観察 Observation

研究室メンバーによる自然についてのエッセー

木を伐るということ

2012-06-25 07:39:58 | 12.3
4年 神宮理沙

「木を伐らないから、人工林が荒れていく。」
最初は説明されてもよくわかりませんでした。このことを初めて知ったのは大学1年生の5月で、サークルに入ったばかりの私たちに4年生の先輩たちが嵐山を案内してくれた時です。その時の私は、人工林を管理していく積極的な意味がわからないでいました。使わないのなら、管理する必要なんて無いのではないか。放っておけばいつかスギの木は枯れて、人工林になる前の森に戻るのではないかと、漠然と考えていました。

けれど自分で森に入ってみて、いろんなことを経験させてもらって、いろんな人の話を聞いて、その考えは変わっていきました。
管理放棄された人工林からは土の流出が止まらなくて、山は本当に砂利だらけになっていました。私が活動している森でも、沢が潰されて砂防ダムができました。砂防ダムを作る前にやることがあるではないかと、一緒に活動しているおじさんたちは怒っていました。その人たちは、森は100年かけて1cmしか土を作れないから、雨の日は山に入って土を踏んではいけないと教えてくれました。それだけ土を大切にしないといけないと。そしてこの地域にも木を植え森を育ててきた人たちがいたことを知り、今もそのために頑張っている人たちがいました。
人が木を使う限りどこかで人工林は必要とされる。そして実際に、日本の森の半分弱は人工林になっている。そうであるなら、私も“人工林の中の”生き物のことをもっと考えたいと思うようになりました。

そんな理由で研究室に入ることを決めましたが、具体的に何を知りたくてそのためには何を調べれば良いかもわかっておらず、テーマもなかなか決まりませんでした。
けれど、自分たちが木を伐っている嵐山で、木を伐った効果を調べたいと思いました。間伐しているのといないのとでは森の様子が全然違っていたから、生き物も違うだろうと考えていました。そして、違ったらいいなという願望もありました。きっと、自分たちがやっていることの証明がしたかったのです。管理の仕方によっては、生き物が戻ってくるのだと。

高槻先生からは本当に面白いテーマをいただきました。木を伐れば森が明るくなって植物が増える。では、その植物の先の生き物同士のつながりがどうなっているのか。それを調べるために、花と虫の関係を見ることになりました。
結果は思ったよりきれいに出ました。間伐した人工林では植物は成長して花を咲かせ、虫が来て実が成るものもありました。

卒論発表の予行練習の時、高槻先生に言われたことがあります。「国や林業組織ではなく、一般の人たちが間伐整備してきたことが生き物のつながりを改善することになったのだから、こういう活動がもっと広がると良いということを謝辞のところで入れたらいい」と。
本当にうれしく思いました。たくさんの人たちが頑張ってきたことの効果の一端を卒業研究で示すことができたのだと感じました。サークルと研究室と、両方やっていたからこそ考えられたこと、得られたことがあったと思います。

初めて自分たちで木を伐った時、とても怖かったのを覚えています。大きな木を倒すことに対する単純な怖さもありましたが、いろんな人たちが育て、自分の3倍も生きている木を伐るという事実はとても重いのだと思いました。だから、なぜ木を伐るのか、木を伐ることで森がどうなるのか、その木をどう活かしていくのかをちゃんと考えていかなければいけないと教えられました。

私が今度就職するのは、里山の森づくりを行っているキャンプ場のような場所です。人工林や林業と直接は関係ありません。けれど、何に価値を見出してどう森に手を入れていくのか、どう森と付き合っていくのがよいのかということは、つねに考えていきたいです。






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