時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

アメリカ内戦化への懸念と移民政策(1)

2024年02月13日 | 移民政策を追って
アメリカ・メキシコ国境を越える不法移民の推移
〜記録的な水準へ〜
南西部国境、会計年度毎の送還、拘束者数



出所:COUNCIL FOREIGN RELATIONS


日本の将来にとって、アメリカ、中国という2大国の動向は重大な関心事であることは言うまでもない。しかも両国共に最近は不安定要素が急速に増加している。

今回は本ブログの関心事でもある11月に予定されているアメリカ大統領選に関連する移民政策の動向について、最近時の動きを記しておきたい。

この数年、ブログ筆者の頭脳の片隅から去らない大きなテーマは、アメリカが分裂し、暴動化、極端な事態では「内戦化」することを回避できるのかという問題であった。ここでの「内戦」civil warとは、アメリカ建国以来の南北戦争 the Civil War (1861-65)に関わっており、本ブログでも多少記したことがある。ひとつの例は、共和党が入国した不法移民に、民主党優位な北部諸州の都市へ移動するよう誘導し、南部諸州が抱える移民問題を北方へ押し上げようとしているとの問題が指摘されている。


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直接的な引き金となったのは、2022年1月25日号のNewsweek 日本語版の表題『2024年の全米動乱:アメリカ内戦の足音』なる記事であった。表題自体が極めてセンセーショナルで直ぐに手に取った。その骨子は、今年2024年に予定されるアメリカ大統領選で、トランプ前大統領が共和党候補として認められない、あるいは共和党候補として公認されたとしても、100万人を越える怒れるアメリカ人が、武装蜂起をするリスクが高まっているという問題であった。




さらに、より緻密な分析である下掲書からも衝撃を受けた。
 Barbara F. Walter, How Civil Wars Start: And How to Stop Them (English Edition) 2022, Kindle版 2023(邦訳:バーバラ・F・ウオルター(井坂康志訳)『アメリカは内戦に向かうのか』(東洋経済新報社)2023年4月)



本書は、表題がセンセーショナルなこと、アメリカの政治に関する日本人の理解度、アメリカの枠を超えて論じられる広範囲なトピックスなどもあってか、日本では必ずしも十分な評価を得ているとは思えないが、深い内容を包含する力作である。「訳者あとがき」「解題」などが付されていないのが、惜しまれる。アメリカ国内の北部、南部諸州に根強く残る政治的、社会的風土の差異が十分に伝わっていない日本では、本書だけでは理解し難いところが多い。
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民主党バイデン大統領と共和党トランプ前大統領の間には、外交政策、国内政策など、多くの対立点がある。ここでは両者の大きな争点のひとつである移民政策に焦点を当ててみたい。

本ブログでも記した通り、アメリカ・メキシコ国境をめぐる流入する移民への対応についてトランプ政権は「壁」の構築強化を含み、強硬な政策を掲げてきた。他方、バイデン大統領は政権移行してからの急激な流入増加に苦慮し、当初の寛容的な姿勢から転じ、超党派の法案成立に期待する方向へと舵を切ってきた。法案が成立すれば過去数十年で最も厳しい移民規制となると評されてきた。

不法移民、難民、庇護申請者などが急増したこともあるが、移民に寛容的政治姿勢を掲げたバイデン政権にとっては、方向転換は不本意なことであったことは想像に難くない。

しかし、このトランプ政権当時の強硬姿勢に大幅に歩み寄ったバイデン大統領の法案は、トランプ前大統領にとっては大統領選において自らの立場が正しかったことを、バイデン政権に譲り渡すことになると反発が高まったようだ。結果として、移民受け入れをめぐる混乱は、バイデン政権の失政であると批判することで、選挙戦も有利にしたいとの意向が働いたようだ。結果として、共和党の新移民法案成立への支持は急激に弱まり、併せて一括法案としてウクライナ支援を追加する法案も成立が危ぶまれることになっている。

さらに、2020年の大統領選挙の結果を覆そうとしたトランプ前大統領の煽動による「議会への突入」事件に関わる訴訟は進行中であり、ワシントンの連邦控訴裁は、2月6日、トランプ前大統領の訴えを退けた連邦地裁の判断を是認している。しかし、トランプ氏は連邦最高裁に上訴する考えのようで、最終的には連邦最高裁の判断が待たれる状況にある。最高裁判事の中には、トランプ氏の被選挙権を否定しないとの考えを持つ判事もいるとの推測も流れて予断を許さない。そこには、トランプ氏から被選挙権を剥奪すれば、懸念される新たな暴動に展開しかねないとの暗黙の圧力が働いているのかもしれない。

トランプ前大統領は立候補を認められ、「アメリカ・ファースト」の主張が支持され、再選されるのだろうか。他方、高齢が懸念されるバイデン大統領は、再選されても任期を全うできるだろうか。今年の大統領候補をめぐる動きからは目を離せない。

アメリカの政治的環境は例を見ない不安定な状況にある。その中で、帰趨に大きな影響を与える移民政策はいかなる方向に向かうのだろうか。次回は、最近時のアメリカ・メキシコ国境をめぐる移民政策の状況について、整理してみたい。


続く

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