私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

「そして父になる」

2013-10-02 05:19:18 | 映画(さ行)

2013年度作品。日本映画。
6年間愛情を注ぎ、育ててきたわが子が、もし他人の子だったら? 突然、過酷な現実にさらされた2組の夫婦の姿を映し出すヒューマンドラマ。
監督は是枝裕和。
出演は福山雅治、尾野真知子ら。




氏より育ち、とはよく言ったもので、血筋が良くても、その人の人格を決定するのはおおむね血ではなく、環境であったりする。

「そして父になる」は、氏より育ち、を具現化したドラマなのだろう。
そして人と人との関係は、血ではなく、時間によって醸成されることにも気づかされる。


福山雅治演じる主人公、野々宮良多はいわゆるエリートだ。
一流企業に勤め、大きなプロジェクトも任されており、高級マンションに住んでいる上、専業主婦の美人の妻もいる。そして息子を私立の小学校に入れようとしている。いわゆる勝ち組だ。

ちょっと湯川先生とかぶる部分があって、見ていて引っかかるが、それは御愛嬌と思っておこう。


そんな彼は子どもの取り違え事件に巻き込まれる。
自分の息子は別の家庭で育てられ、六年育ててきた子どもは、別の家庭の子であったと判明する。

相手の家族は、エリート意識を持っている主人公から見ると軽蔑の対象でしかない。
決して裕福とは言えず、言動にも品性は感じられないからだ。

だが少なくとも、主人公よりも子どもと向き合っている時間は多い。
実際見ていて子どもたちに多くの愛情をかけているのは、リリー・フランキーと真木よう子たち夫婦の方だということはよくわかる。
そしてそちらの子どもたちの方が笑顔が明るい。

だがことがことだけに、互いの家族は、本当の子どもを交換し引き取ることとなる。
そういうことをする辺り、主人公の男は頭が固く、理を通し過ぎるきらいがあるように思う。

そしてそれは、自身の父との関係と、義母との折り合いも影響しているらしいことが見えてくる。


だがそのように実の子を、自分の家庭に引き取っても、上手く子どもと向き合うことができると限らない。
もともと家庭と向き合うことの少なかった人だ。
そのせいで、息子と接するときも、上からの押し付けとなってしまう。

基本的に彼は不器用な人なのだろう。
それでも彼なりに、愛情をこめて、実の子と触れ合うようになるが、子どもからすれば、たとえ本当の親であっても、育ての親の方が恋しい。

それは結局血ではなく、親子と思って過ごしてきた時間が大きいからだ。
たとえ自分と血がつながっていても、大事なのは一緒に過ごした記憶なのだ。
そしてそれは子の方ばかりでなく、親の方も同じだったりする。


最後の父と子の会話は感動的である。
彼は相手の妻が看破した通り、血がつながっていなければ、父親としてやっていけないのでは、という不安があったのかもしれない。

それは自分の父や義母との関係も影響していよう。
だがそれと向き合い、克服できたとき、初めて一緒に過ごしてきた子を息子として受け入れることができたのだと思う。
そしてそのとき彼は初めて父としてやっていけると思ったのかもしれない。

そして、血とは関係なく、息子として愛してきたという時間を元にして、最後は息子に向かって語りかけている。
そこに愛情があるだけに深く胸を打って止まない。

その最後のシーンの印象がすばらしく、観賞後はすがすがしい気持ちになることができた。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)

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