○ 運動会バッチリ決まった組体操夏のラムネのはじける感じ (志木市) 佐久間大輔
本作を傑作とするか否かの判断の境目は、「夏のラムネのはじける感じ」という下の句が、「運動会バッチリ決まった組体操」という上の句の比喩として、適切かどうかということに尽きましょう。
とすると、この作品を入選作の筆頭としてご推奨になった馬場あき子氏は勿論、これを入選作の一首に数えて居られる永田和宏氏も亦、この比喩を効果的な比喩として評価なさって居られることになる。
「夏のラムネのはじける感じ」とは、一口に言えば、<爽快感>ということになりましょう。
本作の作者がご体験なさった「運動会」での「組体操」も、それぞれの構成員がてきぱきとして役割りを果たし、終わってみた感じとしては「爽快感」に満ちたものであったのでありましょう。
〔返〕 体育祭どうやらこうやら組体操 温いラムネを飲んだみたいだ 鳥羽省三
○ 若さとは声高きこと少女らのないしょ話が車内に満ちる (佐倉市) 船岡みさ
この一首で以って、本作の作者は、ご自身の<認識>と言うよりも、ご自身の<諦観>をより多くお示しになったのでありましょうか?
「ないしょ話」だと断ってする話が「車内」全体に「満ちる」ことも気にせず、「声高」に話している「若さ」に、本作の作者は、嫉妬と言うよりも辟易しているのでありましょうか?
〔返〕 若さとは罪深きこと声高に内緒話を姦しき娘ら 鳥羽省三
○ 落花生播きて鳥追う糸を張る始終を電柱に鴉が見おり (ひたちなか市) 吉澤まつ枝
「電柱」にとまっている「鴉」は、何もかもお見通しなのである。
〔返〕 焼き損じのディスク吊るして脅しても何のそれしきお茶の子さいさい 鳥羽省三
○ 手のひらは孫を愛しむ道具なり頭撫でたり尻叩いたり (奈良市) 広田頼彦
「尻叩いたり」と言っても、この頃のジージの掌は薄く出来ていますから、痛くも痒くもありません。
〔返〕 孫の手は我を愛しむ道具なり背中掻いたり肩叩いたり 鳥羽省三
○ 夜通しをライトの点いた水槽の中に居るような地下街工事 (東京都) 津和野次郎
「熱帯魚を飼っている『水槽』は、『夜通し』『ライト』が『点いた』ままになっているが、『地下鉄工事』の現場に居る時の感じは、そうした『水槽の中に居るような』感じなのである」という訳でありましょうか?
〔返〕 夜通しを酔って嬌声上げて居て始発電車で眠り居る娘ら 鳥羽省三
○ 「やめない」と言いつつやっぱりやめるんだ麦の穂からから色づく頃に (長浜市) 広瀬耐子
「麦秋の別離」という名場面である。
それにつけても思い出されるのは、「女にて生まざることも罪の如し秘かにものの種乾く季」という、あの一首である。
母になることを断念した富小路禎子さんと、恋人であることを断念せざるを得なくなった本作の作者と。
〔返〕 「やめるよ」と言ひつつ結局やめられぬ子息庇ひし女優の去就 鳥羽省三
○ 歯科眼科接骨院に囲まれて商店細る街老いてゆく (京都市) 柴田修三
「歯科」「眼科」「接骨院」と揃っていたら、それなりの人口を擁する町である。
それでもなお且つ、食品や生活雑貨を商っている「商店」の商いは「細る」ばかりであり、かくして「街」は、その町に住む人々と共に「老いてゆく」ばかりなのである。
〔返〕 縁辺にユニクロが在りヤマダ在り中心地域は寂れるばかり 鳥羽省三
ユニクロとヤマダ・スタバを中心に再構築される都市の景観 々
○ 沖縄へ引き揚げますの挨拶状たたんだ店の屋号のままで (アメリカ) ソーラー泰子
「アメリカが『引き揚げ』ようとしない『沖縄へ引き揚げます』」との「挨拶状」が、アメリカ滞在中の作者の元に届いたのである。
差出人の名前は、「たたんだ店の屋号のままで」であったから、「沖縄へ引き揚げ」てからも、元のご商売をなさるに違いありません。
〔返〕 「<ジャズ喫茶・ジュゴン夫恋奴>ふるさとの辺野古の沖に開店します」 鳥羽省三
○ 蓙・簾・南部風鈴備えたり砂漠に大和の夏風吹かむ (アメリカ) 中條喜美子
「砂漠に大和の夏風吹かむ」と仰るからには、本作の作者もまた、沖縄出身の方なのかしら。
〔返〕 「蓙・簾・南部風鈴」それらみな風を吹かせる道具に非ず 鳥羽省三
○ どちらかが呆けにあるらしにこにこと連れそいながら老いが土手行く (東京都) 高須敏士
「どちらかが呆けにあるらし」と言いながらも、「にこにこと連れそいながら老いが土手行く」と言っている。
「老い」たちを見つめる作者の心は温かい。
〔返〕 二人とも金が無いらしにやにやと笑いながらも立ち読みしてる 鳥羽省三
○ クロスした腕がTシャツ引きあげる夏の身体よたくましくあれ (綾瀬市) 高松紗都子
作者のお名前を目にした瞬間、評者は、喜望峰の突端の街で知人に出会ったような気分になりました。
「クロスした腕がTシャツ引きあげる」とは、熱戦が終わった後の、敵味方区別無しの、選手同士の交歓風景でありましょうか?
