時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

アメリカ移民法改正の行方

2007年05月22日 | 移民政策を追って

  ブッシュ政権にとって、イラク問題に次ぐ重要度を持つ政策課題のひとつは、上下院でいまだに折り合いがつかない移民法改革である。議論が混迷して先が見えなくなっていたが、ようやく妥協のためのたたき台が提示されるようになった。

  ブッシュ大統領と上院の民主・共和超党派議員団は、5月17日、移民に永住権を認める際に学歴や技術・熟練度を重視する項目を盛り込んだ包括移民規制改革で合意したと発表した。この案は、民主党左派のケネディ上院議員と共和党右派のカイル上院議員らが中心になりまとめたことから、議論の振幅を収斂させ今後の議論の軸になる可能性が高いといわれている。

  合意案では、1)国境警備の強化、2)不法移民に一時就労許可を与える、3)一定の条件を満たせば、不法移民にも永住権を認める、などが柱になっており、ブッシュ大統領が提案してきた内容に近い。不法移民を雇った企業への罰則強化も盛り込まれている。

  移民制度改革は米世論を二分する政治問題であり、来年の大統領選挙における焦点のひとつになっている。しかし、農業やサービス業などを中心に、産業界には移民労働力がなければ存立しえないという意見も強い。このため提示された合意案には、学歴や熟練度に基づく永住権枠を徐々に増やす半面、すでに米国内にいる家族と同居するための永住権の割合を減らす内容が盛り込まれている。

  カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、イギリスに続いて、アメリカもポイント・システムを導入し、若い、よく働く貢献度の高い労働者に高いポイントを与える方式を採用することになるのではないか。そして、これまでの移民政策の主流を構成してきた家族の結びつきを重視する方向は、重要度を低下させるだろう。

  難問のひとつは、不熟練労働者の受け入れ数をどの水準に定めるかという点にある。少なすぎれば、枠に入れない者は今まで通り不法入国の道を選ぶからだ。この点について、下院での議論は依然としてかなり分裂していて、日本のメディアが報じるほど簡単には収斂しそうにない。1200万人の不法滞在者を一度、なんらかの形で表面化し、帰国させた上で改めて合法的に受け入れる("touch-back")方式でも、少なくとも8年間を要するといわれる。

  アメリカがいまだに結論を出し切れない移民受け入れ政策の内容は、実は日本にとっても無縁ではない。グローバル化の波は移民政策の次元にも押し寄せている。ヨーロッパを含め先進諸国の移民政策は、それぞれの国の歴史的多様性をとどめながらも、基幹的部分において次第に収斂の動きを見せている。認められる特徴は、移民受け入れ政策を構成する要素間の統合性を強める方向へと進んでいることである。移民政策とは、近い将来の国民を選び定める政策であることを考えれば当然のといえよう。これに反して、わが日本の実態は、外国人技能実習制度の再編論議に見られるように、省庁間の縄張り争いという低次元の段階に留まっている。

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