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皇太子さまの会見を打ち切った宮内庁=真鍋光之

2009年03月07日 | スクラップ




 2月5日にあった皇太子さまのベトナム訪問前の記者会見で、通常行われている関連質問が、宮内庁によって打ち切られる事態が起きた。

 
当時は紙面事情で記事を掲載していないが、重大な問題をはらんでいるため、改めてこの欄で指摘したい。宮内庁は「会見終了予定時刻を過ぎていた」と理由を説明するが、背景には「会見を無難に終わらせたい」という「事なかれ主義」があったと思わざるを得ない。宮内庁担当記者で作る記者会の抗議に対し、宮内庁は非を認めたが、天皇、皇后両陛下や皇族方の考えを詳しく聞く機会は、年数回の会見に限られるのが実情だ。宮内庁の姿勢は「国民の知る権利」を侵しかねず、「国民とともに」という天皇、皇后両陛下の思いとも逆行するもので、残念でならない。

 「これで会見を終わります」。ベトナム訪問前の会見で、事前に予定されていた計3問の質問に皇太子さまが回答し終えると、司会役の東宮侍従が関連質問を受け付けずに一方的に会見を打ち切った。皇室の会見の場合、記者会が事前に宮内庁に質問を提出し、文言の調整などをした上で実際の会見となる。その最後には、記者が回答を聞いた上で行う関連質問を受けるのが通例だ。

 担当記者といっても、日ごろ両陛下や皇族方と直接話す機会はほとんどなく、会見は貴重な機会だ。野村一成・東宮大夫は「予定時間を厳格に守ろうとするあまり関連質問に移ることなく記者会見を終了させた」などと説明するが、宮内庁が関連質問を受け付けなかったのは05年12月の天皇誕生日前の会見でもあった。

 この時も宮内庁は「思い違いをした」などと釈明したが、私は05年の時も今回も、「何が出てくるかわからない」(宮内庁幹部)という関連質問によって、陛下や皇太子さまが回答に苦慮する事態を避けようとした宮内庁の勇み足だと思っている。関連質問としては皇太子さまの公務についてのことなどが想定された。宮内庁の「事なかれ主義」の被害者は国民であると同時に、考えを伝える機会を制限された陛下や皇族方でもあるといえる。

 「事なかれ主義」は、会見だけでなく、陛下や皇族方が式典などで各地を訪問した際の「お声がけ」の時にも感じる。お声がけは、式典の前後や訪問先で、陛下や皇族方が、集まった人たちに直接語りかけ、対話するものだが、十分に時間が取れない場面もある。

 皇太子さまが07年に高齢者が居住する福祉施設を視察に訪れた時のこと。ある女性が、目をつむってベッドに横たわっていた。皇太子さまは説明役の職員と一緒に女性のそばに来たが、職員は女性が眠っていると思いこんだのか、さほど気に留めずに時計を見ながら先を急いだ。このため皇太子さまは女性に声をかけることができず、素通りする形になった。

 だが、皇太子さまは女性が気がかりだったのだろう。福祉施設を一回りすると女性の所に戻り、「いかがですか」などとやさしく声をかけた。すると、目をつむっていた女性が「うわー」と泣き出した。女性は眠っていたのではなく、皇太子さまから声をかけられるのを待っていたのだ。

 陛下や皇族方が各地を訪問する際、分刻みでスケジュールが決められる。警備上必要なことではあるが、周囲に「事前に決められた通りに事を運ぶ」という意識が強すぎて、陛下や皇族方が訪問先の人たちと触れ合うせっかくの機会をつぶしてしまうことが間々ある。福祉施設の時は、皇太子さまの機転によって女性は「置き去り」にされずに済んだが、宮内庁側がお声がけを念頭に置いて、事前に福祉施設の職員らと十分に調整すべきだったと思う。

 宮内庁は1月、これまで多くの式典にあった陛下の「お言葉」を、国会開会式や戦没者追悼式などを除いて原則廃止することを発表した。陛下は昨年末、胃腸炎などで体調を崩し、公務の一部を取りやめている。負担軽減のため、さらに大きく踏み込んだ対応といえる。国民に語りかける「お言葉」がなくなる分、皇室と国民をつなぐ上でより重要になってくるのが、会見やお声がけだ。

 メディアで最近取り上げられる皇室の話題には、家族内の確執などを憶測した興味本位のものが散見されるが、実際は両陛下をはじめ皇族方は、国民の安寧を願い、公務や宮中祭祀(さいし)を日々務めている。会見やお声がけは、その真摯(しんし)な姿の一端を国民に示す機会でもある。宮内庁は「事なかれ主義」に陥ることなく、そのことを十分に認識する必要がある。(東京社会部)


 

毎日新聞 2009年3月6日 0時04分

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