「夏の身体よたくましくあれ」と言うのも、深夜テレビでワールドカップを観戦した後のご感想らしくて、上の句と一体となり、優れた一首を構成している。
〔返〕 倒れてる選手に両手さし伸べてガッツ出そうと声掛けている 鳥羽省三
○ たたまれてはじまるものはやわらかい傘とタオルとアサガオの花 (高槻市) 有田里絵
何もかも良く出来ていると、あら探しをしたくなるのが評者の悪癖である。
ところで、「タオルとアサガオの花」はともかくとして、「傘」は、「たたまれてはじまるもの」では無く、「たたまれて」終わる「もの」ではないかしら?
また、下の句は語順を少し換えて、「やわらかいタオルと傘とアサガオの花」としたらどうかしら?
〔返〕 畳まずに返したきもの 釣り銭の千円札とお礼の言葉 鳥羽省三
○ 測量士春の深さを測るごと蒲公英の地へ三脚を立つ (東京都) 長谷川瞳
建て売り業者・某が、僅か百坪足らずの裏の空き地に、四軒もの三階建て住宅を建てようとしているのである。
それなのに、「測量士春の深さを測るごと蒲公英の地へ三脚を立つ」などと、本作の作者・長谷川瞳さんは、何処までお人好しなのか?
日照最悪、眺望最低になりますよ。
〔返〕 職務とし測量士らは地を測るスミレタンポポ悲鳴を上げる 鳥羽省三
○ 朱雀門大極殿の間には踏切ありて電車過ぎ行く (所沢市) 若山 咲
平城遷都千三百年祭を記念しての平城京跡の再現事業は、まさしく観光地・奈良のリフォームなのである。
元の骨組みをそのままにして内装だけを変えようとするから、「朱雀門」と「大極殿の間」に「踏切」が在って「電車」が「過ぎ行く」といったような奇妙な風景となるのである。
しかし、それも亦、一興かも知れません。
〔返〕 境内を横須賀線が走っててとても危ない鎌倉円覚寺 鳥羽省三
○ 黄の蝶と紋白蝶の道のあり近くにありて別々の道 (館林市) 阿部芳夫
創作事情の一切を知らない私からすれば、「黄の蝶と紋白蝶の道のあり近くにありて別々の道」というこの一首は、観察の行き届いた客観写生の作品のように思われるが、作者からすれば、『鳥類観察図鑑』などからヒントを得て、机の上で創った作品なのかも知れない。
〔返〕 をんな坂をとこ坂在る参詣路 途中の茶屋でまた出逢ったり 鳥羽省三
○ 余命あと僅かと知れる友どちとバカ話して病室を出づ (大阪市) 高谷まさ
「元気出して」と言ったって嘘。
「まだまだこれから」と言ったって嘘になるから、お互いに「バカ話」を交わすしか無いのである。
しかし、その「バカ話」に込められた断念の思いと友情の深さよ。
〔返〕 振る話振られた話のバカ話馬鹿で話しているわけじゃ無い 鳥羽省三
逝く者と逝かれる者のバカ話いずれ逝くみち同行二人 々
本作を傑作とするか否かの判断の境目は、「夏のラムネのはじける感じ」という下の句が、「運動会バッチリ決まった組体操」という上の句の比喩として、適切かどうかということに尽きましょう。
とすると、この作品を入選作の筆頭としてご推奨になった馬場あき子氏は勿論、これを入選作の一首に数えて居られる永田和宏氏も亦、この比喩を効果的な比喩として評価なさって居られることになる。
「夏のラムネのはじける感じ」とは、一口に言えば、<爽快感>ということになりましょう。
本作の作者がご体験なさった「運動会」での「組体操」も、それぞれの構成員がてきぱきとして役割りを果たし、終わってみた感じとしては「爽快感」に満ちたものであったのでありましょう。
〔返〕 体育祭どうやらこうやら組体操 温いラムネを飲んだみたいだ 鳥羽省三
○ 若さとは声高きこと少女らのないしょ話が車内に満ちる (佐倉市) 船岡みさ
この一首で以って、本作の作者は、ご自身の<認識>と言うよりも、ご自身の<諦観>をより多くお示しになったのでありましょうか?
