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広島小1女児殺害事件 上告受理=矢追健介

2009年02月28日 | スクラップ




 広島市で05年、小学1年だった木下あいりちゃん(当時7歳)が殺害された事件で、最高裁は被告側が申し立てた上告を今月10日付で受理した。広島高裁が昨年12月、「公判前整理手続きで検察官調書の任意性を争わなかったのは不当」として1審・広島地裁判決(無期懲役)を破棄し、審理を差し戻した判決を取材し、私は裁判員制度について二つの疑問を抱いた。このまま制度が5月に導入されていいのかと思っている。「公判前整理手続き」について、最高裁が明確な指針を示すことを期待したい。

 事件では、ペルー国籍のホセ・マヌエル・トレス・ヤギ被告(37)が殺人罪などに問われた。

 第一の疑問は、公判短縮と真実探求のバランスをどう取るのか、という点だ。

 高裁判決は、犯行当日のヤギ被告の行動に関する検察官調書の証拠調べを地裁が却下したことを、「犯行現場を認定できる可能性があり、充実した公判の審理を継続的、計画的かつ迅速に行うため、という公判前整理手続きの目的に反する」と断じた。

 裁判員制度導入をにらんで公判前整理手続きを実施した1審は、裁判員になる国民の負担軽減を意識し、公判期日を5日間とした。1審の弁護人、久保豊年(ほうねん)弁護士は「5日間では、長い供述調書を読むのは難しい。任意性を問えばさらに時間がかかる。ならば法廷での証言で十分ということになった」と、供述調書が採用されなかった理由を説明。「どこで線引きするか、今も全く手探りの状態だ」と話す。

 広島地検幹部も「少し拙速だった。高裁判決は証拠の絞り過ぎへの警鐘でもある」と認めている。

 もう一つの疑問は、裁判員制度で行われる1審と、そうでない控訴審の関係だ。今回の公判が裁判員制度導入後に始まっていたとしたら、高裁は裁判員が見ていない供述調書を見て差し戻しを命じたことになるからだ。

 新潟大学の西野喜一教授(司法過程論)は「短期間で行われる1審は内容が粗雑になりかねない。それを正す控訴審の重要性が増す」と指摘する。その上で、「控訴審の重要性が増せば国民参加の理念は薄れる。一方で、国民参加の理念を重視すれば1審判決は動かしにくくなる。広島高裁判決で課題が明らかになったことを受け、裁判員制度をいったん凍結して解決を図るべきだ」と指摘する。

 最高裁司法研修所は昨年11月、事実認定に明らかな矛盾や事実の見落としがなく、量刑がよほど不合理でない場合、控訴審は裁判員裁判の判決を「できる限り尊重すべきだ」と提言した。しかし、どこまで尊重するかは明確になっていない。一橋大学法科大学院の後藤昭教授(刑事訴訟法)は「最初は1審判決と高裁の判断が異なることもあるだろう。個別事例を積み重ねた上で一定の基準を形成すべきだ」と話す。

 私は昨年4月から裁判取材を担当している。裁判員制度についても広島地裁での模擬裁判を取材し、裁判員のために分かりやすさを意識した法廷でのやりとりを見て、好感を持った。しかし今は、この高裁判決で感じた疑問が解消されない限り、国民参加という新制度の目的は果たせないのではないかと思っている。

 私の二つの疑問について、日本弁護士連合会「司法改革調査室」嘱託の宮村啓太弁護士は「難しい問題。議論の必要性は痛感しているが日弁連の中でもさまざまな意見があり、まとまっていない」と話している。

 あいりちゃんの父建一さん(42)は高裁判決後、「1審が裁判員制度を見据えたモデルケースとして行われ、そこに問題があったのなら、審理を地裁からやり直すべきだ」と話した。一方で、審理差し戻しという判決については、「こちらからモデルケースの公判で被告を裁いてほしいと望んだわけではない。こうなることが分かっていたら、これまで通りの方法で1審が開かれた方がよかった」と遺族としての心境を打ち明けてくれた。

 上告受理は「高裁判決は公判前整理手続きの目的に関し解釈を誤った」とする申し立てが理由のため、最高裁がこの手続きの進め方について初判断を示す可能性があり、法曹界も注目している。裁判員制度導入後に今回のような「混乱」があってはならない。真実を速やかに知りたいという犯罪被害者の思いや、国民参加の目的に沿う運用が行われることを願っている。(広島支局)


 

毎日新聞 2009年2月27日 0時11分

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