おまえが死ぬのを見たい―男はそう言ってアレックスを監禁した。檻に幽閉され、衰弱した彼女は、死を目前に脱出を図るが…しかし、ここまでは序章にすぎない。孤独な女アレックスの壮絶なる秘密が明かされるや、物語は大逆転を繰り返し、最後に待ち受ける慟哭と驚愕へと突進するのだ。イギリス推理作家協会賞受賞作。
橘明美 訳
出版社:文藝春秋(文春文庫)
さすがは「このミステリーがすごい」をはじめ、昨年のミステリ海外部門を独占した作品だけはある。
本当におもしろい。
最後まで一瞬も気を抜かせず、ラストまで持って行く様は圧巻であった。
加えて章ごとにアレックスに対する認識が変わっていく辺りも見せ方が上手かった。
そしてラストに待っていたどんでん返しには、いろいろあるが、思わず快哉を叫びたくなる。
心に深く突き刺さってくる見事な作品であった。
アレックスという若い女が突如として、拉致監禁される事件が発生する。
その展開を読んだときは、暴力的な男に閉じ込められた女性が、男の手から脱出する物語かと思ったのだが、そこからストーリーは違う角度へと転がっていく。
その展開の転がし方がすばらしい。
章立てとしては、第一部、第二部、第三部となっているが、それぞれの単位で、アレックスに対する見方がまったく変わっていくのだ。これは本当にすごかった。
最初のアレックスは、拉致監禁に依る純粋な被害者だった。
だが第二部のアレックスは身の毛もよだつような怖ろしいシリアスキラーに変じ、そして第三部で真相が明かされてからのアレックスは、地獄のような苦痛を浴びさせられた哀れな女性、という風に、印象も異なってくる。
特に第三部のアレックスには心を揺さぶられた。
彼女は本当にひどい目にあったのだなと思うと、ただただ苦しい。その体験は身の毛もよだつほどひどいものなのだ。
そんな彼女の苦痛や、悔しさや、恨みや、哀しさや、絶望はどれほどのものだったのだろう、と思うと切なくなる。
最終的には、警察に追いつめられているからというのもあるが、死を選択しているのだから、やるせない。
しかしそこで、彼女はかなり洗練された復讐劇を企てているのだ。
その内容に、僕はただただ快哉を上げたくなった。
もちろん死以外に方法はあったのじゃないか、という思いもなくはない。
彼女にはもっと幸せになる権利はあったはずだ。
しかし彼女にはそれができなかったのだろう。
ひどい体験を負ったものは、自分を大切にできないと聞くけれど、彼女もそのケースではないかと思ってしまう。
でも、アレックスは復讐だけは行なえた。
それだけでも少しは報われたのじゃないかな、という気もしなくはない。
そう考えると、そこには一片の救いがある。
アレックス以外では、刑事たちの面々もキャラが立っていて、非常に印象的である。
最後のアルマンなんか粋すぎるだろう、と喝采を浴びせたくなった。いいチームである。
彼らの活躍をもう少し見てみたいし、ほかのシリーズもぜひ訳してほしいし、読んでみたい。
そうすなおに思える一品だった。
評価:★★★★★(満点は★★★★★)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます