らぷんつぇる**

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『ピダハン 「言語本能」を超える文化と世界観』

2013年01月10日 20時55分02秒 | Books
あけましておめでとうございます。
まだまだ本続きます。
この本は、ピダハンと呼ばれるアマゾンとともに暮らしながら住民の言語を研究したいたキリスト教の宣教師が書いたもの。
私たちが当たり前だと思っている世界観を、この本は見事に覆してくれます。

*あらすじ*
著者のダニエルは、ピダハン語を研究しピダハン語の聖書を作るため、妻・幼い娘・息子とともにピダハンの村に住み始める。
前任者からある程度の情報は得ていたものの、ピダハンの世界観はあまりにもダニエルの世界観とは異なっていた。
戸惑いつつもピダハンに魅せられていったダニエルは、ついには当初の目的であったはずの信仰も、家族も捨て、ピダハン研究に人生を捧げることに…。

そうなんです!!
ビックリすぎるのですが、この著者は宣教師であるにも関わらず、ピダハンに魅せられてキリスト教を捨ててしまうのです。
宣教師が信仰を捨てるってよっぽどのことですよね。。。
彼の奥さんは両親が宣教師で、彼らの赴任地であるアマゾン育ち。
もちろん熱心なキリスト教徒で、布教への思いも強い。
ピダハンの村でこの奥さんと娘はマラリアにかかってしまうのですが、あまりの病状の悪さにダニエルが小さいボートで病院のある町に連れて行こうとすると「信仰を捨てるつもり?!」と抵抗するくらい気丈なひと。
そういう状況で、信仰を捨てるということは家族との離別も伴っていたのです。。
(てか宣教師って赤ちゃんまで赴任地に連れて行くんですね…!)

で、宣教師にそこまでさせるほど魅力的な人々、ピダハンとは。。
彼らの言語体系や世界観はびっくりするほどに私たちとは違っているのです。

まず、自分の体を基準にした「右」「左」という言葉がない。
彼らは常に川の見えるところで生活しているため、川を基準に位置づけをしているそうなのです。
そして、赤ちゃん言葉がない。
彼らの生活環境は厳しいため、子どもでもひとりの人間として扱われているからだそう。
ひとつの単語に複数の修飾語がつくこともなく、文章に入れ子構造が見られない。
例えば、「ダン(ダニエル)が買ってきた釣り針を持ってきてくれ」と言うのには、「釣り針を持ってきてくれ、ダンがそれを買った、同じ針だ」というように。
そして、創造神話がない。
だいたいどの文化にも、この世界がどんなふうにできあがったのかという神話があるものらしいのだけど、ピダハンにはそれがない。
基本的に自分が直接見聞きしたことやものしか言葉にしないらしいのです。

だから、ダニエルがキリストの話をしても、
「イエスはどんな顔をしているんだ?」
「ずっと昔の人だから、私は会ったことがないんだ」
「じゃあどうして、そいつのことがわかるんだ?」
「…」
ということになってしまう。
ここでは、聖書に書かれているとかはまったく根拠にならない。

一番違いを感じたのは、彼らの「死」にたいする態度。
アマゾンの厳しい環境で暮らす彼らには、死は常にそこにあるもの。
だから、妻と娘がマラリアで死にかけて、ダニエルが必死で窮地を訴えても、遠巻きに見守るだけだったのは、彼らから見たら二人はすでに助からない状況にあることは明確であり、助からない人間に手を貸すよりも彼ら自身が生きるためにしなければいけないことが他に沢山あるから。
秘境ともいえる地に、人々を幸せにするという名目で赴任してきながら、その生活は文明の利器に頼り、家族が病気になればさっさと元いた文明の地に助けを求めに行く…それってものすごい偽善だと思う…ピダハンは同じ病気になっても死ぬしかないのに…。
(てかこんなところまできてコーヒー飲む習慣くらい我慢できないのか。。。)
また、ダニエルがある程度ピダハン語を解するようになって、キリスト教の話を始めた頃。
彼は自身が宣教師になるきっかけとなったおばの自殺を語ったのです。
もちろん、いままで彼の話を聞いた人たち誰しもが涙を流したように、ピダハンたちも感じ入ってくれることを疑いもせず。
しかし、ピダハンの反応はまったく予想外のもので、なんと彼らはその話を聞くなり大爆笑したというのです。
「ハハハ、バカだな、なんで自分で命を絶ったりするんだ?ピダハンはそんなことをしない」

命の大切さにきちんと向き合い、幸せに生きているのは結局、ピダハンのほうではないのか?
ダニエルは結局それに気がついて、信仰からはなれて行ったのです。
結局幸せなひとたちに、むりやり別の信仰を押し付けることはできないのだから。
ダニエルの恩師であるバイオラ大の教授の言葉が重い。
「救いの前に彼らを迷わせなければならない」
この先生がどういう立場で言ったのかあまりよくわかりませんが、、これは本当だと思う。

最後にピダハン語にない言葉をもうひとつ。
「心配する」

*データ*
著者:ダニエル・L・エヴェレット
訳者:屋代通子
出版社:みすず書房
定価:3570円(税込)ハードカバー
ISBN:978-4622076537




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