種子島より少し小さい土地に約150万人が住むパレスチナ自治区のガザ。外部との往来はイスラエルとエジプトによって厳しく規制され、電気も燃料も食料さえ底をついた。ガザの武装勢力はエジプトとの境界にある鉄壁を破壊し、飢えた何十万もの民衆が買い出しへと殺到した--。
「兵糧攻め」がほころびたのだ。封鎖によって食料や生活必需品が底をつけば、ガザを支配するイスラム原理主義のハマスへの支持は弱まる。イスラエルはそう考えたのだろう。だが、恣意(しい)的に物流を止めて不特定多数の住民を苦しめるのは、非人道的な行為だ。人々が苦しむさまを黙って見ていたエジプトの態度も理解に苦しむ。
無論、ガザを支配するのがハマスでなければ、こうはならなかっただろう。今のパレスチナは、ファタハが治めるヨルダン川西岸とガザに分裂し、イスラエルと米国はハマスと険しく対立している。国内にイスラム原理主義の反政府勢力を抱えるエジプトも、ハマスの動きを警戒している。
ハマスは06年、パレスチナの民主的な選挙で政権を握り、封建的な世俗体制が多いアラブ諸国に衝撃を与えた。真に民主的な選挙を行えば、ほとんどのアラブ国家でイスラム勢力が勝つという見方もある。米ブッシュ政権が最近、「中東民主化」を口にしなくなった一因は、そのスローガンがエジプトなど親米政権を揺さぶる恐れがあると気づいたからだろう。
ハマスをテロ組織とみなすのは無理がある。とはいえ、住民を飢えと困窮に追い込んだ責任は重大だ。ハマスがイスラエルともファタハとも妥協せず武闘路線も捨てないなら、平和と安定への展望も開けまい。ファタハ出身のアッバス・パレスチナ自治政府議長も責任を痛感すべきだ。パレスチナ人全体の幸福を願うなら、両者はまず指導部統一へ努力すべきである。
さらに考えてみたい。私たちはパレスチナの現状に対して、あまりに無感覚になっていないだろうか。
たとえば、イスラエルはパレスチナ人の居住地域へ食い込む「分離壁」を造っている。国際司法裁判所は「違法」とみなし、国連総会も壁の撤去を求める決議を採択した。しかし、壁の建設はなお続いている。
占領地への入植地建設も相変わらずだ。イスラエルに不都合な国連安保理決議案には米国が拒否権を使うのが常だから、「何を言っても仕方がない」という空気が国際的に強まる。そんな現状は変えるべきだ。問題を放置すれば、ブッシュ政権が支援する「08年内の和平交渉妥結」も望めまい。
米国の公正さとともに国際社会の良識が問われている。「屋根のない強制収容所」といわれるガザの惨状を終わらせるにも、国際社会の良識と結束が必要だ。
毎日新聞 2008年1月29日 東京朝刊
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