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視点・論点 「指導するということ」

2008年02月29日 | スクラップ
2008年02月28日 (木)

カンザスシティ・ロイヤルズ特別コーチ 白井 一幸




学校、職場などで「指導」と言うことが問われています。指導者の役割が大きいのがスポーツの世界。スポーツの指導論が一般的にも役立つ点、もしくは共通する点があると思います。
指導とは、選手の目標達成をサポートすることであると思います。「俺について来い」的な指導者が多いことも事実ですが、本来は指導者が選手を選ぶのではなく、選手が指導者を選択するべきではないでしょうか。選手にとって選択肢の中の一人であり、その目標達成をサポートできる存在であることが、結果的には師弟関係につながるものだと思います。

あくまでも選手が主体であり、選手の目標達成をサポートするためには、選手が目指す目標を共有しなければいけません。何を目指し、そのために何をしようとしているのかを理解し、共有してこそどのようなサポートができるのかが明確になります。選手が指導者に対して何を求めているのか、それに対して何ができるのかを考えることが大切です。

これまでは指導者が主体になり、手取り足取り教えることこそが指導することと考える人が多かったのではないでしょうか。指導者の持っている答えや理論を一方的に伝えること、教えること=指導となっています。そのため選手は受身であり、その答えや理論を実践することが選手の目的になってしまう危険性があります。より素晴らしい答えや理論を持っているならば、それは選手にとって大きなサポートとなります。しかし、それ以上にその答えや理論を教えるのではなく、選手自身がその答えや理論に気づいてもらうことができたなら、教えることよりより大きなサポートになるのではないでしょうか。教えることより、自らその答えや理論に気づくように導くことこそ指導と言えるのではないでしょうか。この導きこそ指導者が選手にできる最大のサポートだと思います。

導きとは、気づきを促すものであり、そのためにはコミュニケーションは欠かすことのできない重要なものになります。ここでの指導者側のコミュニケーションとは、選手に対して質問をすることです。的確な質問をすることで選手に考えてもらい、そして選手の考えを聞くことに徹することが大切です。選手の返答に対して自分の意見を述べることを控え、質問しては聞き、聞いては質問することの繰り返しのなかで、選手自身が考えを整理し、答えを出してくることこそが気づきです。そのためにはいくつもの的確な質問を用意しなければいけません。これが指導者の能力であり、選手に気づきを与えるためのたくさんの方法論を持っている必要があります。

指導者は、多くの的確な質問を用意する必要があり、そのためにはあらゆる角度から勉強し、そして何より選手をじっくりと観察しなければいけません。直接指導することより、選手を観察することのほうが重要な場合もあります。選手が、自ら試行錯誤しているときは、自分自身で考え、答えを見つけ出そうとしているのです。そのときにはアドバイスを与えることや、手取り足取り教えることより、その試行錯誤を見守ることが、何より大切です。たとえその方向性が間違えていようとも、試行錯誤しているときにはどんなに的確なアドバイスでもそれはプラスにはなりません。逆に、選手の考えをストップさせることにつながるか、もしくは反感を買うことになります。試行錯誤とは、選手自身が自分に対して自問自答しながら、コミュニケーションを図っているのです。その作業の繰り返しから導き出した答えは、指導者とのコミュニケーションから導き出した答え以上に選手にとって大きなものになります。

もし選手が試行錯誤の中から答えを見つけ出せなかった場合、その選手に対して答えを導き出せる用意をしているかどうかが指導者に求められるものだと思います。そのためにも、教えないで観察することのほうがよっぽど難しいことでもあります。教えないで、観察しながら、あらゆる用意をしながらタイミングを計っていることは、周りからは何もしていないように見られてしまうことに不安を覚えます。また答えを持っていながら、それを伝えないことは何も解かっていないとの評価にもつながりかねません。このような他者評価を気にすることが観察を続けることの難しさにつながります。しかし、大切なことは仕事をしていることをアピールすることではありません。指導者の意識が他者評価に向けば、それは選手にとってプラスにはなりません。指導者の意識は、選手のためにどのようにサポートできるか、常に選手に向かっていなければいけません。

それではどのタイミングでアプローチすればいいのかといえば、それは選手が指導者に意見を求めてきたときです。試行錯誤しているときは、選手には聞き入れる準備ができていませんが、選手が意見を求めてきたとき、それは聞き入れる準備ができたときといえます。このタイミングで、選手をじっくりと観察しながら用意してきたものを伝えることができたならば、それはすべてを吸収してくれることでしょう。このタイミングまで待つことで、選手が質問し、そして聞くことを繰り返しながら、指導者の持っている答えを引き出す立場になり、選手にとっては受身ではなくなります。これも重要なコミュニケーションの一つと言えます。上下関係ではなく、フラットな関係で指導者と選手がコミュニケーションを図れることが、本当の意味での師弟関係であり、お互いが成長を助け合うことになります。指導者が選手に一方的に教えることではなく、双方向からお互いが学びあいながら共に成長していくことこそが指導といえるのではないでしょうか。選手が目指す目標達成をサポートすることが指導の目的であり、サポートする過程で、指導者も多くのことを学ぶことができたならこんなに素晴らしいことはありません。

とはいえ、指導の中には教えることも重要な要素であることも事実です。この教えることを、これまでの一方向からのアプローチではなく、双方向からのアプローチ、またいくつかの選択肢があれば、教えることがより有効な手段となります。たとえば「これまではこの考え方が基本とされてきたけれど、このような考え方もできるのではないか」とか「これとこれならどちらが正しいと思う」などと教える中に、選手に考えてもらうことや、選択肢を与えることです。そして教えたことに対して、実際にプレーした選手の感覚を聞くことが大切です。指導者は実際にプレーできないわけですから、プレーした選手の感覚を聞くことで、次に伝えるべきことがより精度の高いものになります。これが双方向からのアプローチになり、教えることも有効な手段となるのです。

これまで指導するとは、をテーマに話をしてきました。私なり実践してきた言葉の使い方やタイミング、考え方などを伝えてきました。これはある意味テクニックの一つですが、テクニック以上に重要なことは、指導者に選手の成長を願う強い思いがあるかどうかということです。選手以上に選手の成功を願う気持ち、この思いさえあれば選手を主体とした指導が可能になります。




NHKオンライン より
               投稿者:管理人 | 投稿時間:23:07
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