」とは、北海道帯広市に在る百貨店の名称である。
 本作の理阿弥さんのお住いを、私は首都圏以外の地方都市かと推測して居りましたが、あの十勝平野の中心都市の帯広市であったのでありましょうか。
 私は理阿弥さんの現住所も年齢も知らないままに、これまでその傑作の大半を観賞させていただき、理阿弥さんからは、毎度毎度有り難いご助言や激励のお言葉を賜って参りました。
 理阿弥さん、大変有り難うございました。
 これからは決意するところが在って、観賞記事掲載のご案内を差し上げませんが、何卒、これまで同様にご愛読賜わり、ご助言やご自身の短歌観なども、メールにてお聞かせ下さい。
 本作の観賞に戻りますが、日本全国のデパート業界は、今や氷河期の真っ只中に在ると言っても過言ではありません。
 北海道帯広市の「藤丸百貨店」もまた、その例外では無いのでありましょう。
 作中の「つめたいねつめたいのね、ね なきながら」という措辞は、直接には、正月の福袋か何かを買い求める為に、開店前の早朝に「藤丸5Fの車止めピロー」に駐車中の理阿弥さん親子の寒さを堪えていらっしゃる有様を活写したのでありましょうが、それとは別に、この不況最中の藤丸百貨店の経営者や従業員たちが、あまりの不況の厳しさに悲鳴を上げている様子とも解釈されます。
 一首の単純な表現の中に、複雑な意味を込められた作品として観賞させていただきました。
  〔返〕 「寒いね」と泣いているのは社長かな藤丸デパートいつまで持つか?   鳥羽省三 
 

(飯田和馬)
   獅子丸はライオン丸にあの時の彼の地において金丸信は

 「獅子丸はライオン丸に」何を託したのでありましょうか?
 その答を言う余裕は今の私にはありません。
 だが、「あの時の彼の地において金丸信」が、某政権政党の某幹部に託した物については、わざわざ説明する必要もありません。
  〔返〕 「人は金、人は金なり、全て金」金丸箴言黒き箴言   鳥羽省三    


(南葦太)
   お見通しみたい 背中に寄りかかる頭の丸み あなたの重み

 「お見通しみたい」とは、「南葦太さんが或る女性に恋い焦がれていることを、件の女性が見通している」ということでありましょう。
 南葦太さんのそうした推測はおそらくは正しい。
 何故ならば、「背中に寄りかかる頭の丸み」の「頭」の持ち主も、「あなたの重み」の「あなた」も、件の女性であるからである。
 女性という種族は、時として、その気も無いのに、その気があるように見せるものであるからご注意を。
  〔返〕 お見通しみたいねあなたを好きなことだから今夜は勇気奮って   鳥羽省三 


(珠弾)
   丸美屋のふりかけごはんにのりたまで満たされていた時もあったが

 全くその通りです。
 同感です。
  〔返〕 丸美屋の<ごはんふりかけ>買いたいな今ならおまけのシール付いてる   鳥羽省三


(風とくらげ)
   確かめるため噛む丸いニッキ飴何かを忘れてしまったことを

 文脈を正確に辿って解釈すると、本作の作者は、「何かを忘れてしまったか、しまわないか」を「確かめるため」に「丸いニッキ飴」を噛んだことになるのですが、それで宜しいのでしょうか?
  〔返〕 忘れたのは何であったか確かめるために噛んでるニッキ飴かも   鳥羽省三 


(五十嵐きよみ)
   正露丸ふくんだ口でキスをするぐらい馬鹿げた賭けの始まり

 「正露丸ふくんだ口でキスをするぐらい馬鹿げた」という比喩の解釈に二説在り。
 其の一としては、「正露丸を含んだ口は臭いから、その口にキスをするのは馬鹿げている」という説。
 其の二としては、「正露丸を含めば口の中が消毒されるから、衛生無害な口と口とをくっ付け合うくらい馬鹿馬鹿しいことはない」という説。
 さて、本作での「正露丸ふくんだ口でキスをするぐらい馬鹿げた」という比喩の解釈には、どちらの説を摘要するべきでありましょうか?
  〔返〕 「菅さんが代表選で負けたら」と賭けるも愚か優劣明白   鳥羽省三


(あひる)
   丸薬を含めば幼き夏の日のわれを気遣ふ祖母の声する

 そう言えば、最近は丸薬らしい丸薬は飲んだことがありませんね。
 最近飲んだ薬と言えば、カプセル入りの粉薬や平べったい円盤型の薬ばかりなのです。
  〔返〕 腹痛に越中富山の万金丹鼻くそ丸めて以下は省略   鳥羽省三


(ましを)
   深爪の丸い指先だけが知る深海の熱わたしの魚

 「深海の熱」及び「わたしの魚」が怪しい。
 深く熱い「わたし」の「海」で泳ぐ「わたしの魚」というわけである。
 「わたしの魚」は、<私の可愛いオナペット>といった感覚で捉えても宜しいでしょう。
 何を何する時は、「深爪」と思われる程に「丸い指先」にする必要があるのでしょうか?
  〔返〕 岩浜に寄せては返す潮真汐その痛さ知る昆布ひじき藻   鳥羽省三 


(草野千秋)
   持ち寄った時間が棘を削り取り丸い心にしてくれるはず

 「持ち寄った時間が棘を削り取り丸い心にしてくれる」ことは、一面としては「風化作用」でもある。
 何もかも削り取られた挙句「丸い心」になったとしても、そこからは何も生まれないとも言えましょう。
 そうした点には、充分に気をつけましょう。
  〔返〕 持ち寄った多くの矛盾が止揚され高いレベルに到達もする   鳥羽省三


(南野耕平)
   ほっとくと丸みを帯びてくる過去を抱きしめるのは明日にしよう

 直前の草野千秋さん作の観賞の場面でも述べたように、「過去」が「丸みを帯びてくる」のは、必ずしも良いこととは限りません。
 したがって、「丸みを帯びてくる過去を抱きしめるのは」、「明日」も明後日も止めたらいかがですか。
  〔返〕 ほっとけば次第に融ける胸の棘それを癒やしと言うのでしょうか?   鳥羽省三