刑法に終身刑を創設することなどを目指す「量刑制度を考える超党派の会」が15日、6与野党の衆参両院議員約100人の参加を得て旗揚げした。年内にも刑法改正案を取りまとめる方針という。1年後に迫る裁判員制度のスタートを前に、刑罰のあり方を問い直す、またとない機会となりそうだ。法案の行方を注視するとともに、国会からの問題提起を市民も真摯(しんし)に受け止め、論議の輪を広げたい。
現行法で死刑に次いで重い刑は無期懲役刑だが、法律上は10年以上経過すれば仮釈放が認められるため、極刑とのギャップが問題視されてきた。会が発足に至ったのもギャップを埋める刑が必要との共通認識があればこそだが、市民感情としても終身刑は比較的是認しやすい刑と言えそうだ。国会では山口県光市で起きた母子殺害事件の死刑判決の後、終身刑の必要論が勢いづいたという。
死刑制度の存廃を議論の対象としないことを申し合わせたため、幅広い賛同者が集まったことも特筆に値する。死刑判決の急増への懸念を募らせる死刑廃止派の議員と、死刑に次ぐ厳刑として仮釈放のない無期懲役刑の導入を求める死刑存置派が、呉越同舟の形で結びついた。成案までには紆余(うよ)曲折が予想されるが、厳罰化を危ぶむ声も聞かれる折、立法府で刑罰を問い直す動きが生まれたことは好ましい。
終身刑は死刑に代わって多用されるのか、死刑とは別に厳刑として採用され、厳罰化を加速させるのか、といった問題をはじめ、不確定な要素は少なくない。裁判員裁判では死刑以外の選択肢が広がる分、裁判員の精神的負担を軽減させるといわれる一方、評議が複雑化するとの指摘もある。諸外国の制度も参考に、是非を慎重に検討すべきだ。
刑務官らが「一生出所できないと絶望した受刑者の処遇は、死刑囚以上に難しい」と、終身刑の導入に反対してきた経緯も考慮されねばならない。最近は無期懲役刑でも二十数年たたないと仮釈放にならず、死刑求刑事件の受刑者は35年以上も服役するようになっているのが実情だ。すでに終身刑化が始まっているとの見方もできるが、終身刑が法制化されるとなれば受刑者の処遇上の対策が欠かせない。恩赦などを活用し、刑務所内のトラブルを回避する工夫も求められる。
論議の対象外にされたとはいえ、注目すべきは死刑制度をめぐる世論の行方だ。各種の世論調査で8割前後が死刑の存置を認めているのは、死刑か無期懲役刑かの二者択一を迫られた影響との分析もある。終身刑の創設を前提とすれば、調査結果に変化が生じる可能性は大だ。世界の潮流が死刑廃止に向かっている折だけに、終身刑の是非を通じて死刑問題にも向き合い、刑罰体系の将来像を描きたいものだ。
毎日新聞 2008年5月16日 0時05分
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