探偵稼業は女には向かない。ましてや、22歳の世間知らずの娘には―誰もが言ったけれど、コーデリアの決意はかたかった。自殺した共同経営者の不幸だった魂のために、一人で探偵事務所を続けるのだ。最初の依頼は、突然大学を中退しみずから命を断った青年の自殺の理由を調べてほしいというものだった。コーデリアはさっそく調査にかかったが、やがて自殺の状況に不審な事実が浮かび上がってきた…可憐な女探偵コーデリア・グレイ登場。イギリス女流本格派の第一人者が、ケンブリッジ郊外の田舎町を舞台に新米探偵のひたむきな活躍を描く。
小泉喜美子 訳
出版社:早川書房(ハヤカワ・ミステリ文庫)
裏表紙にも書いてあるが、女には向かない職業、とは探偵稼業のことである。
本書は、そんな女には向かない職業につこうとする、若い女コーデリア・グレイの最初の事件を描いている。
そういうこともあり、ジャンルはミステリだが、若い女の通過儀礼を描いた作品と何となく感じた。
話の内容は、自殺した息子の動機を探ってほしいと、ある富豪からの依頼を受けたコーデリアがその経緯を探る、というものだ。
言うまでもなく地味な話である。
事件の真相は地味で、意外と感じるほどでもなく、ショッキングでも、特に驚きがあるわけでもなかった。
筋は通っているが、あまりにパッとしなさ過ぎて、心に響くものは少ない。
お話そのものだけを見れば、僕の好みには合わなかった。
だが、ストーリーはともかくとしても、主人公のコーデリア自体は大層魅力的であった。
コーデリアは良くも悪くも小娘である。
「初めて面接にきた熱心な十七歳の少女みたいに見える」と自己評価しているが、それは読んでいても何となく伝わる。
実際世慣れていないと感じる部分はいくつか見られた。
それゆ男からは軽んじられるらしく、自殺の一件を扱った刑事からは、ショッキングな写真を見せられ、試されるような仕打ちを受けている。
しかしコーデリアは、共同経営者のバーニイの跡を継ぐ形で、探偵稼業というハードな職種につこうとする。
そして真摯に事件に向き合い、探偵としての仕事を続けていくのだ。
そんなコーデリアの姿は大層好ましい。
特に印象に残ったのは、最後のダルグリッシュとの対決場面だ。
そのとき、コーデリアは老練な刑事相手に精神的に追いつめられることになる。
けれど、彼女はそこでふんばり、客を売らず、あくまで私立探偵としての流儀を貫いている。
それを読んだとき僕は、コーデリアはその瞬間初めて探偵になれたのだ、と感じた。
言うなれば、それは探偵としてのイニシエーションなのだ、と僕は思う。それを潜り抜けた彼女の姿が忘れがたい。
お話そのものは確かに合わない。
しかしそんな一人の女の成長の姿自体は、何かと心に残る作品であった。
評価:★★(満点は★★★★★)
あまりたくさんの本を読んでいませんが、ミステリー小説の
ミス・マープル、「ミレニアム」のリスベット、そしてコーデリアが大好きです(*^_^*)
ストーリーは最初の時点でなんとなく怪しい人物が分っちゃうのですが、奮闘するコーデリアが行動してゆく姿を辿るだけで楽しめるなと思いました
確かにストーリーはともかく、人物は魅力的です。女性の存在が際立つミステリの代表とも言える作品でしょうね。
その系譜の一つでもある「ミレニアム」シリーズも、一度読んでみたいものです。