「ないしょ話」だと断ってする話が「車内」全体に「満ちる」ことも気にせず、「声高」に話している「若さ」に、本作の作者は、嫉妬と言うよりも辟易しているのでありましょうか?
〔返〕 若さとは罪深きこと声高に内緒話を姦しき娘ら 鳥羽省三
○ 落花生播きて鳥追う糸を張る始終を電柱に鴉が見おり (ひたちなか市) 吉澤まつ枝
「電柱」にとまっている「鴉」は、何もかもお見通しなのである。
〔返〕 焼き損じのディスク吊るして脅しても何のそれしきお茶の子さいさい 鳥羽省三
○ 手のひらは孫を愛しむ道具なり頭撫でたり尻叩いたり (奈良市) 広田頼彦
「尻叩いたり」と言っても、この頃のジージの掌は薄く出来ていますから、痛くも痒くもありません。
〔返〕 孫の手は我を愛しむ道具なり背中掻いたり肩叩いたり 鳥羽省三
○ 夜通しをライトの点いた水槽の中に居るような地下街工事 (東京都) 津和野次郎
「熱帯魚を飼っている『水槽』は、『夜通し』『ライト』が『点いた』ままになっているが、『地下鉄工事』の現場に居る時の感じは、そうした『水槽の中に居るような』感じなのである」という訳でありましょうか?
〔返〕 夜通しを酔って嬌声上げて居て始発電車で眠り居る娘ら 鳥羽省三
○ 「やめない」と言いつつやっぱりやめるんだ麦の穂からから色づく頃に (長浜市) 広瀬耐子
「麦秋の別離」という名場面である。
それにつけても思い出されるのは、「女にて生まざることも罪の如し秘かにものの種乾く季」という、あの一首である。
母になることを断念した富小路禎子さんと、恋人であることを断念せざるを得なくなった本作の作者と。
〔返〕 「やめるよ」と言ひつつ結局やめられぬ子息庇ひし女優の去就 鳥羽省三
○ 歯科眼科接骨院に囲まれて商店細る街老いてゆく (京都市) 柴田修三
「歯科」「眼科」「接骨院」と揃っていたら、それなりの人口を擁する町である。
それでもなお且つ、食品や生活雑貨を商っている「商店」の商いは「細る」ばかりであり、かくして「街」は、その町に住む人々と共に「老いてゆく」ばかりなのである。
〔返〕 縁辺にユニクロが在りヤマダ在り中心地域は寂れるばかり 鳥羽省三
ユニクロとヤマダ・スタバを中心に再構築される都市の景観 々
○ 沖縄へ引き揚げますの挨拶状たたんだ店の屋号のままで (アメリカ) ソーラー泰子
「アメリカが『引き揚げ』ようとしない『沖縄へ引き揚げます』」との「挨拶状」が、アメリカ滞在中の作者の元に届いたのである。
差出人の名前は、「たたんだ店の屋号のままで」であったから、「沖縄へ引き揚げ」てからも、元のご商売をなさるに違いありません。
〔返〕 「<ジャズ喫茶・ジュゴン夫恋奴>ふるさとの辺野古の沖に開店します」 鳥羽省三
○ 蓙・簾・南部風鈴備えたり砂漠に大和の夏風吹かむ (アメリカ) 中條喜美子
「砂漠に大和の夏風吹かむ」と仰るからには、本作の作者もまた、沖縄出身の方なのかしら。
〔返〕 「蓙・簾・南部風鈴」それらみな風を吹かせる道具に非ず 鳥羽省三
○ どちらかが呆けにあるらしにこにこと連れそいながら老いが土手行く (東京都) 高須敏士
「どちらかが呆けにあるらし」と言いながらも、「にこにこと連れそいながら老いが土手行く」と言っている。
「老い」たちを見つめる作者の心は温かい。
〔返〕 二人とも金が無いらしにやにやと笑いながらも立ち読みしてる 鳥羽省三
○ クロスした腕がTシャツ引きあげる夏の身体よたくましくあれ (綾瀬市) 高松紗都子
作者のお名前を目にした瞬間、評者は、喜望峰の突端の街で知人に出会ったような気分になりました。
「クロスした腕がTシャツ引きあげる」とは、熱戦が終わった後の、敵味方区別無しの、選手同士の交歓風景でありましょうか?
