遂にその日が

2010年03月20日 17時33分00秒 | B地点 おむ

 

 

「昨日は、桜の精が夢に現れたっけ」
「だから……今日はきっと、咲いてるぞ」
「調べてみるか」

すたすた
「む!」
「やはり……咲いてる!」
「ああ……」
「長い冬の試練を越え、また春が巡ってきた」
「感慨深いなあ……!」
「先生っ! 咲いたんですかっ?」

たったったっ
「あっ!」
「咲いたよ……」
「遂に咲いたよ!」
「おい、綺麗だなあ」
「……」
おむさんは、返事をしなかった。
いや、できなかったのだ……。

「ふふ。おむの奴、感極まって、言葉を失ったようだな」

「無理もない」
「この冬も、厳しかったからなあ」
「……」
「おい、日が暮れてきたぞ」

「……あ、はい」
「私はもう行くよ。また明日な」

「はい。お気を付けて」
寒くなったので、おかか先生は帰ることにした。
おむさんを独りにしてやりたい気持も、あったのだろう。
おむさんは、桜の巨木の下を動かなかった。
言葉にできない思いで、胸が一杯だったに違いない。