時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

城門は開かれるべきか:外国人・単純労働に門戸開放? 

2018年06月01日 | 移民政策を追って

 

復元されたヴィク=シュル=セイユ(フランス、ロレーヌ)の城門
 

先日、東京山手線のある駅に隣接するコンビニ店に入ったところ、その前の月は4-5人の日本人ばかりだった店員の全てが外国人、それも東南アジア系の男性であることに気づき、一瞬目を疑った。キャッシュレス化したレジでは片言の日本語でも大きな問題はないが、現金のやりとり、商品の質問などについては、仲間に聞きに行ったり、心もとないところもある。他方、人手不足で閉店に追い込まれたコンビニも増えてきたようだ。いずれ、こうした事態が起きることは、かなり以前から予想されていたことではある。

そうしたなかで新たな外国人労働者受け入れ策として、日本語が苦手でも就労を認め、幅広い労働者を受け入れるのを特徴とするという訳の分からない理由の下に、新政策を導入するとの新聞記事を読んだ。2025年ごろまでに建設、農業、宿泊、介護、造船業などの5分野で50万人を越える就業を想定するという。今頃になって、なんとも気の抜けたビールのような感じと言ったら良いだろうか。「働き方改革」法案もそうだが、目先の問題にのみ目を奪われ、来るべき労働市場の構想が見えていないあるいは構想自体がほとんどないままに目前のことだけに対応しようとする政策が多い。上述の5分野にしても日本人が働かなくなった労働条件が厳しい職場がほとんどだ。しかも、仕事上危険が伴う可能性が高く、正確で、微妙な意思疏通が必要な領域だ。日本語での適切な情報伝達と理解なしに、安全で人間的な仕事環境は生まれない。

この国の政策には、成り行きまかせ、あるいはおざなりという印象を与えるものが多い。過去の経験から何も学んでいないとしか思えない。国際的にも悪評の高い「技能実習制度」はその代表だ。以前から労働条件の悪さに失踪するなどの問題が多発している。現代のような情報社会では技能実習生の名の下に、劣悪な労働条件で働く外国人労働者を他へ移動できないよう束縛することは人道的にも問題であり、失踪、逃亡などが発生することも不可避だ。

労働者送り出し国の産業育成のために、日本で習得した技能をもって貢献するという本来の目的は、当初から重視されることはなく、実態は単純労働者を受け入れの隠れ蓑になってきた。制度自体が形骸化してしまっていて、本来目的であるべきであった方向とは全く別のものになっている。

その点の反省もないままに、単純労働者の多数受け入れのために、名前だけはもっともらしい「特定技能評価試験」(仮称)を新設し、合格すれば就労資格が与えられるという。さらに、日本語についても「ややゆっくりとした会話がほぼ理解できる」水準ならよいという。これまで日本語の能力が改めて強調されていたことに、どう答えるのだろうか。受け入れ国の国語能力の向上は、ヨーロッパなどの外国人労働者受け入れに際して、社会的・文化的摩擦や犯罪を防ぐ上でも重要度は増している。そうした点を軽視して、ただ労働力として人手不足を軽減する手段とするのは、格差拡大が深刻化しているこの国の労働市場に、さらに下層の労働者層を作り出すことになる。外国人受け入れは専門性の高い労働者からというこれまでの発言とどう整合させるつもりか。「働き方改革」法案とほぼタイミングを併せての提案だけにその意図は見え透いている。

人口政策に失敗し、激しい労働力不足が避けがたい日本にとって、低熟練の外国人労働者を受け入れることも検討しなければならないことはかねて論じてきた。問題はその方法と時期である。この問題については筆者はかなり以前から可能性を示してきた。しかし、アメリカ、ヨーロッパなどの多くの国がどちらかというと閉鎖的方向にある時に日本がほとんど議論なしに、多数の不熟練労働者を受け入れる政策には疑念を抱かざるを得ない。高度なスキルを持った外国人を優先して受け入れるとのこれまでの政策とは、どう関連するのか。新たな低賃金労働者層が形成される可能性がきわめて高い。

これからの時代を見据えて政府が行うべきことは、現行の欺瞞的とも言える「技能実習制度」を解体し、未来のさらなる人口減少に対応しうる、受け入れ目的が透明な制度を再構築すべきだと思う。このままでは2020年以降の社会的な大混乱は避けがたい。オリンピック以後、訪日の「目的」や「期間」を越えて滞在する外国人は一段と増えるだろう。来日して日本が嫌いになる人もいれば、ここなら永住したいと思う外国人もいる。その中で「移民政策」の名を掲げなくとも、実質的に母国へ戻ろうとしない外国人の数が増加する可能性は高い。今日、EU諸国やアメリカが直面している難問だ。滞在許容年数を長期化するほど、熟練度は高まったとしても、社会的摩擦は増加することは確かめられている。

格差拡大が深刻な問題となっているこの国で、低賃金の外国人労働者を受け入れて、労働者の数だけは確保しようという制度の底はすでに割れているとしかいえない。

 

j
「外国人、単純労働に門戸、建設や農業 25年に50万人超」『日本経済新聞』2018年5月30日

追記:2018年6月6日、TVなどのメディアは、日産自動車が自社の外国人技能実習生45人に、国へ届け出た計画とは異なる作業をさせていたことを報じている。5月には三菱自動車で同様に、実習計画とは異なる作業をさせていたことが分かっている。本来、スタッフなどが充実しているはずのこうした大企業ですら、「技能実習制度」を遵守していないという事実は、度々指摘されるように、いかにこの制度が欺瞞に満ちたものであることを示している。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 怪獣ビヒモスを追って(3): ... | トップ | 怪獣ビヒモスを追って(4): 靴... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

移民政策を追って」カテゴリの最新記事