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ロンドンにも、春が来た。
ワトソンは、穏やかな気持で、テムズ河の水面を眺めていた。 |
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うららかな光景である。 |
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だが、水の底に、おぞましいものが……!
「ああっ!? ザリガニが死んでる!」 |
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「殺しだ! ザリガニの惨殺死体だ!」 |
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「えらいこっちゃ! ホおむズに知らせなきゃ!」 |
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「何っ! ザリガニが何者かに喰い殺された?」 |
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「う~む! 久々の凶悪犯罪だ」 |
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「これほど恐ろしい事件を起こすのは……」 |
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「あの男に違いないっ!」 |
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「あの男」とは……そう、ホおむズの宿敵、モリアーティ教授である。 |
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ロンドンを揺るがす凶悪事件のほとんどは、モリアーティ教授が裏で糸を引いているという。 |
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ホおむズは、たちどころに、教授の隠れ家を捜し当てた。 |
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「久し振りだな、モリアーティ!」
「むっ!? ホおむズ!」 |
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「ザリガニを喰い殺したのは貴様だろう!」
「な、何をいきなり?」 |
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「さっさと吐け! 貴様が犯人だっ!」
「り、理不尽なっ」 |
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「証拠でもあるのか、おい?」 |
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「しょ、証拠?」 |
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「証拠は……」 |
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「何もない……」
「ふん。笑わせるな。それでも探偵か」 |
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「いや、証拠はある!」 |
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「貴様の口から、ザリガニの匂いがするはずだ!」
「じゃあ嗅いでみろっ」 |
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くんくん くんくん |
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「おかしい……。匂いがしない……」 |
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「ふん。私は無実だ。墜ちたな、ホおむズ」 |
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「おい、ホおむズ! 防犯カメラの映像が見付かったぞ!」 |
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「な、何っ!」 |
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防犯カメラの映像である。 |
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殺害の様子が、はっきり映っている。 |
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犯人は、サギであった。 |
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ホおむズ、痛恨の黒星である。
しょんぼり |
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ホおむズは、肩を震わせて泣いた。
「うっ、うううっ……」 |
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「何で19世紀に防犯カメラがあるんだ……」
しくしく |