「夏の身体よたくましくあれ」と言うのも、深夜テレビでワールドカップを観戦した後のご感想らしくて、上の句と一体となり、優れた一首を構成している。
〔返〕 倒れてる選手に両手さし伸べてガッツ出そうと声掛けている 鳥羽省三
○ たたまれてはじまるものはやわらかい傘とタオルとアサガオの花 (高槻市) 有田里絵
何もかも良く出来ていると、あら探しをしたくなるのが評者の悪癖である。
ところで、「タオルとアサガオの花」はともかくとして、「傘」は、「たたまれてはじまるもの」では無く、「たたまれて」終わる「もの」ではないかしら?
また、下の句は語順を少し換えて、「やわらかいタオルと傘とアサガオの花」としたらどうかしら?
〔返〕 畳まずに返したきもの 釣り銭の千円札とお礼の言葉 鳥羽省三
○ 測量士春の深さを測るごと蒲公英の地へ三脚を立つ (東京都) 長谷川瞳
建て売り業者・某が、僅か百坪足らずの裏の空き地に、四軒もの三階建て住宅を建てようとしているのである。
それなのに、「測量士春の深さを測るごと蒲公英の地へ三脚を立つ」などと、本作の作者・長谷川瞳さんは、何処までお人好しなのか?
日照最悪、眺望最低になりますよ。
〔返〕 職務とし測量士らは地を測るスミレタンポポ悲鳴を上げる 鳥羽省三
○ 朱雀門大極殿の間には踏切ありて電車過ぎ行く (所沢市) 若山 咲
平城遷都千三百年祭を記念しての平城京跡の再現事業は、まさしく観光地・奈良のリフォームなのである。
元の骨組みをそのままにして内装だけを変えようとするから、「朱雀門」と「大極殿の間」に「踏切」が在って「電車」が「過ぎ行く」といったような奇妙な風景となるのである。
しかし、それも亦、一興かも知れません。
〔返〕 境内を横須賀線が走っててとても危ない鎌倉円覚寺 鳥羽省三
○ 黄の蝶と紋白蝶の道のあり近くにありて別々の道 (館林市) 阿部芳夫
創作事情の一切を知らない私からすれば、「黄の蝶と紋白蝶の道のあり近くにありて別々の道」というこの一首は、観察の行き届いた客観写生の作品のように思われるが、作者からすれば、『鳥類観察図鑑』などからヒントを得て、机の上で創った作品なのかも知れない。
〔返〕 をんな坂をとこ坂在る参詣路 途中の茶屋でまた出逢ったり 鳥羽省三
○ 余命あと僅かと知れる友どちとバカ話して病室を出づ (大阪市) 高谷まさ
「元気出して」と言ったって嘘。
「まだまだこれから」と言ったって嘘になるから、お互いに「バカ話」を交わすしか無いのである。
しかし、その「バカ話」に込められた断念の思いと友情の深さよ。
〔返〕 振る話振られた話のバカ話馬鹿で話しているわけじゃ無い 鳥羽省三
逝く者と逝かれる者のバカ話いずれ逝くみち同行二人 々